ヒース・リヴィングトンの物語
図形を描き写す羽ペンの音だけがカリカリと響く書斎。
壁際に佇む自身のソウブレイズをじっと見つめていたトレニアは、不意に何事かを思い出したように顎に手を当てた。
(……待てよ。ディイくん、と言ったか)
トレニアの脳裏に、先ほど遺跡の出口で見せた少年の姿が浮かぶ。
自分のカルボウがソウブレイズに進化して戸惑いつつも、相棒を愛おしそうに見つめていた瞳。そして、トレニアの手持ちのソウブレイズと「もらいび」を交わした時の、物怖じしない筋の良さ。
「ヒース」
静かな呼びかけに、羽ペンを走らせていたヒースがピクッと肩を揺らし、顔を上げた。
「……はい、おじい様」
「ディイくんのことだ。確か彼は、ラニナム氏に憧れて考古学者を目指し、日々発掘と勉学に励んでいると言っていたな?」
「……はい。ディイはお父さんのような立派な学者になるのが夢で、遺跡の知識もすごく豊富なんです。今日も僕よりずっと夢中になって発掘をしていました」
ヒースが誇らしげに語るのを聞きながら、トレニアは満足そうに深く頷いた。
「なるほどな。……ヒース、お前がこれから進める『家仕舞い』において、無力化した呪物の整理や保管を託すのは、彼や彼の父親が所属する考古学チームだ」
「はい」
「ならば……だ」
トレニアは腕を組み、ニヤリと重厚な笑みを浮かべた。その瞳には、かつて数々の呪物をねじ伏せてきた傑物ならではの「策」が宿っている。
「お前自身に強い攻撃役が育つのが一番だが、運命の出会いは焦って作るものでもない。……ならば、お前の『一番近くに立つ者』を、我が家の呪物に対処できるだけの使い手に鍛え上げておくというのも、立派なリスク管理だ」
「えっ……ディイを、ですか?」
「そうだ。ディイくんの相棒はソウブレイズだ。呪物や怨念の類を斬り払い、己の糧とする『むねんのつるぎ』を扱う素質は十二分にある。……彼が将来、発掘現場や保管庫で呪物の扱いに長け、ソウブレイズを完璧に使いこなせるようになれば、それは彼自身の身を守ることにもなり、お前の大きな助けにもなる」
トレニアは机に両肘をつき、ヒースをまっすぐに見つめた。
「ディイくんに伝えなさい。『今度、リヴィングトンの屋敷に遊びに来ないか』とな。……ワシ直々に、ソウブレイズの真の扱い方と、呪物と対峙した時の戦い方を手ほどきしてやろう」
「おじい様の……直接指導……!?」
ヒースは思わず目を見開いた。
伝説的な呪い無力化の専門家であり、自分にも徹底的な鍛錬を課すトレニアおじい様の直接指導。ディイにとっては願ってもない名誉だが、同時に相当なシゴキ(愛のスパルタ教育)になることは目に見えている。
「ふふ、ディイくんもソウブレイズを強くしたいと言っていたのだろう? 双方にとって悪くない話のはずだ」
「……は、はい! ディイに伝えておきます! 絶対に喜ぶと思います……!(色んな意味で……!)」
(ディイ……ごめん。君の夢のためでもあるし、僕のためでもあるんだ……頑張って耐えてね……!)
ヒースは心の中で親友に静かに合掌しつつ、トレニアの深い深い愛と先を見据えた遠謀に、改めて敬意を抱くのだった。
壁際に佇む自身のソウブレイズをじっと見つめていたトレニアは、不意に何事かを思い出したように顎に手を当てた。
(……待てよ。ディイくん、と言ったか)
トレニアの脳裏に、先ほど遺跡の出口で見せた少年の姿が浮かぶ。
自分のカルボウがソウブレイズに進化して戸惑いつつも、相棒を愛おしそうに見つめていた瞳。そして、トレニアの手持ちのソウブレイズと「もらいび」を交わした時の、物怖じしない筋の良さ。
「ヒース」
静かな呼びかけに、羽ペンを走らせていたヒースがピクッと肩を揺らし、顔を上げた。
「……はい、おじい様」
「ディイくんのことだ。確か彼は、ラニナム氏に憧れて考古学者を目指し、日々発掘と勉学に励んでいると言っていたな?」
「……はい。ディイはお父さんのような立派な学者になるのが夢で、遺跡の知識もすごく豊富なんです。今日も僕よりずっと夢中になって発掘をしていました」
ヒースが誇らしげに語るのを聞きながら、トレニアは満足そうに深く頷いた。
「なるほどな。……ヒース、お前がこれから進める『家仕舞い』において、無力化した呪物の整理や保管を託すのは、彼や彼の父親が所属する考古学チームだ」
「はい」
「ならば……だ」
トレニアは腕を組み、ニヤリと重厚な笑みを浮かべた。その瞳には、かつて数々の呪物をねじ伏せてきた傑物ならではの「策」が宿っている。
「お前自身に強い攻撃役が育つのが一番だが、運命の出会いは焦って作るものでもない。……ならば、お前の『一番近くに立つ者』を、我が家の呪物に対処できるだけの使い手に鍛え上げておくというのも、立派なリスク管理だ」
「えっ……ディイを、ですか?」
「そうだ。ディイくんの相棒はソウブレイズだ。呪物や怨念の類を斬り払い、己の糧とする『むねんのつるぎ』を扱う素質は十二分にある。……彼が将来、発掘現場や保管庫で呪物の扱いに長け、ソウブレイズを完璧に使いこなせるようになれば、それは彼自身の身を守ることにもなり、お前の大きな助けにもなる」
トレニアは机に両肘をつき、ヒースをまっすぐに見つめた。
「ディイくんに伝えなさい。『今度、リヴィングトンの屋敷に遊びに来ないか』とな。……ワシ直々に、ソウブレイズの真の扱い方と、呪物と対峙した時の戦い方を手ほどきしてやろう」
「おじい様の……直接指導……!?」
ヒースは思わず目を見開いた。
伝説的な呪い無力化の専門家であり、自分にも徹底的な鍛錬を課すトレニアおじい様の直接指導。ディイにとっては願ってもない名誉だが、同時に相当なシゴキ(愛のスパルタ教育)になることは目に見えている。
「ふふ、ディイくんもソウブレイズを強くしたいと言っていたのだろう? 双方にとって悪くない話のはずだ」
「……は、はい! ディイに伝えておきます! 絶対に喜ぶと思います……!(色んな意味で……!)」
(ディイ……ごめん。君の夢のためでもあるし、僕のためでもあるんだ……頑張って耐えてね……!)
ヒースは心の中で親友に静かに合掌しつつ、トレニアの深い深い愛と先を見据えた遠謀に、改めて敬意を抱くのだった。
