与えられた夢の先

「ゆー」

昼間にも関わらず二条館の廊下は静か。
僅かに庭から鳥の鳴き声が聞こえる中、柚葉の小さな囁きがそこに混ざる。

「ゆー…」

もう一度言うと、前方から呆れた顔でその人物は現れた。

幽「ですから柚葉様、某は"幽"と何度も申しております。"ゆー"と語尾を伸ばすのではなく…」
「うん、知ってる」

言葉では感情が籠っていないように思えるが、柚葉の表情はいつもより緩やかだった。

幽「はあ…どこをどう間違えたのか、柚葉様がますます一葉様に似てこられて…」
「一葉姉と…似てる?」
幽「ええ。どこか確信犯染みた所がそっくりです」
「……似てる…?」

自覚のない柚葉からしてみれば、幽の言葉がどうもしっくりこないらしい。
くすりと笑みが零れる幽だが、「ところで」と話を切り出した。

幽「某に何用ですかな?」
「双葉姉、知らない?」
幽「双葉様ですか。双葉様なら今一葉様の自室におられるかと」
「…」

それでは意味がないのだと言葉にはしなかったが、柚葉はふるふると首を振った。
何か理由があるのだと幽は思って聞いてみると、一葉には聞けないのだとか。

幽「なら某ではどうですかな?」
「…幽も忙しいから」

先の"ゆー"と違いちゃんと言ったものの、目の前にいながら言えない事とは何なのか。

幽「忙しいとは?」
「だって…一葉姉と幽は仕事が多いから、双葉姉に聞くしか出来なくて…」

つまりわからない事があれば双葉に聞こうとしたのだが、肝心の一葉の下にいるのならば意味がなかった。
幽も(主に一葉からの)仕事が多く、聞くに聞けなかったのだとか。
だが実際、現在柚葉がしている仕事に一葉の分も含まれているが。

幽「それにしても、柚葉様は変わられましたな。これも剣丞殿のおかげ…と言うべきでしょうか」
「?」

たぶらかしなのはいただけないが、とは言わずにいた。




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