翡翠の薔薇18
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ーーーどうして、こんな
相手の方が冷たいのか、それとも悴んでいる自分の方なのか…両頬に添えた手からは何も感じない
ーーーあんな、訳のわからない所から…頑張って来て、
瞼すらピクリとも動かないその頬が柔らかくて、ただ目を閉じている人形の様に思える麗しい肌が憎たらしく思う
ーーーやっと会えたのに
「………ふざけんな…っ」
涙で視界がぼやけ、喉から出した声は情けなかった
ーーー…認めない…こんなの……認めない、確かめてやる…まだ、生きてるって証拠を…
悴んだ手をそのまま下におろし、逞しい首にそっと添える
動脈を探して首を軽く押して確かめるがうまく見つからない
「…………」
脈すら探せないなんて自分は下手くそだな、と言い聞かせ、目についた左手首に手を伸ばす
「………ホントに、へったくそ…」
さっきと変わらずうまく見つからない
右手首に視線を移すと白いものに気付いた
「…ほうたい?」
ーーーなんで、包帯なんか…?
……………あ、そういえば…
ふと記憶に出てきたのは緑の部屋
そこで突然、絵画が割れてその破片がギャリーの右手首に刺さってしまった光景
ーーー……包帯代わりに使ったんだっけな…
そこまで考えてある事が浮かんだ
「………もし、低体温症になっていたりしたら…」
ーーー右手首の傷……凍傷になってしまう可能性もある…
「………はやく、あたため、ないと」
温めるにもこの場所に火なんて無い
あったとしてもギャリーの持ってるライターくらい
当然ライターじゃ部分的な箇所くらいでも溶かすのは限界だろう
それにこんな冷凍庫のような所にいたらギャリーも自分も本当に死んでしまう
「………あれだ」
辺りをぐるりと見渡して氷に覆われた壁の中に紫色を見つけた
急いで紫のドアに向かう
が、立とうとした足は力が入らずすぐに転んだ
「…チッ」
ーーー役立たず
また立とうとしても腕も足も力が入らない
仕方なくそのまま四つん這いでドアに向かい、時間をかけやっとの思いでドアノブに手をかけた時には息があがっていた
だがドアは氷のおかげで開ける事はできない
ーーー…ギャリーのライターでドアノブの氷を溶かすか?
後ろを振り返り、動かないギャリーを見て考えた
だが思い返せばたった数秒で行けるようなこの距離を何倍もの時間をかけて来た
それに身体の方も起きた時より動かなくなってきている
ライターを取りに往復する体力はない
ーーー…よそう、他に何か………固いもので殴りでもすればこの薄い氷ならすぐに剥がれそうだ
固いもの、で思い出したミランダという女性からもらった懐中時計
ーーー………流石にあれは死にかけていたせいでみた夢だから…
試しにさらしを探ってみると固く長い物に当たりチャラ、と軽い音がした
「…………」
引っ張ってみると長めの鎖にさきの鋭いフック、ある町並みの風景が彫られた懐中時計
何故持っているのか、訳がわからず混乱するがほお、と吐いた白い息に我に返った
ーーーこのフックの鋭さなら、…いけるかもしれない
鋭いフックの先でドアノブを殴った
ガリッ、とドアノブの一部が欠けて周りにヒビが入る
ーーー……時間かかるかもしれないけど、やるしかない
これをドアが開けられるようにするまでには時間がかかる
それまでこの残り少ない体力が持つか不安になった
とにかく余計な事は考えず冷静に、と心の中で呪文のように呟きながらドアノブを殴り続ける
深呼吸をしながら力の無い腕を振り下ろして何十回殴ったか覚えてないがやっとドアノブは回せるようになるまで氷が取れた
「…よし……」
早速ドアを開けようとドアノブを握ったところであることに気付く
「……あ」
ドア全体が凍っているのだからドアノブだけ氷を剥がしても周りも剥がさなければ意味が無い
ーーー………まだ、体力は残ってる
疲れなど感じないが身体が言う事を聞かない分いつ動かなくなるのかうまく予想がつかない
「……ぜんぶ、溶ければ…いいのに」
思っていた事がついぽつりと口に出た
『貴女が思った事に魔術は反応してくれますよ』
すぐ後ろから声が聞こえた気がした
「!?」
すぐに振り向いたけれど誰もいない
「……どういう、」
ーーーカランッ
呟きを遮り目の前を何かが通り過ぎて軽い音を立てた
足元を見ると薄く平べったい氷の欠片が転がっている
上に目を向けるが天井も壁も相変わらず凍ってきらきらしていた
「…………」
こんな冷凍庫のような所で氷の欠片なんて落ちるか?
なんだか嫌な予感がする…
急いでギャリーの元に戻ろうと身体を引きずるように移動した
もうすぐで手が届く距離に来た時、嫌な予感が的中した証拠が降ってきた
ーーーカランッ パラパラ・・・カシャンッ
そこらじゅうに落ちる氷の欠片
それは一気に増えた
ーーーカシャカシャ、カラッガシャガシャガシャガシャガシャッ…
「…!」
ーーーやばいっ、ギャリーが…!
半ば強引にギャリーを抱き寄せ庇う
まるで豪雨の様に高い音が鳴る
頭や背中、腕に何か当たっている感覚はあるが痛みは感じなかった
皿が割れる音みたい…、なんて呑気に考えていると氷の雨の音は突然ピタリと止んだ
しん・・、とした静けさが戻ってきても警戒しながらゆっくりと顔をあげる
ーーーキィ・・・
後ろでドアが開く音に肩は意識的には動かないくせにこの時だけ跳ね上がるように動いた
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