負けられない闘い
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「なまえは、この闘いどう思う?」
あかねは隣に立つなまえを見た。
やきもきしている様子の彼女がその瞳に映して追いかけるのは、きっと彼だろう。
なまえが好きなのは……、
「いつもの喧嘩と違う、気がする……。良牙くんの言い方も気になるし……」
「……もし、二人がなまえを好きだとして、なまえを賭けた闘いだって言ったらどうする?」
「な、なに、言ってるの?」
校庭で闘いを繰り広げる二人から、思わずなまえはあかねを見た。突拍子もない言葉に耳を疑う。
乱馬くんと良牙くんが、私を……好き?
そんな、ありえないよ。二人ともあかねのことが好きなのに……。
「そ、そんなこと、あるわけないじゃん。それに乱馬くんと良牙くんの好きな人に心当たりあるから……」
冗談きついよ、あかね。
なまえはあかねをもう一度見た。真剣な眼差しで返されるてしまい、一瞬怯む。
あかねは悪い冗談言うような子じゃない。そんなことわかっているけれど……なまえはあかねからの言葉を、うまく自分の中に落とし込めなかった。
「……最後まで見てたら、わかるはずよ」
あかねはどことなく寂しげに微笑んだ。その笑顔になまえはきゅっと口を結ぶ。
『まだ聞かないでくれ』
そう言った良牙の言葉もあり、核心を有耶無耶にしたあかねになまえは何も言えない。
なまえはぎゅっとスカートを握りしめた。
私が好きなのは……、
すると急に大きな風が同じ方向へ吹き荒れた。
ざわざわと心を乱すような荒々しい風は、乱馬と良牙の闘いを見ているギャラリーやなまえの髪を大きくなびかせた。
闘いを繰り広げる二人になまえは再び目を向ける。
しかし二人の姿は見当たらず、代わりに大きな闘気の渦が。おそらくその中心で今も拳をぶつけ合っているのだろう。
「飛龍昇天破ぁっ!!」
あかねとなまえが話をしていた間、先ほどとはまるで違う体術を見せていた。
良牙の言葉によりスイッチが入った乱馬は、良牙をうまく誘い込み、螺旋のステップに巻き込んだ。ステップを踏みながらも急所をついてくる良牙の技を交わし、自身も拳を出す。二人とももうボロボロだ。
そうして乱馬は最終ステップを力強く踏みしめたとき――奥義、飛龍昇天破を打った。
「もうやめて……っ!」
なまえの声は吹き荒れる風に流され、二人の耳には届かない。
刹那、より一層強い風が大きな竜巻から吹き荒れる。
乱馬は中心にかろうじて立っているが、これは勝負あり、か……?
天まで昇る竜巻のどこかにいるだろう良牙の姿を、なまえは懸命に探した。
『二度とこの町には戻らない。なまえさんにも会わない』
真剣な瞳をした良牙の言葉が、頭から離れない。
この勝負に良牙くんが負けたら、二度と会えなくなるなんて、嫌……っ!
「あっ!」
ようやく良牙を見付けた。
遠くて顔は見えないが、だらんとした手足に意識を失っているのだとわかる。
なまえは思わず口元を両手で押さえ、息を飲んだ。このままだと彼は地面に叩きつけられてしまう。
「良牙が気を失ってるぞー!」
「乱馬の勝ちか!?」
「やっぱ乱馬は強ぇな!」
もう少しで決着がつく。
がやがやと闘いを見ていたギャラリーの歓声が、一気に上がった。大きく吹き荒れていた竜巻は勢いをなくし、少しずつ風がおさまっていく。
うっすら聞こえるギャラリーの声に、良牙は心の中で自身に落胆していた。
お前がなまえさんに抱いている想いは一人のライバルすら倒せないほどの、その程度のものなのか――と。
ああ、この勝負、俺の負け……なのか……?
負けたらなまえさんに会えないな……。
自分が言った発言を後悔してももう遅い。そうか、二度と会えなくなるのか……。
『それじゃ、良牙くん。私は乱馬くんと幸せになるからねっ』
『そういうことだ、良牙っ!恨むなよっ』
『あああっ!待ってくれなまえさーーーんっ!!!』
ぴったりくっつく乱馬となまえの幻影を見た良牙は、幻影の中で二人を追いかけた。
楽しげに笑う二人はどんどん遠ざかっていき、良牙は二人に近づくことさえできない。
そうか、これが二度と会えないということか――。
……なまえさんに二度と会えない……なまえさんに会えない……会えない……会えない…………会え…………、
良牙は幻影を振り払おうとぎゅっと拳をにぎった。すると辺りの空気が、のしかかるようにずしっと重くなる。
「……何だ!?」
「重くて体が動かない……!」
「何だこれ……っ」
校庭の周りにいるギャラリーは突然体にかかった負荷に耐えきれず、中には地面に突っ伏してしまうものもいた。
マイナスの感情と重力が結びつき、良牙の気はどんどん重くなる。
なまえさんに二度と会えないなんて、
「……そんなのは嫌だっ!獅子咆哮弾ーーっ!!!」
刹那、ドーンッと大きな気柱が打ち上がり、重力で下に落ちる。気が沈んだことで、校庭はえぐれるように大きく窪んだ。
良牙が放ったのは、ギャラリーの一部を巻き込んだ最大級の獅子咆哮弾だった。
かろうじて立っていた乱馬だったが、その衝撃をもろに受け、気絶してしまった。
良牙も闘気を使い果たし、気を失うと地面に叩き付けられた。
「良牙くんっ!乱馬くんっ!」
「乱馬っ!」
なまえとあかねが急いで二人に駆け寄っていく。そんな様子をギャラリーたちは固唾をのんで見守っていた。
服は破れ、傷だらけの二人は、俯せに倒れたままだ。
「……渡さ、ねぇ……っ」
ピクリと指先が動き、全身の痛みに耐えながら口を開く。自身を奮い立たせ限界を超えた体を気力だけで動かすその姿に、なまえの瞳がじわりと滲む。
「良牙くんっ!!」
先に目を覚ましたのは良牙だった。
「良牙が、良牙が勝ったぞ!」
「乱馬に勝った!」
「大逆転だっ!」
わーっ!とギャラリーから拍手と大歓声がわきおこる。
そんな賑やかな声すら途切れ途切れにしか聞こえない良牙は、どうにか上半身を起こした。
そして自身に駆け寄ってくるなまえの姿を目に捉え、気が抜けたように一度笑ってみせる。それは年相応よりも幼く見えた、少年らしい笑顔だった。
……これで、なまえさんと二度と会えないなんてことは、なくなるな。
なまえの元に歩もうと、良牙はよろよろと立ち上がろうとした。
……が、もう体は限界なのだ。なまえが駆け寄ったタイミングで、がくんと膝の力が抜ける。
「なまえ、さ……」
片膝をついて耐えようとした良牙だったが、なまえの体になだれ込むようにして、再び倒れた。