【良人とみいひ】それぞれが選んだ愛のかたち

みいひは仕事に生きることにした

今日は宮崎(近隣支店のトップ常連営業マン)と終業後に居酒屋でミーティングすることになっている

「(良人のばか)」

良人は最近全然会ってくれない

電話も出ない

メッセージの返信もない

もうおばさんに付き合ってらんないと目が覚めたのかもしれない

もとより、自分と付き合っていては若い良人の未来の為にならないと思っていた

付き合うなら良人の為になるようにと、まるで罪滅ぼしのように、良人を受け入れ癒し成長の足しになるように話し行動してきた

でも、何度目かの雲隠れに傷付き、心がもう頑張れなくなっていた

私って、放っておいていなくなっちゃってもいいような存在なんだ?

みいひがそうこう思ってるうちに約束の居酒屋に着くと宮崎が入口で待っていて、みいひに気付くとトップ常連営業マンらしいさわやかな笑顔で体を寄せ、みいひの腰に手を回しエスコートした

喧騒の中で横に並び乾杯し、早速ですがと、みいひは営業担当者が班長にどんなマネジメントされたら嫌かを聞き取り始めた

「わたしわぁ~ みんなが夢を叶える為に仕事をするみたいな~ そんなみんなを支えるような~ そんなマネジメント? っていうか ただみんなの話しとか聞いて、また頑張ろって思える存在になれたらなって思ってるんですけど~ 誰も相談できる人、社内にいなくて~ なんか辛いんれす」

「大谷さん、酔ってます?(笑) まぁね、班長同士も仲間って思う人もいるけど、ライバルって思ってる人もいますからね 大谷さん、班長になって4カ月なのに班成績で支店内トップ獲っちゃったから みんな嫉妬してるんでしょうね」

「わたしわぁ~ 班長同士、悩みとか話して一緒に上に上がっていけたらって思ってるのにぃ~ 孤独れす 孤独なんれす 宮崎さんっ」

「大谷さん、素直だから みんなもっとずるいですからねぇ」

宮崎は、みいひをかわいいなという目で見て甘えさせるように体を寄せる

「大谷さん、金井くんはどうしたんですか?」

「良人? 良人は、公務員に転職してた」

「してた? って、知らされてなかったってこと?」

「うん 知らされてなかったし こういう悩みも聞いてくれないっていうか、連絡とれないし、もう2カ月会ってない って、いうか、もう別れてんのかも」

「え 別れたんすか? あんなに大谷さんに執着してた金井くんが? そんなことあるかなぁ? まぁ、俺はチャンスならいかせてもらいますけどね 大谷さん、今日、俺んち来ないですか?」

「宮崎さんち? 行ったら、多分、良からぬことになるような・・」

「ぷは(笑) それを口に出して言っちゃうのが大谷さんですよね かわい 悩みあったら全部聞きますし、甘えてもいいですよ」

「それって、無料ですか?」

「無料ですって(笑) さ、いきましょう」

タクシーでマンションに着くと宮崎はみいひをそのまま浴室に連れて行き洗いバスローブを着せベッドに寝かせた

みいひは、浴室に戻った宮崎がシャワーを浴びて戻るのをまどろみながら待った

宮崎が戻るとみいひは無防備に抱き付いてきたので、宮崎は「かわいいです」と言いながら背中を撫でてあげ、みいひは安心したようにすうすうと眠ってしまった

男が女性といたらどうなるかわかってますか?と宮崎は笑いながらひとりごちて、みいひを抱き包み眠った

みいひが朝起きると宮崎はもうベッドにおらず、ジャージを着てリビングでコーヒーを飲んでいた

「おはようございます 昨日、良からぬことせずに寝ちゃってすみませんでした」

みいひが宮崎に言うと

「あはは(笑)」

宮崎はまるで気にしてないように笑った

「今からでもします?」

「いや、気ぃ遣ってもらってするもんじゃないから(笑)  コーヒー飲みますか?」

宮崎がコーヒーを入れみいひは、育ちが良い人はやっぱり違うなぁ、セックスにガツガツしないし優しいし朝ちゃんと起きてるし、セックスできなくて不機嫌になる訳でもなくコーヒー入れてくれるし、とか思いながらアロマを味わった

宮崎がスポーツジムに行くというので、みいひは帰ることにして、二人でマンションのエントランスを出ると、植え込みの塀にもたれスマホをいじりうつむく良人がいた

「良人?」

みいひが気付いて声を掛けると良人は緩慢に顔を上げ、感情のない、ただ映像だけを取り込むような目でみいひと宮崎を見た

みいひは咄嗟に

「仕事の話し聞いてくれてただけで、宮崎さん悪くないから てか、そういうこととかしてないし 私、班長の役目果たすの辛くなっちゃって、でも、同じレベルで悩み共有できる人いなくて、なんなら、相談したら自慢だと思われたみたいで それで、違う支店の宮崎さんならフラットに話し聞いてくれるかなって、頼っちゃって」

やましいことはしていないことを伝えようと説明を並べた

「別に いつも居ない場所にいたからトラブルとか巻き込まれてないか確認だけしようと思っただけだし」

良人は表情を1ミリも変えず立ち去ろうとする

「それだけ? 良人はもう私のことどうでもいいんだ!? 私が何で悩んでても興味ないし、誰といても関係ないんだ!? わかった もういい! 宮崎さん、話し聞いてくれてありがとうございました 今日はこれで失礼します!」

みいひは、宮崎に一礼すると振り返らずに走っていってしまった

良人はまるで置物を見るように宮崎の顔を見たが何も言わずそのまま帰ろうとした

「一応言っておきますけど、今日はそういうことしてないです でも、大谷さんが他に誰もいないなら付き合っていきたいって思ってます」

宮崎は、隠れてコソコソしてると思われるのも嫌なんでという感じで良人に言う

良人は聞いてるのかわからない顔のまま立ち去っていった

みいひは、帰宅の途を辿りながら、歩いてても電車に乗ってても涙が止まらなかった

なんなら嗚咽も出そうだったが、それだけはなんとか抑えた

良人、良人も私のこと好きでいてくれてるって思ってたけど、私の勘違いだったの?

GPSでいつも居ない場所に止まってたから義務感で確認しに来ただけ?

そういうの、女子は勘違いするからやめた方がいいよ!?

私のこと好きだから求めてくれてたんじゃないの?

ただ、欲しい時に手に入る都合がいい存在だっただけ?

そんなのずるいじゃん!

良人が欲しい時、私は良人が好いてくれたみたいで嬉しくて応えちゃって、でも、私が良人を欲しい時は良人は応えてくれなくて・・

私って良人のなんなの?!

良人がさみしいのは駄目で、私がさみしいのはいいの?

なんなの?そのルール

・・一番馬鹿みたいなのは、見返りを求めてる私だよね

あげた分の愛が返ってきて欲しいんだからさ

愛は無償なんだから、愛することそのものが喜びで返してくれることを求めちゃいけないんだよね

だけどさ、植物だってなんだって育ててたら期待しちゃうじゃん

咲いたらいいなって、実ったら嬉しいなって

だめなの?それはいけないことなの?

頑張ってる良人が輝いてて、一歩も退かない良人が格好良くて、全部欲しがる良人がかわいくて愛しくて、そんな良人と一緒にいたい、明日も会いたい、ずっといたいって思っちゃうじゃん?

それってだめなことなの?

だけど・・

こうなってるってことは、良人はそうじゃないってことなんだもんね?

なら、仕方ないよね

そもそも、良人は若いんだから、私じゃなくてもっと若い子と付き合って子どもつくって幸せな家庭つくってさ、

パパーとか子どもに懐かれて、パパぶっていろいろ教えたりしてればいいじゃん

そんな良人、絶対かわいいしさ

奥さんも私みたいな宇宙人じゃなくて、まともな地球人でさ、普通に買い物いって普通においしいご飯作って良人待ってたりさ

そんなあったかい家庭、絶対良人に似合うじゃん

私といるなんて、良人にとって機会損失でしかないよ

良人は、今、分岐点にいるんだよ、きっと

今ならまだ普通の幸せにいける

だから、私はもういいや

私といたって良人の為になんない

私が一緒にいて与えてあげられるものってなに?

若い性的魅力もない、子どもも産んであげられない

普通の幸せもあげられない

ただ、良人の話し聞いて成長見守ってあげられるだけ?

それって彼女じゃなくてお母さんじゃん

・・だめだ

どう考えても、私といたら良人にメリットが無さ過ぎる

子ども持てるあったかい家庭を得られる機会を手放してまで選択する価値ないよ

だから、良人

別れてあげる

・・っていうか、もう別れてんのか(笑)

良人と今日も明日もずっと馬鹿な話しして笑って一緒にいたかった

頑張る姿に刺激受けながら一緒に成長していきたかった

けど、もういいや

あなたの人生に私がいない方があなたの為になる

良人、さよなら

一瞬でも私を好きになってくれて嬉しかった

楽しかったよ

ありがとう・・


元々ずっと孤独な人生だったから、別にそこに戻るだけだ


みいひは、脱け殻のような心でそう思った




良人はいかっていた

いかり過ぎて今すぐスマホでも自転車でも建物でも破壊させられるくらいの勢いだった

が、みいひのせいで犯罪者になるなんて自分が損でしかないと頭では計算できたのでただ歩いた

宮崎の家がおしゃれなとこにあるせいで自宅まで歩くと6時間は掛かりそうだったが、別にそれでも構わないと思った


意味がわからない

普通、俺のこと好きだったら、他の男の家行かないよね

むしろ、二人で居酒屋行ってたのだって許せないのに

みいひの体を他の男がエロい目で見てたら許せないし
、みいひのおっぱいもおまんこも俺のもんだ

勝手に触るなんて許せない

てか、服の上からだって触れるのが許せない

みいひが酔ってもたれ掛かったりしてたら、私はあなたの彼氏じゃないのでとよけて欲しいくらいだ

体だけじゃなくて、みいひが人の話しを聞きたがる心も、馬鹿な話しに笑う顔も、受容してほほ笑んでる目も全部丸ごと俺のもんなのに!ふざけんな

てか、一番意味不明なのは俺だ

みいひなんて好きになるはずじゃなかった

他に若くてかわいくて俺に寄ってくる子や依存してこようとする子だっていっぱいいたのに

新卒女子社員の高田さんが入ってきた時は、かわいいなって、こういう素直で純粋な子と付き合って結婚して子ども持ってお父さんになって家庭つくってくのがいいんだろうなぁ・・って思ってたのに

なんで、みいひなんて好きになっちゃったんだろ

おばさんだし、子ども産めないし、養育費払いたいし子どもが就職するまでは結婚できないとか言うし

なんの得もないじゃん

まじで頭ではそう思ってるのに、気持ちが勝手にみいひを求めてしまう

みいひが笑うと楽しくて、みいひが喜んでくれると嬉しくて、明日は何を教えてあげようって離れたあとも考えてたりして

もしかして、これが恋ってやつなのかって、人生で初めて思ったりして

今まで俺が付き合ってたりしたのは恋じゃなかったのかなって思ったりして

毎日俺と一緒にいればいいじゃんって思うし、ずっとうちにいればいいじゃんって思うのに

結婚できないとか意味わかんない

・・いやいや、そうじゃなくて

みいひと結婚しても俺にメリットないって言ってんの

仮に今は良かったとしても、すぐシワシワになっちゃうし、そのうち介護しなきゃだめじゃん

それにしても、宮崎って確かいい大学でて入社以来営業ほぼトップなんだっけ

なんでそんな人がみいひを?

あなたには他に誰でもいますよね?

・・てか、それ、俺もか

他にいくらでも選択肢あるのに、なんでよりによっておばさん好きになんなきゃいけないの?意味わかんない俺

でも、宮崎より俺が成功すればいいだけのことだよね

俺だって、前の職場より給料倍になってるんだから、みいひ一人ぐらい養ってあげてもなんともないし

・・宮崎のマンション綺麗だったなぁ・・みいひ、ああいうとこ住みたいのかな?

宮崎みたいな余裕のある優しい男がいいのかな?

仕事の話しも聞いてあげられるような男?

いいよ!そういう男がいいなら、そういう男のとこにいけば!

俺みたいなどうしよもないガキといてもみいひを幸せにしてあげられないし

俺が教えてたみいひが先に班長になって、負けたくなくて公務員に転職したのに、みいひにすごいって尊敬されたかったのに、なんかみいひ、班長になっただけじゃなくて、班で支店トップ獲ってるし

班の子のマネジメントどうしたらいいと思うって相談されても、俺下っ端しかやったことないからマネジメントなんてわかんないし、格好わる

みいひに格好悪いとこ見せたくなくて、もっと仕事できるようになって、みいひに相応しい男になってみいひにプロポーズしようと思ってんのに

成功してないバンドマンがいつかドーム埋めるから結婚してとか言うみたいなのって相手の女性に失礼じゃん

なら、相応しい男になってからっていうのが失礼のない正しい道のりじゃん

だから、俺はみいひの為に頑張ってるのに、それも待てないってなに?

みいひの俺への愛ってそんな薄っぺらいの?

・・ま、いいや

他の男と寝てるってことは、そういうことだよね

未練みたいのみっともないし、そもそも俺、普通に若い子と結婚すればいいんだし

別にみいひじゃなきゃって訳じゃないし

ま、いいや

俺、家と職場を往復するゾンビみたいで、俺なんて誰からも理解されないって諦めて生きてたのに、自分出して生きてもいいんだって、みいひに出会えて思えたから

俺が単なるわがままじゃなくて、理由があってこうなってることも誰かは理解してくれて、頑張ってるのすごいねって思ってくれて、応援してくれることもあるって知れたから

本当はみいひといたら楽しいし嬉しいし愛しいから、ずっといたいけど

それだと満足しちゃって頑張れないもんね

だからいいよ、みいひは俺よりももっとみいひを幸せにできる人のとこいって

俺に心を取り戻させてくれてありがとう

みいひ

大好きだから、別れてあげる

みいひ、優しいから、俺といたら俺に全部くれようとするもんね

今の俺じゃ何も返してあげられないから

いつかビッグな男になったら、来世でも迎えにいくけどね

みいひ、幸せになっていいよ





歩き過ぎて暮れかけた空の中、良人は脱け殻のような心で思うのであった




それぞれが思う愛のかたちは、相手の為だからこそ取り消しなどなく、実行され続けることであろう




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