ヒース・リヴィングトンの物語
テーブルシティの街並みを一望できる、日当たりの良いテラス席。
格式ある高級紅茶店のテーブルには、湯気を立てる極上の紅茶と、美しい白磁のティーカップが並んでいた。
心地よい風が揺らすパラソルの下、ダフネ・リヴィングトンは優雅にカップを傾け、向かいに座るアリッサムへ鋭い視線を向けた。
今回のお茶会は、単なる歓談ではない。リヴィングトン邸という自分の目が届く範囲でいくら取り繕えていても、一歩外に出たアカデミーでヒースがどう振る舞っているか——その真価を問うための聞き取りだった。
「——それで? アカデミーでのあの子の様子はどうかしら、アリッサム」
「相変わらずですよ、ダフネ」
アリッサムは嘘も飾りもない、いつもの淡々としたトーンで答えた。彼女がダフネ相手に甘いお世辞や社交辞令を言わないことを、ダフネ自身が誰よりも信頼している。
「歴史の授業で疑問が出ると、すぐに私の研究室のドアを叩きます。先日も、手持ちと『呪い』への対処について知恵を絞りに来ました。心優しいポケモンの性格を殺さず、いかに絶対零度の静寂で封じ込めるか……自分の頭で筋の良い答えを導き出していましたよ」
その報告を聞き、ダフネは静かに紅茶を飲み干した。
(名家の名前に驕る様子も、受け継ぐ呪いの重圧に呑まれて不安定になる兆候もない……養子としての資質は充分ね)
自分の手元を離れた環境でもヒースが破綻していないことを確認し、ダフネは満足そうに口元を緩めた。
「良かったわ。環境の急激な変化で驕りが出るか、あるいは呪いの恐怖に潰れて使い物にならなくなるか……そこだけが懸念でしたけれど。取り越し苦労だったようね」
「ええ。もし彼の所作や精神が及第点以下であれば、そのままあなたに報告するつもりでしたが……その必要はありませんでした」
アリッサムは事実だけを淡々と述べる。
「あなたの教育の成果も、しっかりと現れています。茶の啜り方、背筋の伸ばし方、立ち振る舞い……どれをとっても申し分ありません。普段の目は穏やかですが、核心を突く時にはハッとさせるほど鋭い発言をします。充分に『リヴィングトン家』の顔ですわ」
「あら……。私と手紙を書いた成果を、ちゃんと発揮しているのね」
ダフネは手元に置かれた一枚の豪奢な招待状へと視線を落とした。金箔で縁取られたカードには、かつてヒースと一緒に返信の文面を練った、あの貴族家からのパーティーの案内が記されている。
「もう……社交の表舞台に出しても大丈夫だと思うかしら?」
「ええ。今のヒースなら、どのような有象無象の前に引き立てても恥ずかしくありません」
「そう。なら……この招待、お受けしようかしら」
ダフネは招待状をすっと指先で撫でると、春の陽だまりのようにあたたかく、どこか月のように悪戯っぽく「くふくふ」と可憐に笑った。
「そろそろ、リヴィングトン家の誇らしい新しい顔を、皆様にお披露目して差し上げなきゃね」
