金の斧、銀の斧
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ひと晩経ち、ヒルマはある結論に達した。
それは『もう一度落としてみる』こと。
昨日と同じ時間帯に、同じ場所で、同じものを落とすとどうなるか。
もしまたあの自称女神が現れたなら、消える前に問い詰めて種明かしをさせよう。
どうしても隠し立てすると言うなら……脅してでも吐かせよう。
隙の無い計画にヒルマは黒い笑みを浮かべた。
そしてやって来た例の川。
ヒルマは予定通りの時刻に、昨日と同じ銃を川に投げ入れた。
すると、再び水面がそよいで輝きだす――。
「はいはーい、銃落としたの誰……ってあんた昨日のヤツじゃん」
昨日と同じくまた三丁の銃を抱え、軽い感じで自称女神が現れた。
この時点で、少なくとも同じ条件であれば確実に出現することが判明した。
なら別の時間帯や別のものの場合はどうなるか。検証する価値はある。
そうヒルマが考え始めたとき、水に浮かぶ自称女神は分かりやすく鼻を鳴らしてせせら笑った。
「え、嘘? また落としたわけ? 昨日の今日で? しかも同じ時間に同じものを? え、本気? あんたバカなの? マジモンのバカなの?」
「ぶっ殺す」
息をするように飛び出る怒涛のディスりにヒルマはキレた。
検証だとか悠長なことはもうどうでもいい。
脅して吐かせれば一瞬で終わる。
それに多少の腹いせにもなる。
それは0コンマ数秒もかからないほどの即決だった。
ヒルマは光の速さで生意気な女神の頭をわし掴み、腰に下げていた小型の銃をその額に突き付けた。
「いだだだだだ! ちょ頭割れる、割れるし銃危ない! 頭の中に大事なものいっぱい詰まってんだから、ほら夢とか!」
「額に風穴空いても夢はテメーの心に残るから気にすんな」
「いい感じにもってこうとすんの無理あるゥゥゥ! ほら具体的に言うと脳みそぶちまけちゃうから!」
「頭軽くなって夏場は特に過ごしやすくなんだろ。むしろ感謝しやがれ」
「美容師みたいに言ってるけど頭丸ごとだからね!? 感謝するポイント見当たらないからね!? ……ってほんとにいだだだだだ!!」
掴まれてミシミシと音を立てる頭、銃口でゴリゴリと音を立てる額。
このままでは発砲などしなくても別の形で終わりを迎えそうだ。
本気でやばい、そう悟ったらしい死にかけの女神は全力で叫んだ。
「あの、ほんとごめんなさいっ! 言い過ぎましたすみません! 勘弁してくださいほんとにっ!!」
「反省が足りねえなあ」
「この度は貴方様の御気分を著しく害してしまい誠に申し訳ございませんでしたァァァ! 初対面ではないという一抹の安堵から緊張感が雲散霧消してしまいまるで見知った顔と出会ったときのように気が緩んでしまったことが原因かと思いますゥゥゥ! 今後一切同じことを繰り返さないよう常に死と隣り合わせであるほどの緊迫感を忘れずに人と接することをここに誓いまァァァァァす!!」
「よし」
心からの謝罪を聞いたヒルマは落ち着いた様子で手を離した。
ここは一旦よしとしてやろう。
青ざめた女神はというと、ぐったりと座り込み、「ほんとに死ぬかと思った……」やら何やら呟いている。
『神』といえども、銃などの物理攻撃や脅しなどの精神攻撃は有効らしい。
それが分かれば誰が相手だろうとこの男の土俵だ。
ヒルマはゆっくりとしゃがみ込み、意気消沈している女神と目線を合わせた。
もちろん子供を相手にするように優しくしているわけではない。
恐怖と圧迫感を強調するヤ●ザの手口だ。
「テメーに聞きてえことがある」
「ハイなんでございましょう何なりとどうぞお好きなだけアズユーライクゥゥゥ!」
「まずそれ腹立つから普通にしゃべりやがれ」
「うんわかった!!」
まるで犬のように元気良く返事をした女神を見てヒルマは確信した。
コイツ、頭空だ。
こんな馬鹿相手に真面目に検証しようとしてた俺が馬鹿だった、と若干恥ずかしくなったヒルマだった。