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「最近寒くなってきたな。」
「冬が近づいてきてるからね」
夕暮れ。
肩を並べて歩く俺達の横を小さい子供たちが駆けて行く。早くなる日没と、冷たい風が冬の気配を少しずつ感じさせる。
くしゃ、とビニール特有の音が鳴った。俺の右手にはスーパーの袋が二つ。先程買い物を済ませて来たところだ。
数日前に戻ってきてからというもの、俺は恋しい彼女のお世話になっている。
彼女は訳あって一人暮らしをしているため、俺が彼女の家にいても誰一人として咎めるものはいない。
別にやましい気を起こしたりはしないが(……いや、ちょっと起きそうになるときもあるが)日々荒修行を重ねている俺にとって、彼女と二人でいるということは、とてつもなく至福な時間であるため、邪魔するやつがいないのは本当に嬉しいことなのだ。
「これからは鍋が恋しくなるな」
「そうだね」
スーパーで見た鍋特集の看板を思い出す。
タダで世話になるわけにもいかないので、家事を手伝ったり、こうして夕方には一緒に買い物に出掛ける。
こうやって何の変哲もない会話をしながら歩いたり、買い物をするだけでも俺は幸せだ。
「良牙は鍋料理すき?」
「あぁ、好きだぜ」
「じゃあ次に買い物行ったとき、鍋特集のコーナー見てみる?」
「あぁ、いいな。でも俺は、」
……お前が作った料理ならなんだって好きなんだがな。
嬉しそうにはにかむその笑顔を間近で見れるのは、彼氏の特権だ。つられて俺も微笑む。
するとびゅう、という大きな音と共に冷たい北風が吹く。
俺より一回り小さい彼女が肩を揺らした。
「寒いか?」
「ちょっと」
たいしたことは出来ないけど。
左手を伸ばして、小さな右手を包む。驚いた顔をした彼女が俺を見上げる。
だめか?と聞けば、小さく首を振る。なんてかわいいんだろうか。
指先から伝わった熱が体中を駆け巡って、胸をじん、と熱くさせる。
ちらりと視線を向ければ、髪の影から覗く幸せそうな顔。
自分から起こした行動だというのに、恥ずかしくて視線を反対側に向ける。
「は、早く帰って、め、飯作ろうぜ」
「う、うん……」
夕焼けにも負けない赤い顔をした男女が道を歩いているなんて滑稽だな、なんて考えたりする。
……でも、この熱が当分冷めないで欲しいと思っているのは、きっと俺だけじゃないんだろうと思った。
END.