「ふむ……良き世の中になった」

あれから数年。
偶然とは言え自分の助けた小さな娘が、ここまで成長するとは思ってもいなかった。
肉体的にも精神的にも。
本当に強くなったと感じる。
仲間も増え、共に戦い、助け合い、ここ桃花村で長い時期を過ごした。
これなら、あの子の側を離れても問題はないだろう。
娘同然に育てた子。
自ら離れるにしても、本音を言えば少しだけ名残惜しかった。

愛「雷騎様？こちらにおられましたか」

雷騎は桃の木を見上げていた。
そこに余程捜したのか、息を切らした愛紗がやって来る。

「どうした、我に入用でも？」
愛「あ、いえ。そうではなくて……何だか嫌な予感がしたので」
「ほう。それは？」
愛「……雷騎様が何処かに去ってしまわれる気がしました」

虫の知らせと言う物だろう。
しかし、強（あなが）ち間違ってもいなかった。
自分はここにいなくても、この村や民達…仲間達がいる。
必要がなくなったのだ。
自分の…

「……」
愛「雷騎様？」
「その時が近いやもしれぬな」
愛「なっ…」

何故ですか、と消えそうな声で雷騎に問いかける。
しかしこんな時でも雷騎は冷静だ。

「我はもう年だ。それは愛紗もわかっておろう」

弓の名手・黄忠こと紫苑よりも年上の雷騎。
しかし年上だと言っても、たった数歳だけ。
隠居するにはまだ早い。
ただ、力のある若い者がここには沢山いる。
今更一人いなくなった所で、何も変わりはしない。

「愛紗。其方（そなた）は恵まれておる」

本当の家族でなくとも、姉の桃香と妹の鈴々もいる。

「これも運命（さだめ）よ」

わかっておくれ。
我が放浪の旅に出ていたのも。
愛紗と出会ったのも。
この村に立ち寄ったのも。

全ての行動が決められていたのも。

これは天の導きなのかもしれない。

愛「それでも！私は雷騎様が助けて下さらなければ、ここまで来れませんでした！」

愛紗の目からは涙が溢れそうになる。

「…泣くでない。綺麗な顔が台無しになってしまう」

これでは我が泣かせてしまったようではないか。




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