【良人とみいひ】雲間から現れる月
今日は久し振りに定時で上がれた
別に毎日遅くまで残業してるとかじゃないけど、さすがに入ったばかりの職場なので、いつもは様子を見て30分くらいは残ってから返るようにしてる
効率厨とも言われるこの俺が、大人になったもんだ
もっと仕事覚えたら絶対定時に帰るけど
それはさて置き、この時間なら、みいひが退勤して職場から駅に行くまでに間に合う
まばらに残っていた職場の人に挨拶して、足早に移動した
みいひの使う路線の駅に着くと、まだみいひが着く時間じゃなかったので、人通りの邪魔にならない、かつみいひが歩いて来る方向からは死角になる隅でスマホをいじって待った
そういえば、もう2カ月半も会っていない
早くみいひを見たい
みいひの姿を想像したら、胸があったかくなってキュンとした
あ、俺ってまだ心死んでなかったんだ、と自分で自分を観察して気付いた
待ち伏せなんてストーカーみたいで気持ち悪い奴みたいだけど、違うから
俺はただ、みいひが悪い奴に騙されたりしてないか、見てあげよっかなって思っただけだから
本当、みいひは手が掛かる子だ
子っていうか年齢おばさんだけど(笑)
しばらく待っていると、みいひが目の前を通ってすぐに後ろ姿になった
髪が伸びて、後ろでちょこんと結んでいる
ギリギリ結べました的な立ってる髪がかわいい
特に男の影は無し
ヨシヨシヨシ
一目見たら自分が使う路線の駅の方に帰ろうかなと思ってたのに、みいひが人混みに小さくなっていくのを見たら、自然と同じ方向に歩いてしまっていた
一応ね、一応変な動きがないか、いや違う違う、みいひが危ない目に遭ったりしてないか見てあげるだけだから
とか、自分に言い訳しながら、みいひが乗った隣のドアから電車に乗る
ある駅に着いて人が多く乗って来たら、みいひは座っていた優先席から立ち上がり向かいの席の前の吊り革を掴んで立った
すると
「お姉さん、ここ空いてるよ」
みいひの斜め前の席の男が、自分が座っている隣の空いてる部分を指し、結構大きめな声で言っていた
周りも、なに?という感じでそっちを見た
みいひは、吊り革に掴まったまま
「すぐ着くから大丈夫」
と子どもに向けるような笑顔を作って返す
多分、優先席だから必要な人の為に空けておいたほうがいいっていう判断なんだろうが、男は
「空いてるよ?」
と、空いてるから座ればいいのに?という感じで、まるで子どもや動物に言うみたいにほほ笑みながら優しく言う
みいひは
「大丈夫(笑)」
と、まるでありがとうとでも言っているような感じで笑顔で答えた
・・
なにこれ? なんか尊い・・
驚きにも似た感動を覚えた
多分、男は精神的にか知能的にか何かある人だろう
まるで水泳教室帰りの小学生がパンでも食べているかのように、パンを食べていた
今みたいな場面、普通多くの人は、ギョッとして怪訝な顔でもしそうだけど、みいひは笑顔で返していた
知らん人に普通に優しくする男も和むけど、その優しさを出来る範囲でちゃんと受け取って、親切にした側が逆に得したように感じるくらいの優しさを返していた
無垢な優しさの交換に和んでいたら、みいひの最寄り駅に着いた
改札を出て、みいひはスーパーには寄らず真っ直ぐ家を目指したので、少し距離を取って後ろを歩いた
途中、美容室の前の小さな花壇に植えられてる花の方を見ながら歩いたりしてた
落ち着くなぁ
そうそう、この感じ
みいひがいるとなぜか安心する
なんなんだろ、これは
どっから来てる感情なんだ?
とか考えてたら、みいひの家に近付いて来た
家に着くのを見届けたら帰ろうと思ってたけど、
このまま、転職したことを報告してもいいかなという気もしてきた
本当は、もっと仕事できるようになってから、男として成長して格好良くなってから報告しようと思ってたけど、あんまり音信不通が長いとみいひに他の男が出来てしまう可能性もある
急遽予定を変更して、今日報告することにし、足早に徐々にみいひとの距離を詰めた
みいひが家の前に着くと同時に声を掛けた
「みいひ」
みいひは驚いたようにバッと振り返り、目を大っきくして俺を見た
久し振りとか言うのかなと思ったけど言わないし、会えてうれしそうな顔もしない
意味をはかりかねるように俺を見ている
喜んだっていいのに
ちょっとムッとしたけど、みいひが何も言い出さないから
「ちょっと話があって来た」
と俺から言葉を発した
すると、みいひは
「あ、 あの、 大丈夫だから、 私は大丈夫だからね いいよ、 気にしないで、 良人は未来がある人だもん もっともっと輝いて成功して愛されて幸せになる人だもん」
俺の話しを聞かないでいきなり言ってきた
「えっと、」
そうじゃなくて、その為に今頑張ってるんだって
とか言おうとしたら
「本当大丈夫だから、 私、もうこの年だし、今まで散々いろんな人たちと別れて来たから、 だから、これからも一人で生きていけるから」
と言いながら目からボロンと涙をこぼす
「・・」
馬鹿なみいひ
俺の将来のこと考えて別れてくれようとしてんの?
泣くほど俺のこと好きなクセに(笑)
愛されてる実感と、俺の為に我慢してるみいひがかわいくて仕方ない気持ちとが同時にきて
泣いてるみいひをハグして抱き締めた
胸に収まる温もりが愛おしい
みいひが棒のように固くなっているので、みいひがいつもしてとねだるやり方でギュッギュッと2回締め上げた
なんか知らんが体がいつの間にか反応して、アソコが立ってしまった
顔を上げさせてキスしようとしたら、みいひは体を更に固くして抵抗した
?
外だから?
みいひ、俺の評価が下がるからとか言って、いつ職場の人とかお客さんに見られてるかわからないからとか言って、外では手も繋がせないもんね
「部屋行こう」
早く愛し合いたくて言うとみいひは、俺の胸から離れ
「今までありがとう」
と足早に部屋の方に向かってしまった
「え?」
後に続いて早足で追い掛けたけど、みいひはほとんど走るように早さを増して部屋に入ってしまった
ドアが閉まるのが見えた後、ガチャリと鍵が閉まる音がした
時間差でドアの前に着くと、合鍵で入ろうかと思案した
ドアにそっと耳を近付けて様子をうかがうと、布団で押さえたような嗚咽が聞こえた
泣いてる・・
今は入っていい感じじゃないと、発達障害の俺でもさすがに思って入るのをやめた
ズンズンと帰路を進む良人
なんなん、みいひ!
俺のこと好きなんじゃないの?
俺が給料倍くらいの職場に入ったの言おうとしてんのに、話も聞かないでさ!
別れるとか勝手に決めてるし
ふざけんな!
段々腹が立って来て、
自分が何の連絡も無しに退職して引っ越して新しい職場に入って2カ月半もみいひを放置していたことについては、すっぽり抜け落ちてる良人であった
終わり
別に毎日遅くまで残業してるとかじゃないけど、さすがに入ったばかりの職場なので、いつもは様子を見て30分くらいは残ってから返るようにしてる
効率厨とも言われるこの俺が、大人になったもんだ
もっと仕事覚えたら絶対定時に帰るけど
それはさて置き、この時間なら、みいひが退勤して職場から駅に行くまでに間に合う
まばらに残っていた職場の人に挨拶して、足早に移動した
みいひの使う路線の駅に着くと、まだみいひが着く時間じゃなかったので、人通りの邪魔にならない、かつみいひが歩いて来る方向からは死角になる隅でスマホをいじって待った
そういえば、もう2カ月半も会っていない
早くみいひを見たい
みいひの姿を想像したら、胸があったかくなってキュンとした
あ、俺ってまだ心死んでなかったんだ、と自分で自分を観察して気付いた
待ち伏せなんてストーカーみたいで気持ち悪い奴みたいだけど、違うから
俺はただ、みいひが悪い奴に騙されたりしてないか、見てあげよっかなって思っただけだから
本当、みいひは手が掛かる子だ
子っていうか年齢おばさんだけど(笑)
しばらく待っていると、みいひが目の前を通ってすぐに後ろ姿になった
髪が伸びて、後ろでちょこんと結んでいる
ギリギリ結べました的な立ってる髪がかわいい
特に男の影は無し
ヨシヨシヨシ
一目見たら自分が使う路線の駅の方に帰ろうかなと思ってたのに、みいひが人混みに小さくなっていくのを見たら、自然と同じ方向に歩いてしまっていた
一応ね、一応変な動きがないか、いや違う違う、みいひが危ない目に遭ったりしてないか見てあげるだけだから
とか、自分に言い訳しながら、みいひが乗った隣のドアから電車に乗る
ある駅に着いて人が多く乗って来たら、みいひは座っていた優先席から立ち上がり向かいの席の前の吊り革を掴んで立った
すると
「お姉さん、ここ空いてるよ」
みいひの斜め前の席の男が、自分が座っている隣の空いてる部分を指し、結構大きめな声で言っていた
周りも、なに?という感じでそっちを見た
みいひは、吊り革に掴まったまま
「すぐ着くから大丈夫」
と子どもに向けるような笑顔を作って返す
多分、優先席だから必要な人の為に空けておいたほうがいいっていう判断なんだろうが、男は
「空いてるよ?」
と、空いてるから座ればいいのに?という感じで、まるで子どもや動物に言うみたいにほほ笑みながら優しく言う
みいひは
「大丈夫(笑)」
と、まるでありがとうとでも言っているような感じで笑顔で答えた
・・
なにこれ? なんか尊い・・
驚きにも似た感動を覚えた
多分、男は精神的にか知能的にか何かある人だろう
まるで水泳教室帰りの小学生がパンでも食べているかのように、パンを食べていた
今みたいな場面、普通多くの人は、ギョッとして怪訝な顔でもしそうだけど、みいひは笑顔で返していた
知らん人に普通に優しくする男も和むけど、その優しさを出来る範囲でちゃんと受け取って、親切にした側が逆に得したように感じるくらいの優しさを返していた
無垢な優しさの交換に和んでいたら、みいひの最寄り駅に着いた
改札を出て、みいひはスーパーには寄らず真っ直ぐ家を目指したので、少し距離を取って後ろを歩いた
途中、美容室の前の小さな花壇に植えられてる花の方を見ながら歩いたりしてた
落ち着くなぁ
そうそう、この感じ
みいひがいるとなぜか安心する
なんなんだろ、これは
どっから来てる感情なんだ?
とか考えてたら、みいひの家に近付いて来た
家に着くのを見届けたら帰ろうと思ってたけど、
このまま、転職したことを報告してもいいかなという気もしてきた
本当は、もっと仕事できるようになってから、男として成長して格好良くなってから報告しようと思ってたけど、あんまり音信不通が長いとみいひに他の男が出来てしまう可能性もある
急遽予定を変更して、今日報告することにし、足早に徐々にみいひとの距離を詰めた
みいひが家の前に着くと同時に声を掛けた
「みいひ」
みいひは驚いたようにバッと振り返り、目を大っきくして俺を見た
久し振りとか言うのかなと思ったけど言わないし、会えてうれしそうな顔もしない
意味をはかりかねるように俺を見ている
喜んだっていいのに
ちょっとムッとしたけど、みいひが何も言い出さないから
「ちょっと話があって来た」
と俺から言葉を発した
すると、みいひは
「あ、 あの、 大丈夫だから、 私は大丈夫だからね いいよ、 気にしないで、 良人は未来がある人だもん もっともっと輝いて成功して愛されて幸せになる人だもん」
俺の話しを聞かないでいきなり言ってきた
「えっと、」
そうじゃなくて、その為に今頑張ってるんだって
とか言おうとしたら
「本当大丈夫だから、 私、もうこの年だし、今まで散々いろんな人たちと別れて来たから、 だから、これからも一人で生きていけるから」
と言いながら目からボロンと涙をこぼす
「・・」
馬鹿なみいひ
俺の将来のこと考えて別れてくれようとしてんの?
泣くほど俺のこと好きなクセに(笑)
愛されてる実感と、俺の為に我慢してるみいひがかわいくて仕方ない気持ちとが同時にきて
泣いてるみいひをハグして抱き締めた
胸に収まる温もりが愛おしい
みいひが棒のように固くなっているので、みいひがいつもしてとねだるやり方でギュッギュッと2回締め上げた
なんか知らんが体がいつの間にか反応して、アソコが立ってしまった
顔を上げさせてキスしようとしたら、みいひは体を更に固くして抵抗した
?
外だから?
みいひ、俺の評価が下がるからとか言って、いつ職場の人とかお客さんに見られてるかわからないからとか言って、外では手も繋がせないもんね
「部屋行こう」
早く愛し合いたくて言うとみいひは、俺の胸から離れ
「今までありがとう」
と足早に部屋の方に向かってしまった
「え?」
後に続いて早足で追い掛けたけど、みいひはほとんど走るように早さを増して部屋に入ってしまった
ドアが閉まるのが見えた後、ガチャリと鍵が閉まる音がした
時間差でドアの前に着くと、合鍵で入ろうかと思案した
ドアにそっと耳を近付けて様子をうかがうと、布団で押さえたような嗚咽が聞こえた
泣いてる・・
今は入っていい感じじゃないと、発達障害の俺でもさすがに思って入るのをやめた
ズンズンと帰路を進む良人
なんなん、みいひ!
俺のこと好きなんじゃないの?
俺が給料倍くらいの職場に入ったの言おうとしてんのに、話も聞かないでさ!
別れるとか勝手に決めてるし
ふざけんな!
段々腹が立って来て、
自分が何の連絡も無しに退職して引っ越して新しい職場に入って2カ月半もみいひを放置していたことについては、すっぽり抜け落ちてる良人であった
終わり
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