翡翠の薔薇17
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ギャリーside
ギャ「……………」
ーーー冷たい…
ーーー凍える
ーーー…………痛い
ーーー…冷えきった指も足も…身体中が痛い
………でも胸も痛い……苦しい、…苦しいんだ……
『ーーーまたお探しですか?』
顔を上げるとメイド服の女性がいた
「…イヤになっただけさ」
疑問を言おうとした口からは他の言葉が出てきた
そして視線は下を向き草をかき分けながら何かを探す
『旦那様が書斎を出る頃です、早くお戻りになられた方が…』
「…いいんだよ、あのクソじじいのことなんか」
きつい口調で言い心配する女性を見ることなく探し続ける
『…いけません。もしあなたがお屋敷から抜け出したことを旦那様が知ったらまたーーー』
「イイんだよどうだってっ」
大きな声ではないが女性を黙らせてしまうのに充分な威圧がある
震える拳を更に強く握ると草が引きちぎれた
「…もうとっくに自分のことはやったよ……そしたら後は自由でいいだろ…」
『……なら、失礼して私も混ざります』
失礼します、と言って女性は隣に屈んで草をかき分ける
「…………皆は、さ…」
『はい』
「宿題とか習い事とか…自分のことやったら自由に好きなことやってんだろ」
『…』
「家に帰る前に友達とカラオケとかゲームセンターとかどっか寄り道したり、学校に残って駄弁ったり友達の家に遊びに行ったり……
皆そうやって楽しんでんのに…………何でさ……こっちは…それができないんだろうね…」
『………ですがこんな理不尽な生活も来年で終わります、お嬢様は2年間耐えてきました あともう少しの辛抱ですよ』
「……………」
『大丈夫です、私達はあなたの味方でいますよ、ずっと』
顔を上げると女性は夕日に照らされて優しく微笑んでいた
それを見たら何か胸がすっと軽くなり晴れたような気分になった
ーーーーーーー
鈍い音が辺りに広く響き床に倒れた
後から感じる右頬の痛み
殴られたのか
『仕事をサボって何をやっていたんだこのグズ!』
しゃがれた声で怒鳴られ腹を蹴られた
軽く吹っ飛び背中に固く鋭いものがぶつかった
「っ……ゲホッ」
『言われたことも満足にできないくせに遊んでる場合かっ!考えろカス!』
その場でうずくまったまま頭を腕で守りながら必死で上からくる蹴りに耐える
『夕飯も風呂も抜きだっ、さっさとこれを終わらせて部屋に戻れこのグズ!』
グリグリと頭を踏みつけたのを最後に足音は去っていった
乱暴にドアを閉める音が辺りに反響する
ゆらゆらとゆっくりした動作で起き上がり周りを見渡す
目の前には長く続く廊下、後ろには大きな扉
ここは玄関ホールか
扉の正面に二階への階段が左右にあり、その階段の隣にさっき見た長い廊下がひとつずつある
階段の手すりの柱の角で背中を打ったらしい
足や腕に腹、頭…
身体中痛くてゆっくりとしか動けない
玄関の扉に立てかけられているバケツとモップを手に取り外へ出る
外に出ると赤く染まった景色に包まれた
玄関前の階段の掃除をしながら夕陽に照らされた景色に心が和んでくる
「~♪…~♪」
夕陽のおかげで気分が良くなってきて口ずさみながらバケツを持ったが
「っ!」
水で手を滑らせ途中まで持ち上げたバケツが足に落ちた
足にバケツの角が当たり床に水が広がる
「…~っ」
鈍い痛みが足首に響く
服の裾をあげて見てみると青痣に当たったらしい、更に赤く腫れていた
一気に気分が重くなった
それに連携するように足から力が抜ける
水溜りとなったそこに膝がつくと水がピシャリとはね周りに小さな水玉模様を作った
広がった水溜りを見るとそこには幼い愛しい人の顔が映っている
ーーー…##NAME1##?
右頬は赤く腫れ左目の周りは青く痣がある
その表情は唇を噛み締めて涙を堪えていた
「………クソッ、クソッ、…くそぉっ……」
石造りの階段、赤く夕陽に照らされた水溜りのなかで座り込んでいる影を深い青に染まっていく空が見下ろした
ーーーーーーーー
『お嬢様、湯加減の方は如何でしたか?』
濡れた髪をガシガシと拭きながら声の方に目をやると先刻外で話したメイド服の女性
「いい湯加減だった、…さんきゅ」
風呂上がりの火照った顔に更に熱が集まるのを感じそっぽを向いた
それに女性は小さく笑う
『さぁ今日の夕飯はトマトパスタです、食後のデザートはチョコレートケーキですよ』
「ほ、ホントかっ!?」
『準備していますので髪を乾かして来て下さいな』
「私も手伝うっ、待ってくれ!」
くすくすと女性が出て一人、髪を乾かそうと鏡台を覗き込んだ
セミロングの黒い髪、整った幼さの残る顔立ちだが赤く腫れた頬に顔や肩、腕など体中にある痣を見ると痛々しい
「ドはドン引きのド♪ レは劣化のレ♪ ミはミジンコでぇ♪……」
そんなのはさして気にしていない様子で鏡に映る##NAME1##は髪を急いで乾かしさっさと片付けている
「さ、ちゃっちゃと終わらせないとクソジジィにバレちまうぜ面倒くせぇ」
パタパタと慌ただしく部屋を出て行った##NAME1##
ーーーこれは夢か…?
鏡に映っている姿は##NAME1##、その体を動かしているのも##NAME1##、何かを考え言葉を発しているのも##NAME1##
ただ、視点や感覚を彼女と共有しているのが自分だ
この体を自由に動かせるわけでも何か言葉を発するために口を使えるわけでもなく、ただ##NAME1##の感じていること、起こった出来事を体感しているだけ
でも今は##NAME1##が見ていた誰も映っていない鏡が見える
ーーー……どうなってんだ…
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