笑顔。
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「ここは……どこだ?」
とある住宅街。
突然地面が割れたと思いきや、その中心から大きなリュックを背負った少年が出て来た。
久しぶりに見る日の光にまばゆさを感じた彼はその光を手で遮る。眉を寄せながらも彼は一度空を仰いだ。
どこまでも広がる青がいやでも視界に入った。
「あぁ……なまえ、会いたい……」
ポツリと少年は小さく呟いた。
少年ーー響良牙には想い人がいる。
それは彼が口にしたなまえであり、良牙にとってかけがえのない大切な恋人だ。
しばらく空を眺めていた良牙だったが、光を遮るために額に添えていた手で目を覆った。
(俺は末期かもしれない……)
青い空に浮かぶ白い雲が自分の求めている彼女の形をしているようで、いや気のせいだと思い目を閉じれば微笑む彼女の姿がまぶたの裏に浮かぶ。
それほど自分が彼女を求めていると実感すると共に、それだけ会っていないのだと気づかされる。恋しくなるのも当然だ。
そして考える。
先日、ライバルの早乙女乱馬との戦いに敗れ、悔しさに修行に飛び出たのはどれくらい前だっただろうか。頭にカーッと血がのぼって勢いのまま飛び出たせいで日にちなど覚えちゃいない。
あちこち走り回りしばらく山に篭っていたのだから、おそらく乱馬との決闘から十日は経っているに違いない。
いや、さ迷い歩いたと言っても過言ではないから二週間くらいは余裕で経っているのだろう。
「二週間、か……」
良牙は自ら導きだしたその答えに納得するも複雑な思いにかられた。
修行も大事だが、それほど彼女と会えていなかったのかとまた改めて痛感したのだ。
少し重くなった足を一歩ずつ進めた。
今までの修行だとがむしゃらに鍛練を重ねていたが、なまえが恋人になってからというもの、修行を始めてからある日を境になまえの顔が脳裏をよぎって離れなくなる現象が起きるようになった。それはもう突然に。
無心にならねば、と煩悩を払うのだが考えれば考えるほどなまえのことばかり考えてしまい、瞼を閉じると大好きなあの笑顔が浮かんでは俺の心を乱してくる。
俺自身が彼女に会いたいと求めている無意識のサインだろう。
と自分なりに分析してみるものの……考えている最中ですら彼女の顔が何度もよぎる。
――~~~~~っ、無理だっ!
あんなかわいい彼女を放ったらかしてはおけない!両手でバシッと頬を叩いて気合いを入れて俺はサバイバル用具一式をリュックに押し込むといてもたってもいられず全速力で山を下りた。
理由はもちろん彼女に、なまえに会うために。
全速力で山を駆け下り都会を走り、草原を抜けいつの間にか俺は土の中にいて。
得意技である爆砕点穴の大安売りをしながら地中を進み、ようやく地上に出たものの……自分がいったいどこの町にやってきたのかわからない。
この町は果たしてなまえがいる町なのだろうか?あああそれすらわからない。絶望だ……。
「あぁぁあぁっ!なまえに会いたいぃ――――――っ!!!」
良牙は頭を抱えて絶叫した。心からの叫びだ。しかし住宅街を歩く通行人たちは突然わめきだした少年に目を丸くしていた。
そんな中、彼に救世主がやってくる。
「お!良牙じゃねーかっ」
明るい声が良牙の耳に届いた。
良牙に声をかけたのは、お下げを結った凛々しい顔立ちでチャイナ服を身に纏う良牙のライバル、早乙女乱馬だった。
「ら、乱馬……」
「お久しぶりね、良牙くん」
「あかねさん!」
乱馬とともに乱馬の許婚である天道あかねの姿もあった。あかねは自身が通う風林館高校の制服を着ている。
にこっと微笑むあかねに一度は恋心を寄せていた良牙は思わず口元が緩み、慌てて背負っていたリュックを下ろすとリュックの中から包みを一つ取り出しあかねに差し出した。
良牙が修行に出るとあかねや天道家にお土産を買ってくるのはお約束の流れだ。
「こ、これ、つまらないものですが……埼玉土産ですっ!」
「うわぁ、いつもありがとうっ」
「いいいえっ!」
そんな二人のやりとりをつまらなそうに見ている乱馬は、あかねが受け取ったお土産の文字をジト目で読む。
「”水戸納豆”……茨城か」
埼玉に行ってたつもりだったのかよ。相変わらず方向音痴だな、と乱馬は一つ息をついた。
それにしてもいつ戻って来たんだ?コイツは。
ここであかねに土産を渡すよりも先に会わにゃならねーやつがいるだろーよ。
乱馬はぶつくさ心で悪態をつくと口を開いた。
「おい良牙、なまえにはもう会ったのか?」
「……うっ!ま、まだ……………………、」
グサリ。
そう擬音が聞こえそうなほど、乱馬の言葉は良牙の胸に深く刺さった。
ようやく地上に出たところで乱馬たちに会ったのだ。そんな時間はなかったし、なにより乱馬たちに会っていなければ良牙はなまえがいるのはこの町だと気付くことはなかっただろう。
しゅんと落ち込む良牙を見て、あかねは同じような表情をしていた友人の姿が重なる。あかねはつとめて優しくこう言った。
「じゃあなまえに会いに行かない?」
「あかねさん……っ!」
その一言に良牙の顔はぱぁっと明るくなる。方向音痴なのを理解して発言してくれたあかねの気持ちも嬉しく思う良牙だったが、乱馬からの言葉でその嬉しいは一気に吹き飛んでしまう。
「だっておめー、なまえと三週間も会ってねーんだろ?」
「さささ、三 週 間 っ ! ! ?」
「今日なまえに聞いたのよ。良牙くんと最後に会ったのはいつ?って。そしたら三週間前くらいって話してたのよ」
「おめーあの決闘から一度も帰ってきてねーだろ?そんなんじゃ愛想つかれっぞ」
「なっ!?」
グサグサグサッ。
矢継ぎ早にけしかけられる言葉の数々がまたしても良牙の胸に刺さっていく。
自分は方向音痴どころか時間音痴にまでなってしまったのか!?と疑いたくなる良牙だったが、やっとこの町へ帰ってこれたのだ。
もたもたしている暇はない。早くなまえの元へ行かなければ。
きっと彼女は俺より寂しい思いをしているのだろう。
良牙はぐっと奥歯を噛んだ。
「乱馬!歩いている暇はない!なまえのところに案内してくれっ!」
「お、おぉ……」
良牙の気迫に乱馬は一歩後ずさった。
その勢いのまま家の塀に飛び移る。
「ったく、しゃーねーな。行くぞ良牙!」
「あぁ!失礼します、あかねさん!」
「気を付けてね~」
乱馬に続き、良牙も塀に飛び移った。
乱馬がいたらきっと良牙くんはなまえに会えるだろう。そう確信して寂しげな顔をしていた友達ーーなまえを思うあかね。
早く二人が笑顔になるといいなぁと思いつつ、あかねは乱馬と良牙の背を見送った。
「おめーなまえのこと、ほったらかしにしてんじゃねーぞ」
あかねに笑顔で見送られ、屋根から屋根へ身軽に飛び移りながら乱馬はチラリと良牙を一瞥した。
「なっ!する訳ねーだろっ!」
乱馬の言葉に良牙は声を荒げる。
もっともな反応が返ってくるが、乱馬も乱馬で友達のなまえが切なげな表情をしていたのを知っているので――その表情の原因が良牙であることは100%なのだから――なまえに頼まれているわけではないが、代わりにチクチクと言ってやりたい気分なのだ。
「最近おめーがいねーのいいことに、なまえに言い寄る奴が多かったんだぞ」
「なんだとっ!?」
「俺がおめーの代わりに蹴散らしてやったから感謝するんだなっ!」
……とかなんとか言っときゃー、しばらくはなまえの側にいるだろ。
そう続けられた乱馬の言葉に、乱馬の心の内など微塵も知らない良牙は、真正面から言葉を受け止めたためまるでガツンと殴られたような気分だった。
思わず屋根を蹴っていた足が止まる。
彼氏の俺がいながら知らぬところとはいえ、なんていう目に合わせてしまったんだ、なまえ……っ!!
俺がすぐ側にいてやれたら言い寄る奴を蹴散らしてくれたものを……っ!
良牙は拳を握りぐっと歯を食い縛ると自分の情けなさを痛感した。
「そうとは露知らず……乱馬、お前には借りが出来たな」
「……へ?」
「この恩は一生忘れんぞ!不貞な輩からなまえを救ってくれたことは感謝してもしきれんっ!!」
急に足を止めた良牙の元に乱馬が近寄った。
と同時にボロボロと大粒の涙を流しながら良牙は乱馬に詰め寄ると、恩にきる!!!!!と乱馬の肩をバシバシと叩いた。
「(……あれ、コイツ今の話、信じちまった……?)」
修行をして強くなろうという良牙の気持ちはわかるが、修行で遠距離恋愛になり長く会えずに寂しそうにしているなまえの悲しい表情はあまり見たくない。
友達としてなまえを思い発した乱馬の勝手なでまかせを良牙は信じてしまった。
いやしかし。
根が真面目な良牙がもしこの話がでまかせだと知ってしまったらどうなる……?
なまえのこととなると盲目的になる良牙だ。明日の日の目は見ることが出来ないかも知れない。洒落にならない。
話を信じこんでしまい涙まで流す良牙の姿に少しひやりと背中が寒くなる。
このままでまかせで押し通すか――――?
「すまんな、乱馬。柄にもなく取り乱しちまったぜ」
「や、やぁ気にすんな!そんだけおめーがなまえのこと大事に想ってるってこったろ」
「乱馬……。っ、……あれはっ!?」
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