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じりじりと焼けるような暑い夏のとある日。
あなたが発した「かき氷食べたいね」の一言で、男三人――乱馬、良牙、ムースの火花が散った。
「いいですね、かき氷!俺が作ります!!」
最初に声を上げたのは良牙だった。
ニッと牙を見せ、あなたにいいところを見せようとその瞳はギラリと輝く。
これはまたとないチャンス……っ!いいところを見せ、彼女のリクエストに応えるいい男だと、俺は株を上げてみせるぜ!
良牙は不敵な笑みを浮かべながら、四方30cmほどの大きな氷の塊を前に立つ。
なぜいまここに氷の塊があるのは、ご都合展開ということで触れないでおこう。
「爆砕点穴ーーっ!」
良牙は氷の中心を狙い、人差し指でついた。
ドーンッ!大きな音と共に、氷はがらがらと音を立て崩れ落ちていく。下からおおよそ5cmほど氷の塊は残っているものの、あとは全部砕け散ってしまった。
氷の前で良牙はぽかんとした表情をして、呆けている。
「……え?」
「え?じゃねーぞ良牙!その技じゃやる前から結果見えてただろーが!」
「そうじゃ!誰が砕けと言っただ!」
乱馬とムースから怒鳴りつけられる良牙は、やってしまった……と意気消沈の様子。いいところを見せるどころか、残念な姿を見せてしまった……と顔を青くして良牙はおそるおそるあなたの方へ視線を向ける。しかし砕け散った氷を拾うあなたの姿に目を丸くする良牙。
「す、すみません。つい力んじまって……、」
「ううん。まぁかき氷は厳しいけど……これだけ細かく砕けられたら、冷たい飲み物飲みたいときにいいね!」
「な……っ!」
「せっかくだからみんなの分のお茶用意するね」
あなたの言葉にぱあっと顔を明るくして涙を浮かべながら喜ぶ良牙は、よりあなたのことを好きになっているよう。
な、な、なんて優しいんだ……!!否定せず、怒りもせず、ポジティブな返しをしてくださるとは、なんてお優しいのだろうか……!彼女の優しさについ甘えてばかりいるが、くうう今のはすごく嬉しいぜっ!
良牙がひとり胸をじ〜んとさせて喜んでいるなど気づかぬまま、爆砕点穴で細かくなった氷をグラスに入れ、四人分のお茶を注ぐあなた。
出された冷たいお茶をぐいっとあおり、また一人の男が立ち上がる。
「ふん、良牙のようなヘマはせんわい。次はおらがやってやるだ」
「ヘマだとぉ!?」
次に氷の塊の前に立ったのはムース。
爆砕点穴で飛び散った氷の塊を見て、鼻で笑ったムースに良牙はやじを飛ばすが、彼には届いていない。
白く長い長袍(チャンパオ)の裾が揺れる。暗器の達人であるムースの武器は、どこからどんなものが飛び出すかは本人しかわからない。
ふっ、良牙よ。つまらん見栄を張りおって。お主が前座をしてくれたお陰で、おらの格好良さが引き立つと言うもんじゃ!格好いいところを見せる絶好の機会、逃すまい!
良牙同様、あなたにいいところを見せようと意気込むムースは、ふっふっふっ……と怪しげな笑みを浮かべた。
そして彼が袖から取り出したのは、三本の鋭い爪がついた鉤爪。手の甲から長く伸びる爪をキラリと光らせ、ムースは叫ぶ。
「秘技白鳥拳、鉤爪乱れ切り!」
シャキンッと刃物特有の鋭利な音が聞こえた後――先ほどと同じようにガラガラと音を立て氷は崩れた。
氷は長方形やスライスされたものなど、鉤爪の形のままカットされ、良牙の氷同様にかき氷の氷にはほど遠い。
「……ん?」
「ふはははは!ムース、貴様も俺のことを笑えた口かよ!」
「う、うるさいだ!おのれの砕け散った氷よりましじゃ!おらのはキレイな長方形や板になってるだ!」
「ぐっ…!し、しかしかき氷にはならんぞ!」
ぎゃーぎゃー騒ぐ二人を、乱馬は頬杖をつきながら呆れた顔して見ている。
「おめーら、かき氷作る気あんのかー?」
独り言のように軽口を叩いてみせると、ピクリと反応した良牙とムースはギッと乱馬を睨みつけた。
「ほ〜お?ということは……乱馬。お前はこの氷の塊で、かき氷を作れるってことなんだなぁ?」
「余裕たっぷりならおらたちに見せてもらいたいもんじゃのぉ?」
いやに怖い笑顔を見せる二人に、あなたは落ち着きなよ……と言うのですが、乱馬は全く気にしておらず、むしろニッと爽やかに笑う。
俺にはハナから勝ち筋が見えてっからな!俺の技に、ムースのアレを拝借すりゃ……最初から出来たレースだったってことだぜ!
やたら自信満々な乱馬は堂々と氷の前に立つ。
「はっ、こんくれぇ朝飯前だぜ!てめぇらとの格の違いってやつを見せてやらぁ!」
ムースが使っていた鉤爪を手にした乱馬は、無差別格闘早乙女流の構えを見せ闘気を高め、叫ぶ。
「火中天津甘栗拳――っ!」
自身の必殺技を繰り出す乱馬の手は目で追えないほど速い。シャンプーの曾祖母、コロン直伝の女傑族の技だ。
そして自信たっぷりだった乱馬の言葉を裏付けるように、氷は細かく削ぎ落とされ、隣に置かれたガラスの器へ綺麗な弧を描きながら重なっていく。
重なるふわふわの氷を目にした良牙、ムース、あなたの三人は思わず目を見張ります。
「あの氷の塊からかき氷が出来ている……!?」
「おらの鉤爪を利用して、高速で氷を削り落としているだか!?」
目にも留まらぬ速さで氷が削られていく。
技を繰り出しながら乱馬はチラッとあなたへ目配せし、乱馬の技をキラキラとした瞳で見ている姿に心でガッツポーズを決めていたとか。
そしてあっという間に三人分のかき氷が作られていき、流れるようにシロップをかけた乱馬は満足げな顔をしてみせた。
「っし、お待ち!早乙女流特製かき氷の完成だっ!」
とんとんとん!とリズムよく三人の前にかき氷の器が並べられていく。
良牙の爆砕点穴で砕け散った氷、ムースの長方形やスライスされた氷とは比べ物にならないほど、細やかでふんわり削られた氷が乗っている。
ごくりとのどを鳴らした三人はスプーンでひとすくい。
口に運ぶと、その冷たさと味に三人は声を上げて喜ぶのだった。
「見た目通りの繊細な氷……くっ、我がライバルながら見事な出来……っ!」
「口当たりの良さと、氷の均一さ……おばば直伝故になせる技……っ!」
「ふわふわのかき氷美味しいよ、乱馬くん!」
「お、おぅ!おめーがそー言ってくれんなら、作った甲斐があったぜ……」
先ほどまであーだこーだやじを飛ばしていた良牙とムースは、かき氷の美味しさにあっさりと負けを認めた様子。何度も口を運び、涼と季節ならではの味を堪能している。
乱馬はあなたの喜ぶ顔を見て、心臓がどきりと高鳴るのを感じていた。さっきまでの威勢の良さから一変し、ほんのり頬を赤らめた彼の言葉が少しずつぎこちなくなっていく。
「乱馬くんのかき氷なら何杯だって食べれるな〜」
「〜〜っ!おめーがいいなら、別に俺は何杯だって作ってやるけど……」
人差し指をつんつんしながら、唇をつんとさせ照れた様子で話す乱馬。鉤爪が当たってキシキシ音を立てているが、本人はあなたを前にその音は気にならないらしい。
「ほんとか!?」
「今の言葉に嘘はないだか!?」
すると乱馬の声に反応したのは良牙とムース。
珍しく恋敵でライバルの乱馬に明るい笑顔を見せ、二人は声を揃えて言う。
「「かき氷、おかわりっ!」」
すっかり空になった器をびゅっと乱馬に差し出し、おかわりを求める二人。
あのなぁ!かき氷を食べたいって言い出したのはおめーらじゃねえだろ!てめ〜らに作ってやるって言ってねぇ――――、と乱馬が口を開こうとしたタイミングで、あなたも声をあげるのです。
「乱馬くん、私もおかわり!」
屈託のない笑顔に面食らう乱馬でしたが、目をぱちくりさせたあと、眉を下げてくはっと一度笑う。
あーあ、この笑顔にゃ敵わねーや。ここはコイツに免じて……。
「しゃーねぇな!全員分作ってやるよ!」
「さすがだな、乱馬よ!」
「気前のいい男じゃ!」
「嬉しい、ありがとう!」
乱馬の声に三人がわっとわきます。
かき氷を作り始めたときはバチバチと火花が散っていた男たちも、すっかりその美味しさに意気投合したよう?
あなたの嬉しそうに笑う顔を見て、三人はどきどきと胸を高鳴らせながら、かき氷で自身の内に湧き上がる熱を抑えるのに必死。
そんな中でも各々抜け駆けしないようにあなたの隣の席を奪い合ったり、同じシロップをかけたいと揉めたり、あなたを巡る闘いは、しばらく続いたよう。
そして暑い夏の日に食べるかき氷の美味しさに味をしめた乱馬、良牙、ムースの三人が、今度は二人きりでかき氷を食べに行こうとあなたにお誘いをして再び争うのは――――また別のお話。
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