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人間に恋する魔物

◇◇◇

「い、一緒に……ですか?」
「そうだ。お前、男だろ?問題ないだろ。それに、片足動かないんだから、滑ったら大変だし。洗うの手伝ってやるよ」
「すみません……」

風呂に入ろうと、車いすを浴室の前まで移動させた。

「そこからゆっくり降りて、這ってこい。それくらできてもらわないと、こっちが困る」
「はい」

人間界の仕様も、魔物の住む魔界とそう変わらないとイオリは言っていた。お互いの信頼関係が築けた頃に、魔界の話でも聞き出そうと思っていたが、さほど難しくなく根掘り葉掘り聞けそうだ。

「なんだ。シャワーの出し方もわからないと思って、色々教えてやろうと思ってたのに。って、おいワン公!ここ風呂だぞ?!」

機械犬は自分からシャワーを浴びに来て、目元に《防水》というに文字を浮かべ、ボチャンといち早く湯へ飛び込んだ。

「あ、一番風呂入りやがって。ったく……おいイノリ!それシャンプーだ!」

「あっ、ご、ごめんなさ……っ」

イノリは顔を真っ青にして、ガタガタと体をふるわせた。
ハッとして鮎瀬は両手をふる。

「怒ってねぇかんな、お前、ちょっとは慣れろ」
「は、はい……すみ、すみません……」

じわぁ、と涙があふれてきている。

(あーくそ、めんどくせぇ……)

「じっとしろよ」
「は、はい……」

ガタガタとまだ震えているイノリをワシャワシャと洗ってやった。体は強張っており、鮎瀬が何をしようとなされるがままだった。

全身をくまなく洗ったあとのイノリは、思っていた以上に美しい男だった。が、いまだに目をつぶってぎゅっと拳を握り、鮎瀬を怖がっている。

「なんもしないって。ほら、風呂入るぞ」

イノリを抱き上げ、風呂に入れてやる。すると、だんだんと力が抜けてきたのか、いくぶんか体のこわばりが消えてきたように見える。

「せまいな。ワン公、風呂出ろ。機械なのに風呂なんかいらねぇだろ」

すると、目元に《ショタコンではないか?イノリを殺す役目もあるが、守る役目も私にはある》と出てきた。

あまりにも失礼な犬に絶句した。

「俺はロリでもショタでもねぇわこのくそがーー!!」
「?!、?!」

≪イノリは文字が読めない。フォロ―要≫

と犬が目元に文字を出した時にはもう、遅い。
自分が怒られたのだと勘違いしたイノリは、ハラハラと涙を流し、「ごめんなさい、ご、ごめん、なさい」と謝り始めていた。


結局、風呂を出るまでイノリは言葉を発さず、俯いていた。お前に怒ったわけじゃない、犬に言っていたのだが、どうやら信じられないようだ。

「そちらの、ワンコウさんは喋られないようですが…‥」
「こいつは目元に文字が出るんだよ」
「文字が?」

機械犬は目元に《読めるか?》と出している。

「目が、なにかの形になりました。これが、人間界の文字でしょうか」
「そうだよ。…そうだ、文字を教えてやろう。そうしたら、シャンプーとリンス―の違いもわかるし、色々便利になるだろ。レシピ見れるようになれば料理もできるし」

犬が《それはよい考え》と出している。

「文字を、教えて頂ける、んですか?」

目を大きく開き、驚いている。

「ああ。お前は賢そうだし、すぐ覚えられるだろう。そうだ、どうやってこっちの言葉を覚えたんだ?今までこっちの世界に来た魔物は全員口を割らないんだ。なのに、かなりこの国の言葉がうまい」

「それは……」

言い淀む様子から、どうやら口止めを誰かからされているのだと気づく。まだ信頼が足りないようだ。

「あー。言いづらいなら、言わないでいい。夕飯にしよう。昼にもらった粥、タッパーに包んでもらったから、それでいいか?」
「また食べられるんですか?」
「ああ。お前は腹、へってないか?そういえば、一日一回でいいとかなんとか、鬼柳に言ってたらしいな」

「お腹は…‥すいてます。で、でも、そんなに食べて、だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫って、なにが」
「お、お金、とか……」
「そこまで貧乏じゃねぇよ。一応これでも国家公務員してるんだから。お前みたいのが100人いたって養えるくらいには稼いでるよ」

犬が《百人は無理だろ》とツッコミの文字を出しているが、無視をした。






◇◇◇
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