「乃愛さん…？」
「やぁ翼、数日ぶり。ツアーはどうしたの？」

亡くなった父の墓に訪れたのは、翼だった。
乃愛を苗字で呼んでいないのは、彼がそうしてくれと翼に頼んだからだ。

「無事終えました。昨日から休暇を貰い、暫くは実家にいようかと」
「そう。お父さんも喜ぶよ、きっと」
「ええ」

父の墓前で柔らかい表情をする。
今までの垢が抜けたかのような、"晴れ晴れ"とした…

「乃愛さんは、どうしてここに？」
「あ、そこ聞いちゃう？まぁ…放浪してたら、いつの間にか…って感じかな」
「…一体どこに住んでるのですか」
「………………」
「…………まさか本当に」

乃愛の無言を肯定と捉えた翼は驚いた。

「し、仕方ないでしょ！家は随分前に取り壊されて…家族だって早くに亡くしててS.O.N.G.で世話になってたんだから」

翼は地雷を踏んだと思った。
まだ翼が奏と出会う前、乃愛は弦十郎に保護されている。
乃愛もまたノイズの被害者だった。
翼よりも年上と言っても幼かった乃愛に、残された家の家賃を払えるわけもなく、業者によって取り壊されてしまう。
奏と似た境遇もあってか、乃愛と奏が仲良くなるのも時間はかからなかった。
そしてそこから翼を含め、当時の二課で世話に。

「…すみません」

奏の死を乗り越え、ルナ・アタックから始まり神様と対峙。
一時は護国の鬼として、防人としての務めを果たそうと躍起（やっき）になっていた頃もあった翼。
長い時間乃愛と過ごしてきた日々があったのにも関わらず、軽率な発言をして申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「済んだ事だから気にしないで。でも…まぁ、そろそろどこかに身を置かないといけないよね」
「でしたら一つ提案があります」
「ん？」




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