中編:恋した相手は。
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同じ時間、同じ場所なのに、彼がいないだけで景色が変わるものなんだって、ようやく気付いた。
授業が終わって放課後。
自分の荷物をまとめると、足早にクラスをあとにした。
今日は早乙女くんは来ない日だっけ。……あ、来る日が少ないのに、まるで来ない日が少ないみたいな感じの言い方だ。
ほかのみんなはもう来てるかな。
そう考えながら1年F組の横を通りかかったとき、ちらりと目だけで教室を覗いた。
まだたくさんの生徒がいるのに、彼の姿はもうなかった。
「あかねー、帰ろっ!」
「うん!」
「どーしたの?その荷物」
「乱馬ってばまた忘れて帰っちゃうんだもん!代わりに持って帰ってやってんの」
「許嫁も大変ね~…」
「許嫁は関係ないでしょ!?」
クラスを通り過ぎて階段に差し掛かったとき、後ろから女の子たちの会話が聞こえた。
その会話だけでなんとなく天道さんと早乙女くんの仲の良さを悟ってしまって、少し胸が痛くなる。
関係ない、気にならない、そうであれば忘れてるものなんてほっとけばいいのに。
持ってきてしまうのは天道さんの人柄もあるんだろうけど、やっぱり早乙女くんのこと好きなんだろうなぁ……そう行き着いてしまう考えが自分を苦しめる。
私は急いで階段を駆けおりた。
考えなきゃいいんだ、これから部活なんだから、部のことだけ考えよう。
グラウンドに着くと、部員たちはそれぞれ練習に入っていた。
私はその様子を眺めながら部室に足を運び、マネージャーの仕事に取り掛かった。
今日の仕事はユニホームの洗濯と備品のチェック、毎日作っているドリンクの準備だ。
「ユニホームの洗濯って大変なのよね……」
部室の裏に設置されている洗濯機に、どさどさとユニホームを突っ込んだ。
砂まみれのユニホームは一度洗っただけでは汚れが落ちないので、二度洗うのが部の決まり。
洗濯機のスタートボタンを押して、私はドリンクを作ろうと部室の入り口へ足を進めた。
「最近、早乙女が来てくれて助かるよなー」
「最初は出しゃばんなって思ってたけど、やっぱすげぇもんな」
入り口まであと少し。
建物の角を曲がろうとしたら入り口の前で、同じ1年の部員たちが話し込んでいる声が聞こえた。
話に加わろうと、建物の陰から足を踏み出したと同時に発された言葉に、私は思わず足を踏みとどめた。
「そーいや早乙女となまえって付き合ってるかもしれねーらしーぞ」
「え!まじかよ!」
え!まじかよ!
……は、こっちのセリフなんだけど!?
思ってもいなかったその言葉に、私は固まってしまった。
それは……どういうこと?
「俺が先輩から聞いた話じゃ、早乙女はサッカー部以外のピンチヒッターは断ってるらしーぜ?」
「なんで?」
「さーな。まー、早乙女の都合もあるかもしれねーけど、他のは断ってんのにうちだけ来るって不思議だろ?」
「言えてるな」
「そんで、早乙女がサッカー部にこだわってる理由があんなら、なまえなんじゃねーかって話らしいぜ」
「なるほどなー」
「って言っても早乙女には天道あかねがいるしなー。本当のところはわかんねーらしい」
「んだよ、ガセかもしんねぇじゃねーか」
「ははは、どーなんだろーな」
そんなやり取りをしていた二人は、誰かに呼ばれて部室の前から走り去っていった。
部室の前に誰もいないのを確認すると、私は急いで部室内へ駆け込んだ。
「~~っ!」
単なるウワサ話。
私と早乙女くんは付き合ってないから、ガセネタなのだけど。
どうしよう、ドキドキがとまらない。
私はその場にへたりこんだ。
ウワサ話がどこまで広がってるかわからないけど、そんな風に思われているなんて考えてもいなかった。
早乙女くんがピンチヒッターとして来てくれてるのは大事な試合があるからで、私は全く関係ない。
なのに付き合ってるかもしれないって、どういうこと!
このドキドキがこっそり聞いてた緊張感からなのか、なんなのかもわからなくて。
早くこのドキドキがおさまってくれと、このときばかりは祈るしか出来なかった。
…………ウワサ話でも、彼と付き合うことが出来ているなんて、ちょっぴり嬉しいと思った私は変なのだろうか……。
To be continued...
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