ヒース・リヴィングトンの物語
ハッコウシティの仕立て屋が立ち並ぶメインストリート。
ヒースはお腹のスリングで大切にポカポカの卵を抱え、相棒のユキカブリとニャオハを従えながら、少年のように目を輝かせるトレニアと一緒に、老舗テーラーの重厚な扉をくぐっていた。
「ヒース! フォーマルなスーツも良いが、君はまだ育ち盛りだ。すぐに背が伸びるだろうから、今回は着回しのきく上質なジャケットとスラックスを数着仕立てようじゃないか!」
「はい、おじい様。お気遣いありがとうございます」
そう言いながら、トレニアは店員に命じて次々と極上の生地を運ばせた。
「ほら見てごらん、ヒース。もしもう少し背が伸びたら、こういう少し着丈の長いコートやウールジャケットも似合うはずだ!」
次から次へと物色するトレニアおじい様を見て、ヒースは困ったように笑いながらも、差し出されたサンプル生地にそっと触れた。
「……すごい。おじい様、この生地、すごく柔らかいです。平織りじゃなくて斜めに織り目が入っているから、しなやかで動きやすいんですね」
「おお、よく気づいたね! これは綾織り(ツイル)といってね……」
「いかにも左様でございます、お坊っちゃま。こちらは最高級の羊毛を細く紡いで織り上げたものでして……」
店員もトレニアも、ヒースの細やかで鋭い観察眼と感性に驚き、大喜び。
いつの間にかヒースは店員とトレニアに混ざり、「こちらの織りの方が肌触りが……」「この落ち着いた深いグリーンなら、彼の瞳の色に映える!」と、嬉々として生地の触り心地や質感について語り合っていた。
一通り仕立ての注文を終えたあと、トレニアは満足そうに頷きながら、ヒースの顔を覗き込んだ。
「さて! 服が決まったら、次は眼鏡だな。リヴィングトンの孫にふさわしい、最高のべっ甲フレームを誂えに行こう!」
「あ……あの、おじい様」
眼鏡店へ向かおうと手を引くトレニアに対し、ヒースは少しだけ足を止め、気まずそうに自分のべっ甲眼鏡のフレームに手をかけた。
「実は……この眼鏡、度が入っていない伊達眼鏡なんです」
「ふむ? 伊達眼鏡かい?」
ヒースは少し頬を染め、恥ずかしそうに視線を落とした。
「はい……。ナッペ山にいた頃、僕……『自分の目を見られたら、胸の奥にある知られたくない秘密まで全部見抜かれてしまうんじゃないか』って、ずっと怖くて……。だから、この眼鏡で隠していたんです」
そう告白すると、ヒースは意を決したように、ゆっくりと眼鏡を外した。
メガネのフレームという「壁」がなくなったヒースの素顔。
そこには、飾りのない、吸い込まれるように澄み切った美しいオリーブグリーンの瞳があらわになった。
トレニアは一瞬、息をのんだ。
そして、ヒースの肩にそっと両手を置くと、屈み込んで、ヒースの目を慈しむようにじっくりと、まっすぐに見つめた。
「……なんて綺麗で、まっすぐな瞳なんだろう」
トレニアのダンディな目元が、ふっと柔らかく崩れた。
トレニアはヒースの頭を優しく撫で、破顔して笑った。
「ヒース。こんなにも美しく、誠実な瞳を隠してしまうなんて、勿体ない。……君のその美しい瞳を隠すには、眼鏡をかけるのはまだ早すぎるな!」
「え……」
「これからはもう、何も怖がる必要はない。君の瞳がどれほど誇らしく、素晴らしいか……私が世界中に自慢して歩きたいくらいだよ」
トレニアの包み込むような温かい言葉と、一切の拒絶を含まない優しい眼差し。
「見られるのが怖かった」はずの自分の瞳を、一番欲しい言葉で全肯定されたヒースの胸に、じわ寄りと温かな熱が広がっていく。
ヒースは眼鏡を握りしめたまま、泣きそうな、けれど心からの笑顔を浮かべた。
「……はい! トレニアおじい様……!」
スリングの中のコジオの卵が、まるでヒースの喜びに応えるかのように、ポカポカと小さな温もりを伝えていた。
ヒースはお腹のスリングで大切にポカポカの卵を抱え、相棒のユキカブリとニャオハを従えながら、少年のように目を輝かせるトレニアと一緒に、老舗テーラーの重厚な扉をくぐっていた。
「ヒース! フォーマルなスーツも良いが、君はまだ育ち盛りだ。すぐに背が伸びるだろうから、今回は着回しのきく上質なジャケットとスラックスを数着仕立てようじゃないか!」
「はい、おじい様。お気遣いありがとうございます」
そう言いながら、トレニアは店員に命じて次々と極上の生地を運ばせた。
「ほら見てごらん、ヒース。もしもう少し背が伸びたら、こういう少し着丈の長いコートやウールジャケットも似合うはずだ!」
次から次へと物色するトレニアおじい様を見て、ヒースは困ったように笑いながらも、差し出されたサンプル生地にそっと触れた。
「……すごい。おじい様、この生地、すごく柔らかいです。平織りじゃなくて斜めに織り目が入っているから、しなやかで動きやすいんですね」
「おお、よく気づいたね! これは綾織り(ツイル)といってね……」
「いかにも左様でございます、お坊っちゃま。こちらは最高級の羊毛を細く紡いで織り上げたものでして……」
店員もトレニアも、ヒースの細やかで鋭い観察眼と感性に驚き、大喜び。
いつの間にかヒースは店員とトレニアに混ざり、「こちらの織りの方が肌触りが……」「この落ち着いた深いグリーンなら、彼の瞳の色に映える!」と、嬉々として生地の触り心地や質感について語り合っていた。
一通り仕立ての注文を終えたあと、トレニアは満足そうに頷きながら、ヒースの顔を覗き込んだ。
「さて! 服が決まったら、次は眼鏡だな。リヴィングトンの孫にふさわしい、最高のべっ甲フレームを誂えに行こう!」
「あ……あの、おじい様」
眼鏡店へ向かおうと手を引くトレニアに対し、ヒースは少しだけ足を止め、気まずそうに自分のべっ甲眼鏡のフレームに手をかけた。
「実は……この眼鏡、度が入っていない伊達眼鏡なんです」
「ふむ? 伊達眼鏡かい?」
ヒースは少し頬を染め、恥ずかしそうに視線を落とした。
「はい……。ナッペ山にいた頃、僕……『自分の目を見られたら、胸の奥にある知られたくない秘密まで全部見抜かれてしまうんじゃないか』って、ずっと怖くて……。だから、この眼鏡で隠していたんです」
そう告白すると、ヒースは意を決したように、ゆっくりと眼鏡を外した。
メガネのフレームという「壁」がなくなったヒースの素顔。
そこには、飾りのない、吸い込まれるように澄み切った美しいオリーブグリーンの瞳があらわになった。
トレニアは一瞬、息をのんだ。
そして、ヒースの肩にそっと両手を置くと、屈み込んで、ヒースの目を慈しむようにじっくりと、まっすぐに見つめた。
「……なんて綺麗で、まっすぐな瞳なんだろう」
トレニアのダンディな目元が、ふっと柔らかく崩れた。
トレニアはヒースの頭を優しく撫で、破顔して笑った。
「ヒース。こんなにも美しく、誠実な瞳を隠してしまうなんて、勿体ない。……君のその美しい瞳を隠すには、眼鏡をかけるのはまだ早すぎるな!」
「え……」
「これからはもう、何も怖がる必要はない。君の瞳がどれほど誇らしく、素晴らしいか……私が世界中に自慢して歩きたいくらいだよ」
トレニアの包み込むような温かい言葉と、一切の拒絶を含まない優しい眼差し。
「見られるのが怖かった」はずの自分の瞳を、一番欲しい言葉で全肯定されたヒースの胸に、じわ寄りと温かな熱が広がっていく。
ヒースは眼鏡を握りしめたまま、泣きそうな、けれど心からの笑顔を浮かべた。
「……はい! トレニアおじい様……!」
スリングの中のコジオの卵が、まるでヒースの喜びに応えるかのように、ポカポカと小さな温もりを伝えていた。
