白雪姫
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
実演販売は無事に終了。
結果はもちろん、五百個のリンゴ完売の上、購入者全員が名簿に署名するという高い功績を残した。
もうちょっとしたお祭りのようだ。
ブランドリンゴということで売値もかなりぼったくっていたため、笑えるほど利益が出てしまった。
「あれだけ頑張っても私は一個も売れなかったのに……」
「ケケケ、商売っつうのは頭使わねえとな。他と同じことしてたんじゃ売れるもんも売れねえよ」
たったの数秒で大量の紙幣を数え終わったヒルマは、名簿を手にとって上機嫌そうに口にした。
最初の印象から只者じゃないとは薄々思ってたけど、まさか本当にこんなすごいことをやってのけるなんて思わなかった。
売り方を変えるだけで、同じリンゴでもこんなに人気が出るなんて……。
って、ん?
ヒルマさん何してるんだろう。
名簿をスライドさせて、下から別の紙が……って、
「ええっ!? なんですかそれ!?」
「ケケケ、奴隷になるっつう誓約書だ。抽選なんざただの見せかけだ」
抽選名簿と書かれた外側の紙を破り捨てて新たに出てきたのは、禍々しい言葉が綴られた一枚の紙。
なんということだろうか。
彼はバレないように緻密に二枚の紙を重ね合わせ、名前だけをメインの紙に書かせるように細工したのだ。
これはデス●ートでFBIを大量殺害させるときに月が手作りした穴抜け用紙と同じ……!
この人、月と同じくらい……いやそれ以上の天才!?
「これで街一つ分の奴隷ゲ~ット」
「まじか…………」
「さァて、もうこの街は用済みだ。次は隣街にでも行くとすっか」
約束通り売上の一割を残し、小ぶりな荷物と銃を抱え直してヒルマは立ち上がる。
「じゃーな、サキ」
「……あ……」
サキは直感した。
この人についてけば商売上手になれる、と。
考えるより先に口が動いていた。
「ヒルマさん! お願いです、私を連れてってください! 私、あなたの弟子になりたいんです!」
決死に打ち明けたサキの懇願に、ヒルマは嬉しそうでも嫌そうでもない全くの無表情で振り向いた。
微塵も興味がなさそうなその面持ちにサキは少しだけ心が折れそうになったが、千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。
これを逃したら、また売れないリンゴ売りの日々が続いていくことが目に見えているからだ。
「テメーを連れてくメリットがどこにあんだ」
「え、メリット!? えっとそれは……あ、荷物持ちします!」
「荷物なんざ大して持ってねえよ」
「うーん、じゃあ……掃除洗濯!」
「俺はひとところに留まるつもりはねえんでな。不必要だ」
「えーとそれなら………………奴隷! とか。あはは、なんちゃっ――」
「許可」
「いいの!?」
ヒルマの口から出るはずのないお許しの言葉――いや、本来その言葉を引き出したいがために食らいついたのだが――が意外と早くぽろりとこぼれたことに、サキは目を丸くした。
なんでこの人こんなに奴隷に執着するの!?
なんか別の意味で怖くなってきたよ!?
特に深く考えもせず放った『奴隷』という単語だったが、改めて考えると決していい意味を含んでいるなずがないことに気付く。
自覚した途端、プール上がりかというほどの尋常じゃない冷や汗がにじみ出てきた。
「あの、私やっぱり」
「言ったからにはやりやがれ。冗談でしたじゃ済まさねえぞ俺は」
問い詰めるようにサキに迫るヒルマ。
急に真面目なトーンになるのは卑怯だよ……。
まるで私がいい加減なヤツみたいじゃんか……。
ヒルマの変に真っ直ぐな視線に耐えきれなくなり、体裁が悪くなったサキは唸りながら頭を垂れた。
「まあどうしてもっつうんなら、無かったことにしてやってもいいがな」
「え、ほんとですか?」
「ただ約束破った罰として、○○しながら○○で○○した後に、○○の○○を○○するくらいはしてもらわねえと――」
「ほんとすみません奴隷でいいですすみません」
ちょっとあまりにアレすぎて文字にもできない。
この人やばい人だ、世間の基準では測れないほどやばい人だ。
きっとこれが本性なんだろう。
この人に逆らったら大変なことになる。
……奴隷になるって言っちゃった時点で、お先真っ暗感がものすごいけど。
「ケケケ、言ったな? ならこれからは奴隷として、俺の手となり足となり椅子となり死ぬ気で働きやがれ」
「うう……お手柔らかに、よろしくお願いします…………え、椅子?」
疲れたと言われれば椅子として四つん這いになり一ミリの遠慮もなく全体重を掛けて腰を下ろされる日でも来るのだろうか。
いや、来るかもしれない。というか絶対来る。
なぜなら彼は悪魔の悪徳商人・ヒルマなのだから。
この先に待ち受けているであろう苦難や苦痛が容易に想像でき、まるで屍さながらのサキ。
対して、何でも言うことを聞き時には椅子として使うことができる便利な奴隷を手に入れて満足げなヒルマ。
血の主従関係で結ばれた二人は、次の街を目指すのだった。
後に木村さんちのリンゴ(大嘘)は大ブームを巻き起こし、ヒルマとサキが伝説のリンゴ商人として語り継がれることになったのは、また別のお話――。
一方その頃、城では。
「このリンゴ美味しいね、セナ!」
「うん、本当だね! 一体どこ産なんだろう」
「確か木村さんちのって言ってたわ。知らないけど」
「へぇ~、僕も知らないや。まあ美味しいからいっか」
「そうね、美味しいからいいわ」
まもり姫は衛兵の買ってきたリンゴをセナと仲良く食べながら、何事もなく平穏に暮らしたのだった。
めでたし、めでたし――。
今回のパロディ元:ジャパ/ネット/たかた、奇跡の/りんご(木村さん産)、デス/ノート
お世話になっております。