「…ヨシ…テル、様」

なぜノアだけが生かされているのか。
それはヨシテルにしかわからない。
ただの気紛れなのか、はたまた別の理由があるのか。

「ああ、また暴れたのですか。折角の肌に傷が付いてしまいますよ」

元々白かったノアの肌は暫く日に当たってないからか、更に白さを増していた。
そこに鎖から抜け出そうと藻掻（もが）くうちに、肌が擦れて切れてしまったのだろう。

「何で…こんなっ…！」
「"これ"の事ですか。こうしなければ、ノアは逃げ出してしまうでしょう？」

ジャラ…と音を立てながらヨシテルは鎖からノアの繋がれた手首へと滑らす。
傷に触れないように手首から腕、頬へと移動させる。
ヨシテルの手がノアの頬に触れた瞬間、ノアはそのあまりにも冷た過ぎる手にビクリと肩が跳ね上がった。

「っ…」
「ノア」
「…な、に」
「私が怖いですか？」

赤くなった瞳の奥で炎が揺らいだ。
今となっては、あの暖かい青みがかった緑の瞳ではなく燃え盛るような赤。

「……」
「邪魔者はいない。そう…誰も…」

誰も私を虐（しいた）げる者は…

「…ヨシテル様」
「何ですか？」
「何で…泣いてるの…？」
「え…？」

そう言われたヨシテルは手を目元にそっとあてると、初めて涙が流れ出ていた事に気付いた。




.