*悪食のおにいさん
マリナードタウンの市場は朝は競り、夜は屋台で昼夜問わず活気が絶えない。
彼は山盛りの揚げてタレをかけた魚の大皿とビールを手に、慣れた足取りで人混みを抜けて空いてる席に座る。
席はふたつ。約束の時間はざっくりとしたものだから、食事をしながら待つつもりだ。
ごくりと喉を鳴らしてよく冷えた薄いビールを流し込む。おいしい、と呟いて熱い茶でも啜るように残りをちびちび飲み、揚げた魚をつまむ。
2杯目のビールがなくなるころ、肩を小突かれた。
「ヒース、待たせたな!」
「フリード!」
フリードは気安い笑顔でヒースの横に座る。両手に持ったビールを一杯はヒースにわたし、軽くカツンと鳴らして勢いよく流し込んだ。
ごくりごくり、喉が大きく動く。
「あー!うまい!」
本当にうまそうに飲むな、と笑ってスマホロトムで追加のビールと何品か料理を注文した。中座したくないから、できあがったら席まで持ってきてもらえるように依頼する。
「操縦もあるし、船にいる間は飲めないからな。たまにだから最高にうまい!」
「しっかり飲むといい。それで、今回はどこいってたんだい?」
料理の皿を押し出して促した。
ヒースはフリードの冒険の話が好きだ。
また彼はいくつかの雑誌に連載をもつ職業作家であり、話の内容によっては小説に使う。
話に水を差さないように小さくメモをとりながら、皿とグラスをどんどん重ねていった。
「で、明後日あたり子供達はボウルタウンで聞いた情報から珍しいポケモンを探しにいく予定だ」
「黒いレックウザか。僕もなにか聞いたら連絡するよ」
フリードは頷いた後、アルコールで赤くなった顔でヒースを見て悪い顔でニヤリと笑った。
「で、最近の悪食はどうだ?」
「悪食って言い方が嫌だけど、それなりに」
ヒースもまた同じく悪い顔で返す。
「近頃はアカデミーの子をちょくちょく拾うよ。スター団っていわゆる不良集団の支部が解散したせいで行き場がないってさ」
「子供は…」
「食べないよ。健全に食事をさせて休ませて、元気になったらアカデミーに送ってサヨナラ」
しらふに戻りそうなつまらない話が始まる前に遮って話を終わらせる。
ぬるくなったビールを飲み干してへらりと笑った。
「僕も君も、子供に手を出す趣味はないだろう」
子供に、を強調して言う。
ヒースがフリードの手を引くと、彼はすんなり立ち上がり酔ったふりして肩を組むと身体が少しこわばった。
「かーわいー!」
肩を抱き寄せてからかうと、かわいいアレルギーになりそうだとフリードがぼやいた。
それでもされるがままに肩を組んで歩き出す。
ヒースの悪食をフリードはよく知っている。
男しか、というその性癖はそれなり付き合いがあるが過去にちらりと聞いただけだった。事実彼は女性に対しては常に紳士で、踏み込ませない壁があった。
それが今は触る手、向けられる視線、たわいもない話し、すべてが親密で性的でこの後を考えると鼓動が増してくる。
着いたのはヒースのアパート。
海の目の前、少し他の家と離れた場所。
戸を閉め、金属の鍵をカチャリと回す。「もう逃げられない」とでも言うように、その音がやけに大きく響いた。
side ヒース
困ってるような若者に食事を奢り話を聞くのは僕の趣味だが、それを悪食と称されるのはわずかに癪に触る。
手を握りアルコールと緊張で冷たい指先に、わざとちゅっと音を立ててキスをした。
「僕は悪食だけど大食いだから、残さずぜんぶ食べるよ」
悪食とからかったことが悪手だったとフリードは気まずそうな顔をするが止める気はない。
爪の先、手の甲とキスをして軽く腕をひっぱっり、バランスを崩したフリードを支えて唇にキスをした。
波の音がする。
ザァン…ザア…と寄せて返す波の音。
寝起きすぐは見慣れない天井と慣れない音にここはどこだろうと考える。
慣れた雪山、音のないあの冷たい家じゃない。
………あの家では、誰も僕の話を聞いてはくれなかった。年相応に親に隠してた性的コンテンツが全て男だったから。
あの日から家族は僕を異物としてしか見なかった。
アカデミーに入ったら、秘密を少しも漏らさないようにと人と壁を作りすぎて、今度は友達ができなかった。
僕と話をしてくれたのは課外授業がきっかけで会った先輩たちだった。
話を聞いて、なんの根拠もなく大丈夫だと言ってもらえた。
ポケモンバトルをして、各地のジムをまわって、人と関わっていくうちに僕は人と話せるようになった。
そうだ、ここはマリナードタウン。
暖かい海に憧れて住み着いた僕のアパート。
横にある体温とゆるやかな呼吸音。
おろした長い髪の下、フリードが静かに眠っている。
陽が出てきて部屋の中が少し暑い。窓を開けてから起こさないようそっと寝室を出た。
散らばった服を集めて洗濯機にいれて、シャワーを浴びて着替える。
目が冴えたところで台所に立つ。
フライパンにバターを落として真ん中を切り抜いたパンの耳の枠を焼き、真ん中の穴に卵を落として塩コショウしてベーコン、切り抜いたパンで蓋をする。焼けたらひっくり返してオープンサンド。
オレンジジュースを添えて朝食はできた。
寝室は静かだ。まだ寝てるんだろう。
先にひとりで朝食を食べる。
フリードと初めて会った時、彼はエクシード社の研究員をしていた。それから色々あって今は飛行船で操縦手をしてる。
自動操縦があって、夜に眠れてはいてもトラブルがあれば真っ先に起きないといけない以上、空にいる間は眠りが浅いようだ。
いつも昼前まで寝てるからそのまま寝かしておこう。
サクリと少し焦げたパンの耳を齧った。
ガタン
寝室で音がした。起きたんだろう。
寝室を覗いたら、フリードが上半身だけ起こして窓の外をぼんやり見ていた。
「おはよう」
寝ぼけ眼でゆっくりと僕を見る。目が合い、やや間があってじわじわと顔が赤くなる。
「き、昨日の!あれは!」
「こっちに来て酒が入ればいつもだろう。何を今さら」
ちなみにここにきた時は毎回酒が入る。
一夜の過ちだと言うには繰り返しすぎているのに、僕らは恋人ではない。
昨日の延長で意地悪く実況してやりたくなるが大人気ないからやめて、ベットに座る。
子供にするように頭をかき抱いた。
「僕は年上の、先輩たちに助けられてここまで来たから。その恩を先輩たちに返す代わりに、困ってる人がいたら助けるようにしてる」
ゆっくりと頭を撫でながら、ご飯とか話聞いたりとか、送ったりとかね、と付け加える。
「でも、それだけ。うちに入れるのはフリードくらいだよ」
頬を寄せてぐりぐりとその額になすると、髭が当たったのか嫌そうに押し返された。
「あぁもう! 悪かったって。市場でヒースが最近学生連れてよく来るって聞いて、いい気がしなくてからかったんだ」
「若い子誰彼かまわず、なんて。僕も若く見られたものだね」
そんな体力ないよと肩をすくめた。
「さて、着替えだしておくからシャワー浴びておいで。食事にしよう」
言って、ベッドから立ち上がりかけたところで腕を引っ張られ、されるがままにベッドに倒される。
素早く馬乗りになったフリードが噛みつくようなキスをしてきた。
こつん、額と額をぶつけてくる。
息が触れるほどに顔が近い。
ふいうちでこの距離は慣れていても恥ずかしい。
「俺を休ませて甘やかしてくれて、感謝してるんだ、ヒース」
ざらりとした低い男の声で言う。
組み敷かれて掴まれたままの腕が熱い。昨日の肌の熱さを思い出してぞくりと電流が走る。
フリードはオスの顔でのしかかってきたのに、垂れた目尻を和ませて無邪気に笑うから。その落差に理性が飛びそうになる。
学生たちが使う「脳が焼かれる」ってきっとこんな感じだと思いながら、理性が欲望の手綱を放す5秒前。
end
人物紹介
フリード
色々あって子供たちの引率者に。
年相応に羽目を外す時があってもいいよねと。
ヒース
フリードより10くらい上
10代の時家出少年してたので若い子放っておけないおぢ。
He isからとってヒース(デフォルト名)
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