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よく晴れたとある日曜日。
「煮物たくさん作っちゃったから、お裾分けしようと思って」
「喜ぶと思いますよ」
「そうだと嬉しいわ。それじゃあお願いね、乱馬くん」
「はーい」
かすみさんにお使いを頼まれた。
一人暮らししてるあいつに持ってって欲しい、と。
かすみさん、もしかしたらわざと多めに作ったのかな?わかんねーけど。
風呂敷に包まれたタッパーを抱えて道を急ぐ。
って、道をちんたら歩くより近道すりゃーいーんだ。ひょいひょいっと塀を乗り越え、屋根へひとっ跳び。
こんなの朝飯前だ。
「乱ちゃーん!」
呼ばれて振り返ると店の前を掃除しているうっちゃんがいた。うっちゃんの元へ下りる。
「よっ、うっちゃん」
「乱ちゃん、今な新作のお好み焼き出来てん。食べてってや?」
「ほんと?あ、けど俺、ちょっと用事あっから……」
「そんな言わんと、時間取らへんて!な?な?ほら、入りぃや!」
「あ、あー、うっちゃーん……」
首根っこを掴まれずるずると店の中へ引きずり込まれる。
椅子に腰掛けるとうっちゃんは厨房へいき、慣れた手つきでお好み焼きを焼いた。
「お、うめーな、これ」
「せやろ?自信作やで」
「やっぱうっちゃんのお好み焼きは最高だな!」
「いややわ、もう、乱ちゃんたら!……あ、そんで用事って何やったん?」
俺はうっちゃんに今から届け物をする旨を伝えた。
「そうなん?せやったら、うちのも食べて欲しいわ。お好み焼き持ってってやー!」
「おー、りょーかい」
うっちゃんから新作のお好み焼きを受け取ると店を出た。
また人様ん家の塀を走り進める。
しばらく走っていたら背中に衝撃が。
「どわっ!!?」
「乱馬!」
「……シャンプー」
背中への衝撃、それは自転車で突っ込んできたシャンプーだった。
「こなところで会える!私たち運命の赤い糸で繋がてるね!」
「あのなー、」
「乱馬、今猫飯店、肉まんの試食会やてるある!来るよろし」
「俺、用が」
ばしゃ。
シャンプーが水をかぶっ……あ、
「ね"え"え"え"え"こおおおおおおお」
「みゃお~~」
猫いや!猫いや!猫こわいいい!!!
だだだだだっ。
俺は無我夢中で走り続けた。
だって猫が!後ろから!いやだあああ!!!
「おや、婿どの。シャンプーに呼ばれてきたか?」
「はー……はー……」
気付けば猫飯店にいた。
キョロキョロと周りを見渡したが、俺を追い掛けていたシャンプーの姿はない。
げ、シャンプーにうまくはめられた。
「ほれ、突っ立っとらんで、座るといい」
「あ、お、おぉ……」
「なんじゃ乱馬ぁ!おのれにゃ、おら特製のムームー肉まんはやらねぇだ!」
「んだよ、ムームー肉まんって……」
ムースはアヒルの形をした変わった肉まんを持っていた。
あー、そぉいやおめーなんかの祭んとき、ムームーって言ってたな。
するとまた背中に衝撃が……いや、シ、シャンプーに抱き付かれた。
「こら、引っ付くな!」
「乱馬、肉まん食べるよろし」
「あのなぁ」
「はい、あーん」
「……ったく、まぁーた傀儡芝入れてんじゃねーだろーな」
「あいやー、入れればよかたね」
「入れんなよ……」
一口食べた肉まんはおいしかった。
きっとばあさんが作ったに違いねぇ。味は間違いない。
「うめーな」
「ほっほ、気に入ったか婿どの」
「あぁ、何個でもいけそうだ」
「おばばの料理は何でも美味いだ」
「そうね、ひいばぁちゃんの腕、ピカイチある」
「そーだな」
「そういえば乱馬、用事何あるか?」
「あー、」
かすみさんに頼まれた煮物と、うっちゃんから預かったお好み焼きを届けに……。
説明が長くなってら。
「そしたら肉まんも持っていくよろし!いいね?ひいばぁちゃん!」
「あぁ、持って行くとよい、ムース!箱を持ってこい!」
「準備してあるだ!」
「え、おい」
俺のことそっちのけでばあさんは箱に肉まんを詰めていく。
すると厨房にいたムースがこちらへ近付いてきた。
「おい乱馬、おらも行くだ」
「は?別に俺だけで」
「い!く!だ!!」
「……そぉ」
「ムース、どこ向いてるか」
シャンプーが呆れて呟く。
ムースが壁の置物に指をさして叫んでいたのには、面倒臭くて触れなかった。
「時間食っちまったぜ……」
猫飯店を出て(おまけにムースも付いてきて)再び急ぐ。
もらった肉まんはムースが抱えて目的地へ。
「やっぱよー、なぁんでおめーも付いてくるんだ?」
「悪いか」
「や、その、なんつーか、」
「今度おらが肉まんを作ったら食べたいと言ってただ!だから約束したんじゃ」
「ふーん」
ちょっと気に入らねえ。
「おらのムームー肉まん食べてもらうんじゃ~~」
「へー」
いつの間にそんな約束してんだよ。
いや、別に付き合ってる訳じゃねぇから誰とどんな約束しようが、俺には関係ねぇことだけど。それでも気持ちがもやつく。
「それに」
「それに?」
「乱馬一人抜け駆けで会うなど許せん」
「ほぉー?」
なーんだ、ムースも似たようなこと考えてんじゃねぇか。
ちらっとムースを見ると視線がかち合う。
そう簡単に二人にさせねぇってか。
ばちばちと火花が散った気がした。
「その後ろ姿は、乱馬さまっ!」
「え"」
恐る恐る振り返るが、この声は。
……あー、やっぱり……。
「お休みの日にこんな所でお会い出来るなんて、嬉しいですわっ」
「よ、よぉ小太刀」
「もう少しお洒落をしてくるべきでした。では、乱馬さまっ、参りましょう!」
「えっ」
小太刀は俺の腕に抱きついてきた。
ちょ、ちょっと待て!!
「俺は今用事の、(ばしゃ)……途中で……え?」
「ひっ!おさげの女!?」
腕を払いながら用事があると言っていると、いつの間にか濡れて女になっていた。
「なんと忌まわしい!あなた、乱馬さまをどこへやったのです!!?」
「あ、あっちの方に行ったぜー」
「なんですって!?乱馬さま、お待ちになって~!」
慌てて取り繕い、小太刀は俺が指をさした方へ走っていった。
鬱陶しい前髪をかきあげ、ムースを見た。俺に水をかけたのは他の誰でもない、こいつだ。
「サンキュー、ムース。助かったぜ」
「時間が惜しいからの、おのれのためじゃないわっ」
「へーへー、そうですか」
「ほれ、さっさと行くだ」
「そうだな」
ムースが俺に背を向け、塀に飛び乗った。俺もそれに続こうと足を踏み出……せねぇ。
先程の猫飯店と似た、背中への軽い衝撃。そしてぞわぞわっと虫ずが走る。
「愛おしい、愛おしいぞおお、おさげの女~~っ」
「く、九能センパイ……おい!離れろよ!!」
「あぁ、なんと愛らしいのだぁぁ」
「だー!もう!!」
「おい、こららんま!何してるだ!」
「うっせーな!俺のせいじゃねぇっての!!」
すりすりと頬擦りしてくる九能センパイに鳥肌が立つ。
「さぁ、僕と愛のメモリーを刻みに行こうではないか!!」
「でえええい!ええ加減にせいっ!!!」
思いっきり殴ってやった。
九能センパイはお決まりのポーズをしながら飛んでいったが、早く男に戻って届けないと!
「全く、世話の掛かるやつじゃの」
「うるせー」
ムースがどっかしら持ってきたお湯で男に戻ったが、本当に助かった。
それよりかすみさんに頼まれてからどんだけ時間が経ってんだ?
「早く届けるぞ!」
「どの口が言うんじゃ」
「う、うっせ!ていうか、おめー、一人で行こうって思わなかったのか?」
「もちろん思っただ」
「じゃーなんでわざわざ俺を待ってんだよ」
「くくくくっ……、それはおらが……」
「んだよ?」
「家を知らんからじゃあああっ!!」
髪を振り乱しながらムースが叫んだ。
なーるほど。
俺に付いてきゃ家を知れるって思った訳か。
ちょっとばかしの優越感を味わう。
なんだかんだで、あーだこーだ言いながら走って見えてきた目印。あの角を曲がればすぐだ。
やっと着くぜー。
……だが、何だ?この胸騒ぎは……。
「爆砕点穴ーっ!!!」
「うわっ!」
「なんじゃ!」
ドオオオンという大きな音と共に、良牙が道から出てきやがった。
たまらず踏みつけてやる。ムースもそれに続いた。
「おめー、いきなり沸いてくんじゃねぇ!」
「驚かせるでない!!」
「ぐぇっ」
地面から這い出てきた良牙はボロボロだ。どんだけさ迷ってたんだ、こいつ。
「乱馬にムース……ということは俺は帰って来れたんだな!?」
「良牙に構う暇はないだ、行くぞ乱馬」
「おー」
「行くってどこに?」
「そりゃあ決まっとる!」
あーあ。
ムースが行き先をバラしちまった。
「なんだと!?俺も行く!」
「おのれに行く理由はあるだか!?」
「お前こそ会いに行く権利はあるのか!?」
「おらはおばばとシャンプーに頼まれた肉まんと、おら特製のムームー肉まんを持っていくだ!!」
「俺だって修行中に見つけた土産を持って行くんだっ!!」
二人が俺そっちのけで騒いでいる。
ん?これチャンスじゃねーか?
そろりそろりと忍び足で二人に気付かれないようにその場を離れようとした。
「じゃがおらは家を知らん!!」
「俺も場所がわからん!!」
「……」
「……」
「と、なれば」
「と、いうことは」
三歩ほど歩いたところで、いや~な視線を感じて振り返る。
「な、なんだよっ」
「「置いていくなー!!」」
「だあああうっせえ寄るな!!!」
「あら?乱馬?」
「どーしたの?みんな揃って」
良牙とムースに迫られている最中、呼ばれた声の方を向くとあかねがいた。
その隣には俺の(いや、俺たちの)目標人物も。
「あ?あかね……ぐえっ」
「おら特製のムームー肉まんを食うだ!」
「えっ、ありがとう!」
「くうううっ、嬉しいぞおおっ」
「あ、あの、こ、これお土産ですっ」
「ありがとう!ういろう…愛知に行ってたんだね?」
「は、はい!愛媛に!!」
ムースと良牙が俺を押し退け、それぞれ何かしらを渡していた。
あかねがその様子を苦笑いしながら見ている。
「相変わらずねー、」
「ってー……あいつら、踏みつけやがって…」
「もたもたしてるからよ」
「るせー」
チクチク言うあかねに悪態をつく。
俺だって好きで踏み潰されたんじゃねぇーっての。
そんな俺を見てか彼女が声をかけてくれた。
「大丈夫?乱馬くん」
「あ、あぁ」
「しゃきっとしなさいよ、しゃきっと」
「小姑かおまいは」
「小姑なんて失礼ねっ!」
「乱馬のやつは大丈夫ですよ、いつもケンカして慣れてますし」
「そうじゃそうじゃ、あれしき心配せんでもいいだ」
「お~ま~え~ら~なあああ!!!」
ぱんぱんっと服のホコリを払い、ムースと良牙を押し退け、彼女の前に割り込んだ。
二人がぎゃーぎゃー騒いでんのがうるせぇけど、やっとお使いの任務完了だ。
「これ、かすみさんから煮物と、あとうっちゃんから新作のお好み焼き」
「ありがとう!」
「やっと終わったぜー」
「お疲れさま」
微笑まれてどきっとした。
この笑顔を見ると、ここに来るまでどたばたしていた苦労が一気にふっ飛ぶ。
「えと……乱馬くんからは、ない……よね?」
「え?」
「かすみさんと右京からでしょ?乱馬くんからはないのかなーって……」
「あ、」
そうか、渡したものは全部頼まれたやつで。ムースも良牙も自分の渡したかったものだ。
あー、んなこと考えつかなかった。急にムースや良牙に負けた気がした。
「悪い、俺からはねーんだ」
「そっか……じゃあ」
今度一緒にお出かけしない?
「え、」
「なに!?」
「なんじゃと!?」
「あら」
ぽかーんと固まる俺の手を取り、小指を絡ませてきた。
「ね、約束!」
「お、おう」
顔が赤くなるのがわかった。
思ってもみなかったことだけに心臓がどきどきする。
はにかんだ笑顔がとてもかわいくて、今度出かけるときは花でも持っていこうと俺は決めた。
「ムームー肉まんおいしいね!」
「嬉しいだ~!」
「ういろうもおいしいよ」
「ホントか!!」
「右京のお好み焼き、新作なんだよね?」
「あぁ」
「かすみお姉ちゃんの煮物も美味しいわよ!」
「おばばの肉まんも食うだ!」
たくさんのお土産はみんなでシェアしたそうです。
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らんまらしいテンポの良さを出したかったのですが、難しいー!