白雪姫
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そして三日後。
何をするのか分からないが、何をするにも良さそうな快晴のこの日。
街のそこかしこに、「本日十時開催!」や「お見逃しなく!」などのうたい文句がプリントされた、おそらくヒルマが用意したであろうコウモリ型のバルーンが飛んでいる。
肝心のヒルマとサキは、街の中央にテーブルやら何やらを広げて陣取っていた。
「あの~、今日何するんですか?」
「心配すんな、テメーは俺の言う通り動きゃいいだけだ。とりあえずこれ付けろ」
雑に放られた赤い何かを広げてみると、それは――
「エプロン?」
胸のあたりにでかでかと書かれた『じゃぱねっとヒルマ』の文字が、例のあの人を彷彿とさせる。
これ大丈夫かな。訴えられない?
「もうすぐ十時だ、そろそろおっ始めんぞ。ケケケ、ミュージックスタート」
ヒルマが何かの機械のスイッチを押したかと思えば、妙に耳馴染みのあるあの曲が流れ始めた。
――じゃ~ぱねっとじゃ~ぱねっ(フゥ↑フゥ↑) ユメのじゃぱねっとヒルマ~♪
「ちょこれほんとやばいヤツじゃ」
「さァ~て、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! じゃぱねっとヒルマのユメの実演販売、はーじまーるよー! YA-HA-!」
「誰!?」
さっきまでの悪どい態度や笑顔はどこへやら、今はすっかり営業用らしきイケメンさわやかお兄さんに転身している。
ここまで人は大幅なキャラチェンジができるものなのだろうか。
ひそめすぎたサキの眉は急角度のハの字になってしまっている。
そんなサキの戸惑いとは裏腹に、事前のバルーンや軽快なBGM効果も功を奏したのか、老若男女問わず続々と人が集まってきた。
「本日ご紹介するのはコチラ! かの有名な木村さんちのリンゴです! 見てくださいこのボーディー! 艶があって美味しそうでしょう!」
もちろんサキの脳内では、ジャパネットた●た社長のあの甲高い声で再生されている。
「おお、あの無農薬・無施肥の高品質のリンゴか!」
「テレビで見てからずっと欲しかったのよね~!」
「なんでも奇跡のリンゴって呼ばれてるらしいぞ!」
木村さんって誰? というサキの疑問は観客のざわめきによって解決された。
なるほど、よく知らないけどとにかくすごいリンゴを作ったすごい人らしい。
ってこれ木村さんのリンゴじゃないよ!?
サキは焦りながらヒルマに目配せをする。
ヒルマの目が一瞬で語った。
――テメーが黙ってりゃバレねえ。バレなきゃこっちのもんだ――、と。
「今日はコチラのリンゴを使って、ティータイムのおやつにぴったりのアレを作っちゃいます!」
観客の歓喜の声が上がったのを合図に、ヒルマは慣れた手付きでリンゴを適当にカットし始める。
そしてサキの用意したミキサーに放り込み、荒く回した。
「テメーはメレンゲ作れ」
「え!? メレンゲってどうやって作るんですか!?」
「チッ、ンなことも知らねえのかよテメーはよ。卵白をハンドミキサーで角が立つまでやんだよ」
「わ、分かりました!」
耳打ちされた言葉通りに、サキはハンドミキサーと卵白を準備する。
するとみるみるうちに白いモコモコになり、まるで濃厚な生クリームのようになった。
「ヒルマさんできました!」
「やっとできたか。おら寄こせ」
乱暴に引ったくられたメレンゲはすでに準備されていた何かと混ぜ合わされ、あっという間に不思議な形のケーキ型に流し入れられた。
「これで後は焼くだけです! 今日は時間節約のため、事前に焼き上げていたコチラをご覧ください!」
ヒルマがテーブルの下から取り出したのは、熱々の出来たてリンゴシフォンケーキ。
いつ焼いてたの!? と突っ込まざるを得ない気持ちだったが、フルーティな香りと柔らかそうな見た目に悩殺されたサキはそんなことどうでもよくなった。
ヒルマが手際良く切り分けた後、最前列の子供に一つ手渡す。
受け取った子供は噛みしめるように咀嚼し、そして一言――
「っ、おいしーいっ!!」
幼い笑顔が弾けた瞬間、ウオオオオ、と観客が快哉を叫び盛大な拍手が湧き起こった。
ヒルマに顎で指図され、サキは慌ててカットされたシフォンケーキを順に配る。
頬張った人たちは口々に美味しいとこぼし、全員もれなく笑顔になった。
「皆サマいかがですか木村さんちのリンゴは! こんな素晴らしいブランドリンゴなんて、めったに手に入りませんよ!」
ヒルマのダメ押しの一言で、すでに火がついていた観客は更に燃え上がる。
押すな押すなの野次の中、飛ぶように売れゆくリンゴたち。
その圧倒的な光景を目の当たりにしたサキは、いっそ開き直りながらも微妙に罪悪感に苛まれていた。
本当はそこらへんの市場で買ったリンゴなんだけどね!
しかも大量購入のために賞味期限近いおつとめ品として売ってたやつも混じってるけどね!
よ~く見たらちょっと傷んでるよ!
だが当然暴露してしまうわけにいかない。
ヒルマに後で何をされるか分からないからだ。
商品とお金のやり取りで四苦八苦しているサキを手伝おうともしないヒルマは、更に声を張り上げた。
「この街の皆サマに朗報です! 購入者限定でコチラの用紙に名前と住所を書けば、抽選でリンゴ一年分をプレゼントしちゃいます! 太っ腹なダブルキャンペーンは今回限りですよー!」
一体この人はどれだけ頭の回転が良く、どれだけ弁が立つのだろうか。
最初に子供に試食を渡したのも策略のうち、というかあれはエキストラではと疑ってしまうほどだ。
リンゴを購入した客は、当然のようにヒルマの元へと流れる。
サキの目にはもはや、ヒルマが知能タイプの化け物にしか映らなくなっていた。