かぐや姫
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そしてその夜、宣言通り沙樹姫とヒル魔は月へと旅立った。
月からの使者は絢爛豪華な牛車で現れ、向こうで人気の手土産らしい『満月餅~こしらえたのはうさぎじゃなく民間業者です~』をそっと差し出し、深々とお辞儀をして空へと昇って行った。
美しいその様は目を見張るほどだったが、無駄な涙を流して杞憂したセナと鈴音が疲労感満載の顔付きを浮かべていたのは言うまでもない。
雲一つない輝く夜空を駆け、牛車はあっという間に沙樹姫の実家へと到着。
沙樹姫たちは出迎えが来るのを待たずしてずかずかと建物の中へ押し入り、スパンと障子戸を開け放った。
「父君、母君、只今帰ったぞ」
「あらあら、お帰りなさい沙樹ちゃん! ずっと待ってたのよ~!」
「よく帰って来たな、沙樹」
満面の笑みで駆け寄り沙樹姫を抱き締めたのは、母のまもり。
その光景を父の武蔵は微笑ましそうに見守っている。
清楚系美人の母とワイルド系イケメンの父を持てば、沙樹姫のような非の打ち所がない超絶美人の子ができるのも当然の話だ。
さらに言うと、娘が知らない男性を家に連れて来たとなれば親がソワソワするのも当然の話だ。
「えっと、沙樹ちゃん? そちらの方はもしかして――」
「婿のヒル魔じゃ」
「ケケケ! ハジメマシテ」
「なんだか一癖も二癖もありそうな婿さんだな……」
武蔵が見事的を射たひと言をこぼす。
娘の彼氏(もしくは夫)が立場的にどうしても気に食わない、ということを除いても、ヒル魔はそう思わざるを得ない風体の輩だ。
そんな父を無視して母は礼儀正しい挨拶をする。
「ヒル魔くん初めまして! 二人はいつもどんなことをして過ごしてるの?」
「罠にはめようとしたり軽々と抜けられたりゲーム談議したりじゃな」
「……? ええと、一緒に食事に行ったりとか」
「毎食爺にフルコースを用意させておる」
「じゃあ、遊園地に行ったりとかは……?」
「退屈なときは爺を馬にして練り歩いたり、試作の罠にはめてみたり、パシリタイムアタックをしたりしておる」
顔を合わせたことがないとはいえ、『爺』のあまりの不憫さにさすがにやや曇り顔になってきたまもりは、武蔵にこっそりと耳打ちした。
「うそでしょ、こんな歪んだ性格に育っちゃった……?」
「……一応結婚できたんだからまあ良かったんじゃないか?」
まさか日常生活の内容を聞いて逆に不安になるとは思わなかった。
と内心唸ったまもりだったが、それも個性の一つとして受け入れることを決めた(母は強し)。
「ま、まあ、とにかく久しぶりに会えたんだから、二人とも今日はたくさん話を聞かせてね!」
「もちろんじゃ!」
「ヒル魔くん、酒は飲めるか?」
「ケケケ、当然だ!」
こうしてなんやかんやおめでたい宴会が始まった。
若干気を遣っていたであろう各々も、話をするうちにすぐに打ち解けていった。
使用人の立場である使者たちもいつの間にか混ざり、まるでお盆に本家に集まった親戚含む大家族のよう。
これでもかというほど大量に準備された料理や酒はすぐに空になり、たちどころに夜は更けていった。
泥酔しきった面々は一様にぐっすりと寝静まった……。
──はずだった。
***
「……どうしてこんなことに」
目の前で繰り広げられる光景にまもりは呆然とした。
今眼前には、毒沼にはまって苦しそうにもがいていたり、電気柵に触れて髪がアフロになり肌が焦げ付いていたり、小型地雷を踏んで屋敷外に吹っ飛ばされたりする使用人や来客たちが映し出されているいくつものモニター。
それと。
たくさんのボタンを操りながらゲス顔でモニターを眺める沙樹姫とヒル魔。
そしてなぜか使用人の代わりに、食事やおやつを運んだりティッシュを取ったりペットボトルのふたを開けたり閉めたりする武蔵。
異様だわ。異様過ぎる。この光景どうかしてる。
え何これ? どうしてこんなことになってるの?
私の人生いつから狂っちゃった?
ていうかキャラが違うだけで出だしとか構成とか数ページ前と全く同じじゃない? 手抜き確定ねこれは。
「……ええと、昨日は確かみんなで宴会をして、そのうち寝ちゃって……」
私の記憶はそこで止まってる。
急に異世界に転送したわけでも、パラレルワールドに飛ばされたわけでもない。
――でも、じゃあ、こんな悪役司令官たちの秘密基地みたいなのは何?
まもりは二日酔いで鈍い痛みが走る頭を押さえつつ、沙樹姫とヒル魔に尋ねた。
「ええと……あなたたち? これ一体どういうこと……?」
困り顔のまもりに、キィと椅子を回して沙樹姫とヒル魔が向き直る。
そして平然と言い放った。
「「からくり屋敷に改造した」」
「…………からくり……ああ……からくりね……」
うん、意味が分からない。
どうして勝手にからくり屋敷に改造しちゃったの?
普通家主に相談してからじゃない?
いやもし相談されたとしても承諾はしないけど、でもさすがにこれはビフォーアフターが過ぎない?
というかこれ私たちが寝てる間、ひと晩のうちに完成させたの?
どうかしてない?
まもりが理解に苦しんでいると、沙樹姫とヒル魔は苦い顔を合わせて溜め息を吐いた。
「ふむ……ここにも強者はおらぬか。妾たちの合作とはいえ、難易度鬼じゃあるまいし」
「鍛え方が足りてねえんだな、コイツら。全員基礎からやり直しだ」
いやこれどう見ても難易度鬼よ? むしろ鬼神よ?
毒沼、電気柵、有刺鉄線、地雷の殺傷能力に優れまくりの超危険地帯なんて誰がくぐり抜けられると思うの?
基礎ができてるできてない以前の問題よ?
こんなのミスターS●SUKEも第一関門であっけなく脱落するに決まってるじゃない。
脱落=デッドオンリーの地獄よここは。
世界観の違う二人に心の距離を感じながら、まもりは冷たい視線をかたわらの夫に送った。
「……そして武蔵くんは一体何やってるの?」
「なぜか知らんが身体が勝手に動くんだ! さっきからペットボトルのふたを開けたり閉めたりする動作が止まらない!」
武蔵の悲痛な叫びが響いたところで、「ああ、それはな」とヒル魔が口を挟む。
「昨夜仕込んだ肉体操作装置だ」
「はい?」
「曲がりなりにも三日間ここに滞在するからのう、意のままに動く人間が欲しくてな」
あなたたち人間の心はどこに捨ててきたの、と率直な感想はさすがに面と向かっては言えない。
にしても仮にも生みの親を意のままに動かそうとする?
この子たちの実態はもしかして悪魔の申し子なの?
「お、見よヒル魔! 一人終盤に差し掛かっておる!」
「やるじゃねえかあの糞男! よし沙樹、今があの最終兵器を試すときだ!」
「うむ! いでよ、妾のスペシャル最終兵器!」
沙樹姫は大きく振りかぶってマル印のボタンを叩き付けた。
その瞬間――
武蔵の真下の床がぱかりと口を開けた。
「あ、ボタン間違えた」
あ、今日燃えないごみの日だ、くらいの軽さで沙樹姫が呟いた後、武蔵(齢四十八)はスローモーションで落ち始めた。
「オアアアアァァァァァッ!!」
「武蔵くゥゥゥゥゥゥゥゥんッ!」
「アアアアでもペットボトルのふたを開けたり閉めたりする動作は止まったアアァァァァッ!!」
「武蔵くゥゥゥゥゥゥゥゥんッ!?」
素直に「良かったね」と言っていいものかどうか迷ったが、考えているうちに暗闇に消えていったために結局伝えることはできなかった。
ただ冷静に考えれば、今回はたまたま武蔵が穴に落ちただけで、今後は自分も落とされないとは限らない。
真っ当な心をこの凶悪夫婦が持ち合わせているだなんて到底思えない。
そう考えると――この月の都は、二人の悪魔に制圧されたも同然だ。
えらいこっちゃと青ざめるまもりに、声色だけは優しい声が掛かる。
「――まあ、というわけじゃ母君。三日間世話になるからの」
「ケケケ! これからよろしく頼むぞ、オトーサマオカーサマ」
どう考えても人生最悪となりそうな三日間に、一刻も早く地上に帰って欲しいと願わずにはいられないまもりだった。
めでたし、めでたし――。
今回のパロディ元:一部のみ怪/物/事変、SA/SU/KE、キテ/レツ/大百/科、スマ/ブラ/64、空気感とか銀/魂
お世話になってます。