「…なあエリナ」
エ「何？」
「俺達、普通の家で生まれて本当の兄妹だったら…今と違ってたのかな」
エ「お兄ちゃん…？」

どれだけ『普通』が羨ましい事か。
ヴァンスの名は世に知れ渡っている。
領もある。
父はそれだけ"立派"なのだ。

「けど…」

だが、逆を言えば今までの出来事があったからこその"今"がある。
それは事実。

レ「あ…お兄様、エリナ」
エ「お姉ちゃん…」
レ「…エリナ？」

そこにレイナがやって来る。
しかし、いつもならエリナは「お姉ちゃ～ん！」と言いながら飛びついて来るのだが、それがない。
それはそれで不振に思ったレイナはライキに目を向ける。

レ「お兄様…何かあったのですか？」
「いいや？何も。しいて言うなら、昔を思い出していただけだよ」

エリナと話している間、ライキは思い出していた。









それは幼い頃、エリナが産まれる少し前の事。
雨の降る日に崖から落ちそうになったレイナをライキとクローデットが助けた。
クローデットは屋敷に戻るまでレイナの手を握り、ライキはそんな二人を後ろから見守りながら帰った。
しかし使用人達からの目は冷たく、次期伯爵であるレイナだけを心配した。
びしょ濡れのままクローデットは玄関で立ち尽くしていた。

『クローデット』
ク『…兄上様？』

いつの間にかライキの手にはタオルが二枚。
一つは自分に、もう一つはクローデットに。

『しっかり拭いとかないと風邪引くぞ』
ク『…ありがとうございます』
『レイナは特別だからな。父さんの後を継ぐ唯一の跡取りだし』
ク『……』

二人の視線の先には、使用人達に濡れた体を拭かれながら手の怪我を治してもらっているレイナの姿。
それを無表情のまま、クローデットは見つめていた。

『…レイナが憎いか？』
ク『え！？あ…そ、そんな事は…ないです』

慌てて訂正するが、ライキにはお見通しだった。
そんなクローデットにライキは何も言わず撫でてやる。




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