ヤンデレ。
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『つつつ、つ、つ、つつ』
『筒?』
『ち、ちがう!!おおお俺と付き合ってくれ!』
『は、はいっ!』
『……え、、、よっしゃあああ!!!!!』
確かそんな感じだった気がする。
さほど遠い昔のことではないのに、あの頃がとても懐かしく思えるのは何故だろうか。
倦怠期とやらなのだろうか。
いや、倦怠期などくるはずがない。好きで好きでたまらないなまえとやっと付き合うようになったのだ。
俺はなまえと一緒にいれる、それだけで幸せなのだから。
「ここのところPちゃんてば迷子にならずに側にいてくれるわね」
「……そうだね」
「ふふ、かわいい」
あかねさんの言うように俺はここ最近ずっとこの町にいる。
今日も朝から風林館高校であかねさんに撫でられたり乱馬のばかと喧嘩したり、ここ最近同じようななんら変わりない生活を送っていた。
昼休み中だというこの時間、あかねさんとなまえは中庭のベンチに座って俺を撫でている。
なぜこの場に来たかというと、ひなたぼっこさせてあげようとあかねさんが言ったからである。
小さくなった俺はなまえの膝に座り、一定の間隔で撫でられながらうとうとしていた。
「でも不思議ね。学校が終わるといなくなっちゃって、朝来るといるんだもん」
なんでかな、Pちゃん。
あかねさんにそう言われた。あかねさんは俺の本当の姿を知るはずもない。
学校が終わるといなくなるのは元の姿に戻ってなまえを迎えに行くからで。
朝から夕方は学校でPちゃんの姿をして、夕方から朝までは良牙としてなまえの側にいる。
一日24時間一緒なのだ。
「そういえば、Pちゃんだけじゃなくて良牙くんも最近ずっといるわね」
「う、うん……、」
ぴくっとなまえの手が反応したのに俺は気付いた。
だが知らぬ顔をして目は閉じたまま。
「まぁ良牙くんはなまえの側にいたいんだろうけど……ね?」
嬉しそうな声色でそう話すあかねさんの表情は見なくとも、きっとにこにこしているに違いない。
なまえがどんな顔をしているのかはわからないが、再び撫でられまたうとうとし出す。
「……そ、うかな……、」
「そうに決まってるわよ。じゃなかったら毎日下校時間に待ってるわけないわ」
「……そ、だよね」
ぽかぽかしてとても気持ちよく、気を抜けばすぐに寝てしまいそうだが、耳はしっかりと機能しているという矛盾。
歯切れの悪いなまえに俺はどうしたのかと気にもなるが、きっとあかねさんが聞くだろう。
「なぁに?どうしたの暗い顔しちゃって……もしかしてケンカでもしたの?」
「そ!そんなことないよ!」
「びっくりした~!もうなまえってば脅かさないでよー!」
「ご、ごめん」
「ケンカじゃないなら、他に何かあったの?」
「ーーっ、」
手が完全に止まった。
なまえの指先がひんやりしているような気がする。あかねさんに何か言おうとしているのか?
「なまえ?」
「あ、あのね……っ、」
額をなまえの手にすりすりとこすり付けた。
ぷぎっ。
声を出してもう一度、すりすり。
「あら、起きたのPちゃん。もしかして撫でてほしいのかな?」
「ぶぃ、ぶきっ!」
「……そう、かもね……、」
あかねさんが一撫でしたあと、再びなまえが撫で出す。この柔らかい手に撫でられるのがたまらないのだ。
「あ、ごめんごめん。話の途中だったね!それで、なんかあったの?」
「……、……ううん!なんでもない!気を使わせちゃってごめん!」
「本当に?」
「本当に!しいて言うならせっかく送ってくれてるのに、私まで迷子になりそうになったくらいだよ!」
「ふふ、あははっ、良牙くんらしいわね」
「で……、でしょー?」
二人の笑い声が風と一緒に通り抜けていく。
それにしても俺の方向音痴を引き合いに出すとは。腑に落ちん。
「あれ?なまえどうしたの、虫にでも刺された?」
「え……、」
「ほら……首元に…………、」
ふわりと抜けていった先程の風になまえの髪がなびいたのか、なまえの首元に虫刺されを見つけたとあかねさんが言った。
合点がいったのか、なまえは自分の首元を咄嗟に手で隠したようだ。ぺちんっと音がした。
「そうそう、昨日やられちゃって、薬塗ってるから触らない方がいいよ」
「そうなの?大変ね」
なまえの首に虫刺されなんかあったか?俺は知らない。
知らないところで刺されたのだろうか。いや、ここ最近はずっと一緒なのだ。少しの変化もあれば見逃しはしないはず。
気になる。
「あかねーっ!」
もやもやと考えていたら遠くから近づいてくる軽快な足音と声が聞こえた。すぐに乱馬だとわかる。
面倒なやつが来ちまったぜ。俺の至福のひとときを奪うのか、こら。
「……こんなとこにいたのかよ」
あかねさんとなまえの前で止まった乱馬を片目を開けてジロリと睨んだ。
俺のささやかな幸せを奪うのか、きさま。邪魔するなよ、乱馬。
「どうしたの、乱馬」
「……あ、えーと、ひなちゃん先生が探してたぞ」
「ひな子先生が?」
「おう。Pすけも連れて行ってこいよ」
乱馬は俺のバンダナを掴むとなまえの膝の上から引き剥がした。
俺の至福のひとときがぁぁぁ。
バタバタと暴れてみせるが効果はなく、怒りのままに乱馬の手に噛みついた。
「ぁにしやがる、この豚っ!」
「やめなさいよ!!」
あかねさんが俺を奪うと胸に抱え、ぶつぶつ言いながらその場をあとにしようとした。
あかねさんももちろん大切な人だが、俺にとってかけがえのない人はなまえだ。一秒足りとも離れたくない。
無理矢理あかねさんの腕から出るとなまえの元へ走り胸元へダイブした。
「……なまえのことが好きなのね」
苦笑いしたあかねさんに罪悪感を感じるが、乱馬などと二人きりにさせる訳にはいかない。
いっそのこと元の姿に戻って学校内をうろつきたいくらいだ。
「えっと、ひな子先生だったよね、行ってくるからっ」
「いってらっしゃい」
「あ、ちょ、待てよ!あかねっ!」
走って遠ざかるあかねさんの姿に焦った乱馬が再び俺のバンダナを掴んでなまえから引き剥がそうとした。
人を何だと思っとるんだ、きさまはっ!!
余りにも腹が立ち、先程よりも思いっきり手を噛んでやった。
「ーーってぇ!」
「乱馬くん!大丈夫……!?」
「くそ、良牙てめぇ……!」
俺の八重歯が結構入ったらしい。
しゃがみこんだ乱馬は手を押さえてわなわなとしている。
その手からはじんわりと血が滲んでいるのがわかった。
へっ、知るか。乱馬、お前が無理矢理なまえから離そうとするからだ。自業自得だ!
「これ、使って」
なまえは制服のポケットから絆創膏を取り出し、同じようにしゃがみむと乱馬の手にそれを貼り付けた。
その行為を俺は間近で見てしまった。
乱馬の手になまえの手が触れたのだ。
俺以外の男に触ったのだ、俺の目の前で。
豚に毛なんてあったか。わからないが毛が逆立ったような気がした。
「悪ぃ。サンキュー、なまえ。……なまえ?」
「……あ、…ぁ……っ、」
血の色が引いた顔でなまえはその場にふらふらとへたりこんだ。
どうやら腰が抜けたようだが、今の俺にはどうもしてやれない。体の大きさうんぬんは置いておいて、俺の気持ちが、ココロが、それどころじゃないのだ。
声を発しようとしない彼女のそんな様子を見て乱馬はなまえの顔を覗き込む。
「どーした、大丈夫か……?」
「……!……だ、大丈夫、ごめん……、」
俺は口元を両手で押さえてガタガタと震え出すなまえに近寄ると膝に登った。
かわいそうに、あんなやつに触れちまうなんてな。俺が消毒してやるからな。
なまえの膝にぐりぐりと額を擦り付けた。
は、と我に返った様子のなまえは震える眼差しで俺を見ると、先程と同じ柔らかい手で俺の額を撫でた。
かすかに震える指先にざわざわと心が騒ぐ。
「……ご、めんね、乱馬くん。驚かせて。大丈夫だから……、」
そのまま俺はなまえの腕の中に抱えられた。なまえはゆっくりと腰を上げ、俺は腕の中からしゃがみこんだままの乱馬を見下ろした。
複雑な顔をしていた乱馬だったが、立ち上がると頭をぼりぼりと掻き、何か言いたげに口を何度も開いたがーー結局何も言わなかった。
「……ちょっと乱馬ぁーっ!ひな子先生探してないって言ってたわよ!どーいうこと!?」
「え?そーだったか?」
重い空気を変えたのは遠くから聞こえたあかねさんの声だった。あかねさんはぷりぷり怒りながら近付いてくる。
思ったより早く戻ってきたが、ひな子先生とやらとは話せなかったようだ。
近くまで来たあかねさんは乱馬にあーだこーだ言っていたが、俺となまえは我関せず。二人を眺めていた。
ほどなくして昼休みも終わり、午後の授業が始まる、と三人は教室へ走り出した。
俺もなまえに抱っこされた状態で一緒にクラスへ向かうと、定位置になりつつある後ろのロッカーに居座るのだ。