かぐや姫
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「……なんでこんなことに」
目の前で繰り広げられる光景に鈴音は呆然とした。
今眼前には、かれこれ七時間ほど微塵も動かずに電化製品を分解したり組み立てたりし続けている沙樹姫。
それと。
彼女に命令されて、食事やおやつを運んだりティッシュを取ったりペットボトルのふたを開けたり閉めたりするセナ。
異様だ。異様過ぎる。この光景どうかしてる。
え何これ? なんでこんなことになってるの?
私の人生いつから狂っちゃった?
……うん、どう考えても『あの日』だな。
セナが沙樹姫を抱えて帰って来た『あの日』――。
セナが大興奮で帰って来たあの日、鈴音は沙樹姫を見てセナ同様驚いた。
まさか竹の中から人が出てくるなんて。
あまりにも非現実的な出来事に困惑したけど、山中に戻すわけにもいかないし、何よりセナがものすごく乗り気だったから、そのまま二人で育てることにした。
すると、その日から不思議なことが起こった。
セナが山に入ると必ず光る竹を見付け、その竹を割ると見たこともない黄金がたくさん詰まっている。
それも一度きりじゃなく、毎日。
黄金を町で売ることを繰り返すうちに、苦しかった生活もずいぶん楽になった。
いい着物を着れるようになった。人気ブランドコスメをプレゼントしてもらえた。
クルーザーで高級フレンチに舌鼓を打ちつつ世界一周の旅をした……っていう夢はまだ叶えられてないけど、それももうすぐ叶いそうな気がする。
「ここまでは良かったんだよね……」
生活が豊かになったおかげで、食事を豪華にしたり家を大きくしたりすることができた。
幸福を呼んでくれた沙樹姫にもたくさん美味しいものを食べさせて、好きなだけ遊ばせた。
沙樹姫はすごいスピードですくすく育ち、元々持っていたクオリティの容姿に更に磨きをかけ、言葉も流暢になった。
――そろそろ気付くべきだった。育て方が間違っていたことを。
セナが沙樹姫の周りのことをなんでもやっちゃうから、沙樹姫は基本的に自分は何もしなくていいと思っている。
全部やってもらえて当たり前と思っている。
如何せんペットボトルのふたすら自分で開け閉めしないくらいだから。
セナはセナで沙樹姫にデレデレで、完全に盲目的。
目に入れても痛くないむしろもっと入れてくださいとか言うほどの結構やばい人になってる。
初めて結婚したことに後悔したよね。
そしてそのまま過ごした結果――
沙樹姫は史上最強超自分勝手わがまま娘に成長したというわけ。
「爺、妾はラテが飲みたい。黒豆きな粉の焦がし醤油風味ソイラテが」
「分かった! すぐに作ってくるから待っててね沙樹姫っ!」
豆豆しいにもほどがある奇妙な飲み物に違和感を覚えながら、意気揚々と走り去る我が夫の背中を見送る。
……彼はもうダメだ。
だってパシリ気質のセナとわがまま姫様なんて相性抜群だもん。
セナをこの世で最も上手にあごで使う人が降臨しちゃったんだもん。
溜め息を吐きつつ、いまだ分解に夢中になっている沙樹姫の邪魔にならないように声を掛けた。
「そういえば沙樹姫、今日も結婚の申し込みに大勢押しかけてたよ」
「そうか。妾の言う通り断ったのであろう?」
「まあ全部断ったけどさ……もうちょっと考えてみてもいいんじゃない?」
せっかく贈り物もたくさんもらってるんだし、と苦笑いで鈴音が付け足す。
毎日懲りもせずやって来る若者たちは少しでも印象を強めたいのか、そろいもそろって手土産をぶら下げて来る。
初めは菓子折りやらタオルやらだったものが、今では有名パティシエの限定スイーツや能作の錫製品など高級品に変わってきた。
そのうちロールスロイスやロレックスなんかも買って来そうな勢いだ。
もらうだけもらって申し込みははなから断っている今の現状が、鈴音としてはどうにも居心地が悪い。
「ふむ……」
沙樹姫はぴたりと手を止め、宙を仰いだ。
もしかして私の気持ち通じた?
鈴音はハラハラしながら見守る。
「――ならば、一度考えてみるかの」
「っ、うん! うん、ぜひそうして!」
やった、考えてもらえるだけでも前進! なんでも言ってみるものだね!
セナが知ったら発狂ものだろうけど……まあそれは置いといて。
家に上がってもらって一緒にお茶でもしたら、案外とんとん拍子に話が進むかもしれないし。
そうなれば、結婚相手のためもあって少しは自分で何でもしようって気になるだろうし。
やー! いいんじゃない私の計画!
人知れず胸のつかえが取れ、その夜は久しぶりにゆっくり眠りについた鈴音だった。