「翼ぁーッ！クリスぅーッ！」
翼「おお、乃愛ッ！」
ク「…乃愛」

廊下で翼とクリスを見つけた乃愛は、走ってきた勢いのまま二人に抱き着いた。
翼は笑いながら受け止めたが、クリスはビックリしたのか固まってしまった。

「あっはは！クリスってば驚いてる♪」
翼「乃愛が抱き着くなんて日常茶飯事だろ？」
ク「い、いきなりは誰だってビックリするよ…」

これが乃愛なりのコミュニケーションの一つである。
だがしかし、乃愛の身長は三人の中で一番低い。
加えて言えば細身である。
原因は乃愛の育った環境にあった。
数年前に翼がクリスを助け、先生と仰いだ弦十郎の元でいつものように二人で修行していた時だった。









翼『なんか喉が渇いたなぁ…』

山での修行。
ちょうど休憩に入った事もあり、翼が口を開いた。

ク『近くに川がないか探してみる？』
翼『いいな、それ！先生、ちょっと行ってくるよ！』

休憩だと言うのに元気一杯な翼のあとを着いて行くクリス。
後ろから「あまり遠くには行くんじゃないぞ」と忠告を受け、しっかりと耳に留めた。
森の中を歩くと案外簡単に川を発見した。

翼『あった！』
ク『待って翼、あれ…』

クリスが指差した方向に翼が目を向けると、立ったまま川面を見つめている一人の少女がいた。
しかし着ている服はボロボロで靴も履いておらず、顔は泥だらけ。

翼『…クリス、下がってろ』
『……』

明らかに怪しい奴だと踏んだ翼はクリスを下がらせ、少女に近付いていく。
それに気付いた少女は、ゆっくりと視線を二人に移す。

翼『こんなとこで何やってんだ？しかもそんな格好で』
『……わからない』
翼『は？わからないって…』
『気付いたら…ここにいて……』

聞くところによると少女は自身の名前は愚か、どこから来たのか何一つ覚えていないと言う。

ク『…ねぇ翼、先生の所に連れて行こう？そうしたら、きっと先生は助けてくれると思う』
翼『そうだな。見た所、オレ達と歳も変わらないと思うし……よしッ！お前、一緒に来いよ』




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