魔法のランプ

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学校に着いたはいいものの。



朝練中、隣にはサキ


「ねえ妖一、これは何してるの?」

「アメフトの練習」

「あめふと、って何?」

「アメリカンフットボール」

「あめりかんふっとぼーるって何?」

「フットボールの一種であり楕円形のボールを使って二つのチームで得点を競い合うスポーツ」

「ふっとぼーるって」

「うるせえな糞サキ!」

「ごめんなさい!」




授業中も隣にはサキ


「妖一、これは?」

『授業』

「じゅぎょうって……ねえ、なんで文字で返事するの?」

『会話すると他のヤツらが面倒なことになる』

「ふうん。ところでなんで妖一は他の人たちとは違うことしてるの?」

『授業なんざ退屈過ぎて時間の無』

「あ、ねえねえ見て妖一! みんな開いてる本にツタンカーメン載ってるよ! あ、ピラミッドも! こんな砂漠の洞窟で出会ったご主人様もいたなあ~! 右見ても左見ても砂、砂、砂でそれ以外何にも」

『うるせえな糞サキ!』

「ごめんなさい!」




昼ご飯中もやはり隣にはサキ


「妖一何食べてるの?」

「弁当」

「うわあ、いろんな色入ってるね~! これ何?」

「トマト」

「とまと、すっごい綺麗! 私も食べたいなー!」

「テメーは食えねえだろ」

「食べれ……いやいけるかもしんない、やってみよ! なんか今ならいける気がする! 食べさせて妖一! ほら早く、ねえ早く、とまとちょうだいってばあ!」

「うるせえな糞サキ!」

「ごめんなさい!」




夕方ももれなく隣にはサキ


「私覚えたよ、あめりかんふっとぼーるだよね!」

「ああ」

「これなんだか楽しそうだね! 行ったり来たりしてて」

「……楽しそう、じゃねえ。楽しいんだよ」

「妖一はどんなところが楽しいと思うの?」

「肉弾戦かと思いきやふたを開けりゃタクティクスがものをいう世界でフィジカル弱者でも十分なダークホースになり得るなぜならトリックプレーとカマかけ挑発で敵さんのメンタルえぐって個々でもチームでもバランス崩れさせりゃ」

「ちょちょちょっと待って分かんない、分かんないって! そんな一気に言っても分かんないから最初からもっかい言って! 聞いたことない単語があり過ぎてそもそも何て言ったのか聞き取れなかったしもちろん意味も分かんないしで」

「うるせえな糞サキ!」

「妖一もだよ!?」




集中する間も休まる間もなく、あれは何だこれは何だと聞いてくるサキ


終始ヒル魔の頭を占めていたのは、

『この糞サキ、掃除機で吸い込んでやろうか』

だった。




***




異常に長かった一日にこれでもかと精神をすり減らされ、自宅に着くや否やベッドに倒れこんだ。

まだ初日だというのにこれではどうあっても身がもたない。



「妖一の言った通り、がっこうってすっごく楽しいね!」

「俺にとっちゃ今日は驚くほど楽しくねえ場所だったけどな」



テメーがいちいち邪魔しやがるかんな、そんな皮肉を含んだ返答も大興奮しているサキの耳には届かない。

見た目のサイズは高校生だが中身はまるで小学生。何を見ても目を輝かせ、触れないのに触ろうとする。

子供のお守りをしていると言っても過言ではないだろう。



「妖一は毎日あんな面白い場所に行ってるんだね。うらやましいなあ……」



窓から学校の方向を遠く眺めてサキがこぼした。

あれほど意気揚々としていた姿から途端にその面影が消え失せる。哀愁すら漂う風で。

何となく気まずくなった沈黙の空気がヒル魔の口を動かした。



「……テメーが元々いた場所はどんなとこだったんだ」

「私のいたところ? うーん、そうだなあ」



空気を重くした自覚はないらしいサキが軽い調子で振り返る。

だが、



「──何もないところだよ」



その目から輝きが消えた気がした。



「何もない……ただの白い世界。そこに精の王がいて、私はただ言われて来るだけ」

「……そうか」



淡々と話すサキの言葉にどう反応すればいいのか定まらず、単純なひと言しか返せなかった。

聞いて良かったのか、聞かなければ良かったのかは分からない。

薄く笑ったサキはまた視線を外に戻して続けた。



「私も毎日こういう風に過ごしたい。いろんなことを見たり聞いたり、自然に癒されたり。……美味しそうなご飯が食べられないのは残念だけどね」



今日のことを思い出しでもしているのか、声がやや明るくなる。

サキは一日中ずっと笑顔だった。何に対しても好奇心旺盛で、様々なことに夢中になって。

それは『何もないただの白い世界』では、ひとつとしてできなかったからだ。

……もしもそれが自分だったら。

アメフトひとつなくなっただけでも意気消沈するのに、何もかもなくなるなど──おそらく耐えられないだろう。


想像に背筋の寒さを感じていると、顔を見せないままのサキが「それにね」と付け足した。



「何より、妖一と一緒にいるのがすごく楽しかったから」



飾らない素直な言葉に、全身を柔い刺激が駆け抜ける。

それに振り動かされるように活気づく細胞、上がる体温。

サキがへへへと照れ隠しらしい笑いをこぼしたが……照れたいのはこっちも同じだ。

人と接する機会が少ない分、真っ直ぐに伝える以外の方法を知らないんだろう。


向こうを向いたままで良かった。

──そう思ったのはきっと片方だけではない。


サキの会心の一撃に対し、ヒル魔なりの照れ隠しである仏頂面で返す。



「そうかよ。こっちゃペース乱されて大変だったってのに」

「ぺーすって何?」

「……テメーは」



学校を離れたのにまた始まりそうだった問答タイムにあからさまな不機嫌顔を浮かべると、丁度こちらを向いたサキがけらけらと笑った。

そしてひとしきり笑い飛ばした後、「でも、」とわずかに首を傾げて呟く。



「……私は願いを叶えるランプの精だから、いつまでもこうしてるわけにいかないんだよね……」



こうしていたい。こうしているわけにいかない。

願望と使命の間で揺れる葛藤を抱えたサキの悲しげな瞳がやけに印象的だった。



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