金の斧、銀の斧
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とあるところに、どう見てもきこりには見えない風体のきこりがいた。
金髪ツンツンヘアのその男の名はヒルマ。弱冠十六の働き盛りだ。
今日もきこりらしく、斧で木を切る……なんてことは彼はしない。
今日もきこりらしからず、銃で気に食わないヤツらを脅して金品や食糧を奪っている。
それきこりじゃなくて盗賊だよね、というツッコミは各々心中に収めて頂きたい。
「ケケケ、今日も大量だな」
戦利品を獲たヒルマが良い気分で川のそばを歩いていると、突然森の茂みから熊が飛び出して来た。
「グオオオオオオッ!!」
「……っ、ぶねえ!」
野性の鋭い一撃をすれすれでかわしたものの、銃に爪がかすってしまい、はずみで川の中へ投げ飛ばされてしまった。
ばちゃんと音を立て、鉄の塊は無残にも沈んでいく。
「あ、俺の銃! ――こんの、糞熊……っ!」
お気に入りの愛銃を奪われ、一気に殺意が増幅したヒルマ。
直視できないどころか息ができなくなるほどの眼光を熊に向ける。
空腹で人を襲ったのはいいが――相手が悪かった。
熊は悪魔の邪悪なオーラにあてられ、歯をガチガチさせて涙と鼻水を垂れ流しつつ一目散に逃げて行った。
「――糞! 貴重な一丁だってのによ……」
ヒルマがぶうたれながら川底を見つめたそのとき、水面がまばゆく輝きだした。
光の反射などではなく、もっと神々しい輝き――。
あまりの眩しさに目を細めていると、光は徐々に人型に変わっていった。
そこに現れたのは――
「……なんだテメーは」
「いや見ての通り女神ですけど?」
女神? こいつ女神っつったか今?
女神と名乗ったそれは、白装束に身を包み三丁の銃を抱えていた。
流れるようなブロンドの髪と端麗な顔立ちは女神と言われればそれっぽいが……よく見れば身に着けている服があちこち変な色に染まっている。
洗濯しているのかどうかが疑わしい。
それになんだか銃を抱える手が薄汚れている風にも見える。
女神と言うからには世間のイメージ的にもっとこう、純白で汚れない出で立ちじゃないのか。
しかも本物の女神が「女神ですけど?」なんてふてぶてしい態度をするのだろうか。
ヒルマの訝しげな視線に気付いているのかいないのか、自称女神はこともなげに話し始めた。
「あんた銃落としたよね? それってこの金のやつ?」
「いや違え」
「じゃこの銀のやつ?」
「それも違え」
「はい合格ゥゥゥゥ! 正直ィィィィ! あんためっちゃ正直ィィィィィ!!」
「糞うぜえな、なんだこのノリ」
自称女神はけだるそうな態度から一変し、まるで密かな恋心がクラス中にばれた男子をからかうタチの悪い女子のようになった。
『女神』の定義とは。
自称すれば誰でもなれるものなのか。
するとその面倒なやつは、持っていた三丁の銃をヒルマに押し付けた。
「あんた正直者だからこれあげる! ってかすごい重かったんだよねこれ。早く持って」
「テメーが勝手に持ってたんだろうが!」
「つーわけでじゃあね~」
何が「つーわけ」なのかは分からないが、明らかなその不審人物はしゃべるだけしゃべって押し付けるだけ押し付けて水中へと消えて行った。
一人取り残されたヒルマはもちろん――絶句。
アイツ何なんだ? 何者だ?
女神とか言ってやがったが絶対ンなわきゃねえよな。
あんなみすぼらしい恰好で鼻につく態度で自分勝手にもほどがあるヤツ、女神のめの字もねえだろ。
一体どういう原理で水中から出て来やがったんだ?
水中から出て来たわりには全く水に濡れてなかったのはなんでだ?
そもそもあの腹立つ感じはなんだ?
「……つうか、この金の銃と銀の銃、俺の銃と全く一緒のモデルじゃねえか」
色が違うということを除けば、いつもの見慣れた銃と全く同じ。
だがこのタイプの金色と銀色なんて見たことはない。
同じ物なのに同じとも言い切れない。
……分からないことだらけだ。
疑問は尽きなかったが、とりあえずヒルマは三丁の銃を持ち帰ることにした。