金の斧、銀の斧
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翌日以降、ヒルマは実験を始めた。
それは――『落としていいものと悪いものの検証』。
「ケケケ!」
ぽちゃん。
とあるものを川の中に投げ入れた。
「ちょっとォォォォォ!」
女神とは思いがたい怒声で突っ込みながらサキが現れる。
「まんじゅうはダメェェェ! 食べ物はダメェェェェ! 色塗っちゃったら『後でスタッフが美味しく頂きました』ってできないでしょおお!? 最近世間はそこらへんものっそい厳しいから!」
どうやらサキも世間の目は気になるようだ。
食べ物はだめらしい。
***
更に翌日。
「ケケケ!」
ぼちゃん。
とあるものを川の中に投げ入れた。
「おォォォォォい!」
勢いだけのお笑い芸人さながらに突っ込みながらサキが現れる。
「電子レンジはダメェェェェ! 感電しちゃう! 私感電しちゃう!! あと水没すると使えなくなっちゃう! てか一人で持つには重すぎィィィ! あんたどうやって持って来たの!」
逆にサキはどうやって電子レンジを一人で持てたのか。
電気機器ははだめらしい。
***
更に翌日。
「ケケケ!」
ぼちゃん。
とあるものを川の中に投げ入れた。
「キィィエェェェェ!」
コウモリと同じ周波数で突っ込みながらサキが現れる。
「はさみはダメェェェェ! 刃物ダメェェェェ! しかも園芸用のでかいの! 刃物は水の抵抗少ないから! もし私が真下にいたら死んでたから! 原作の女神も多分斧落ちてきたときびびったからね!」
原作の女神の真上に斧が落ちなかったことは確かに奇跡かもしれない。
刃物はだめらしい。
***
更に翌日。
「ケケケ!」
ぼちゃん。
とあるものを川の中に投げ入れた。
「んごォォォォォォ!」
地を這うデスボで突っ込みながらサキが現れる。
「エクスカリバーはダメェェェェ! 刃物ダメって昨日言ったじゃァァァん! てか刃物以前にこれ世界に一つしかないやつでしょ!? どっから取ってきたの!? 今頃どこぞの勇者困ってるよ!」
エクスカリバーがなければオリハルコンで最強武器を作ればいいじゃない。
伝説の武器はだめらしい。
***
更に翌日。
「ケケケ!」
ぽちゃん。
とあるものを川の中に投げ入れた。
「くぁwせdrftgyふじこlp!!」
もはや何を言っているのか分からない突っ込みでサキが現れる。
「っちょ、ねえ何これ! あんたなんでこんなもん落としてんの!?」
その両手に包まれていたのは――光に照らされて美しく輝く、指輪。
見たことのない表情でサキが怒鳴る。
「これ大事なものなんじゃないの!? 見た感じ傷一つないし……どう考えても新品じゃん! こんなの落としちゃダメでしょ、バカヒルマ!」
「うっせえ糞サキ。そりゃテメーのだ」
「もおォォォォ! 人に糞って言っちゃいけませ…………ん、え? あたしの?」
唐突に意味不明な発言をされ、サキは難しい顔付きで指輪を見つめた。
ヒルマは涼しい顔でそれを眺めている。
「……あたしのじゃないよ、これ。だって指輪なんて持ってないもん」
「だから、テメーにやるっつってんだよ」
「………………はい?」
理解が追い付いていないのか、より一層顔を歪めたサキにヒルマは肩を落とした。
単純な性格ゆえにすんなり状況を飲み込むかと思ったが、バカ要素の方が勝ったようだ。
これはもうはっきりと告げないと分からないだろう。
ヒルマは自分の左手をひらつかせ、その薬指に輝く貴金属をサキの目に映した。
「ただの指輪なんざじゃねえ、結婚指輪だ」
「え、けっ…………」
「サキ。俺の妻になれ」
瞬間、サキの脳内には有名なあの曲が流れたらしい。
だけでなく、叫んだ。
「エンダァァァァァァァァァイヤァァァァァァァァァ!!!」
それと同時に脳内では正月とクリスマスと誕生日と終戦記念日がいっぺんに来たくらいの盛り上がりになったようだ。
「ぅえええええ嘘ォォォォ!? 結婚!? 婚約!? 妻!? あたしが!? 嘘ォォォォォォ!」
「いちいちうっせえなテメーは」
「いやうるさくもなるでしょこんな一大事! えええええ信じらんない! ヒルマが!? あたしに!? プロポーズ!? 嘘ォォォォォォ!!」
「うっせえっつってんだろ糞サキ! アタマぶち抜くぞ!」
「いやァァァァ早くもDVの予感ンンンン!!」
眉間に銃を突き付けられたサキは静まるどころか余計に騒ぎ出した。
自分はこんなイカれた女にプロポーズしてしまったのか。
ヒルマの中ではすでに後悔の念が生まれ始めていた。
「――返事は」
ひと呼吸おいて冷静さを取り戻したヒルマのひと言に、サキは「へん、じ?」と首を傾げた。
「まだ返事を聞いちゃいねえ。……プロポーズのな」
「……そんなの、」
サキは指輪を握り締めた手でヒルマを包んだ。
突然の大胆な抱擁に心臓がドクンと脈打つ。
ヒルマの鼻をくすぐったのは、澄んだ水の清い香り、川べりに咲く野花の柔らかい香り。
そして、――サキらしいペンキの香り。
「――嬉しい。返事は『はい』に決まってる」
「……そうかよ」
少しの間香りに気を取られていたヒルマだったが、肯定の返事を聞けたことで安堵した。
――のはいいものの、冷静に考えてみるとサキがプロポーズを受けた理由が分からない。
会ってからしたことといえば、銃の受け取り、頭わし掴み、銃突き付ける、罵倒、恐喝、妙なものを水中に落とす検証。
……客観的に見ても見なくても、断る理由しか考えられない。
ヒルマは逆におぞましさを感じてきた。
サキが満足そうな表情で離れたところで、内心おそるおそる聞いてみる。
「おいサキ……なんで俺のプロポーズ受けやがったんだ? どう考えても異常だろ。断るだろ普通」
「え、自分でそれ言う?」
ヒルマの矛盾した態度がツボにはまったのか、サキは声高らかに笑った。
「はーおっかしい。……あのね、あたし楽しかったんだよね」
ずっと水の中にいて話せる人がいなくて。
ものを落とした人とは話すけど、聞くことは決まってるわけだし。
普通は一回落としたら慎重になるから、話すのは一回きりだし。
でもヒルマは違った。二回落とした。
しかも同じ場所に同じ時間に同じものって、笑うしかないじゃん。
何この人? 大丈夫? みたいな。
それだけじゃなくて、一緒に話して、ふざけ合ってさ。
女神って言ってるのに全然神聖な扱いしてくれないし。
意味分かんないものたくさん落としてくるし。
かと思えば、急に大事なもの落としてくるし……。
俯いてぽつりぽつり語っていたサキが、ぱっと顔を上げた。
「だからね、一緒にいたらもっと楽しいだろうなって思ったの! これが理由!」
それだけ言うと、サキは踊るように手を広げてくるりと後ろを向いた。
プロポーズという大イベントなんてまるでなかったかのように、飄々とした変わらない態度で鼻歌を歌っている。
だがヒルマは見逃さなかった。
――シミのある白い服に、赤く染まった耳がよく映えていたことを。
だいぶ変わった……いや激しく変なヤツだけど、
女神のくせに女神らしさのかけらもねえようなヤツだけど、
すぐ天狗になるし食い意地も張ってるし高確率でうざくもなるけど、
――こういう可愛いとこもあんだ、サキには。
自然と笑みが浮かんだところで、サキが何やら閃いた風な顔で振り返った。
「ヒルマが川に落としたものは私が拾うから、神堕ちした私はヒルマが拾ってね! ――よし、決まった!」
「うまいこと言おうとしてんじゃねえバカ」
ドヤ顔で何急に笑点みてえなこと言い出してんだ。
やっぱコイツバカだな。
……つうかテメーは、川に落としたもの以外のものも拾ってんじゃねえか。
銃と――恋に落ちた俺を。
そんなことを言うとまた癖の強い女神が図に乗りそうだったため、最後の台詞は飲み込んだヒルマだった。
めでたし、めでたし――。
今回のパロディ元:全体的に銀/魂、ポケ/モン、ドラ/え/もん
お世話になってます。