「…いいのですか華琳様？」
「放っておきなさい」
「はあ…」
「今のあの子には自由が似合う。それを如何に飼い慣らす事が出来るか…ふふ」
「龍…ですね」

乃愛が戦場に出て功績を上げる度に、各地ではある噂が広まっていた。

魏には"龍の子"がいる。

相手を爪で引き裂く。
その姿は、まるで龍に成り立ての子が残した爪痕。
いつしか本人が知らぬ内に、そう呼ばれるようになったのだ。









「ん？乃愛、今は確か桂花から勉学を教えてもらっていたのでは？」

中庭から移動した乃愛は、行く先から竹簡を持った秋蘭と鉢合わせた。
しかし、やっとあの場から離れる事が出来た後に、またその話とあれば。

「逃げた」
「……そうか」

帰って来た答えに、一瞬何と言ったらいいか迷った秋蘭だった。
始めの内は春蘭も秋蘭も乃愛に対してあまりいい印象ではなかった。
だがそこは共に華琳を守り、国や民を守ると誓った同志。
自然と打ち解けていった。

「秋蘭」
「どうした？」

何か言いたげな目で訴える乃愛に優しく声を掛ける。

「春蘭か霞はどこにいる？」
「姉者と霞か。二人なら鍛錬場に……ああ」

乃愛の言いたい事がわかった秋蘭は頷く。
一緒に鍛錬出来る人はいるか、だ。

「行っても構わんぞ。今なら二人共喜んで受けてくれる」
「秋蘭は行かないのか？」
「ああ、私は仕事があるのでな。時間が空けば行ってやれん事はないが」
「そうか」

曖昧な返事だったが乃愛は納得したのか、それ以上何も言わず鍛錬場へと足を向けた。

「しかし…姉者を物静かにしたら、ああなるのだろうか」

最も、その人にそれを言っても無駄なのかもしれないが。




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