2話 4月12日
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何でこんなことになってやがんだ……。
歓迎会が終わり、今まさに家までの道のりを歩いている。
……隣には甘川。
方向が一緒だというだけで、無理矢理送らされるハメになった。
こういうときこそ『お兄ちゃん』の役目なんじゃねえのかよ。
一緒の方向じゃないっつーことは、コイツら別の場所で暮らしてんのか?
何から何までわかんねえ兄妹だな、本当に……。
他のヤツらと別れてからというもの、甘川とは一言も交わしていない。
横目で見ると、コイツは緊張してんのか何なのか、どうも動きがぎこちない気がする。
俺はふと今日のことを思い出してみた。
コイツ、目合ったとき笑いやがったよな。
俺が銃ブっ放した後も、びびってはなかったみてえだし。
そもそも今一緒にいるのだって、普通のヤツなら断るはずだろ。
……俺が怖くねえのか?
この機会を逃す理由はない、そう思って聞いてみることにした。
「おい」
「は、はいっ!?」
「テメー、俺が怖くねえのか?」
「へ?」
数秒、間が空いた。
柄にもなく緊張してるのか、喉が渇く。
「怖くないですよ」
甘川の返事は、予想外のような、想定内のようなものだった。
怖くねえんだったら、今日のコイツの反応は確かに頷ける。
だが、そもそも何で怖くねえのか。
危険人物認定され、基本的に遠巻きにされている俺には理解しがたい。
「初めて見たときは、ちょっとびっくりしましたけど……あ、銃持ってるところとか。でも、お兄ちゃんの友達に悪い人はいないだろうし、何より先輩はアメフトに一生懸命で、情熱持ってやってらっしゃるんだなって思って。すごいなあって言うか……尊敬するなあって思ってます!」
甘川はまるで俺の疑問に答えるかのように、意気揚々と語った。
目を輝かせているコイツの顔が、視界の端に映る。
どうも嘘を吐いているようには思えねえ。
そんな風に思われたことなんざ、多分、いやほぼ確実に一度もない。
他人が俺を見る目はいつだって、恐怖や不快、そんな類のものだった。
それが、コイツは……。
こそばゆいような温かいような、初めての感覚になった。
正体不明のものに一瞬戸惑うが、悪い気はしねえ。
改めて隣を横目で見ると、自分で言って恥ずかしかったのか、顔を手で扇いでいる。
素直で、俺を尊敬してるなんて言うような、不思議なヤツ……。
言われて本当は嬉しかったくせに、何でもなかったかのように、そうかよ、とぶっきらぼうに呟く。
はい、と静かに返事をする甘川に、また初めての感覚を抱いた。
気付くと俺は、自分のことをあれやこれやと話していた。
アメフトにハマった理由や、糞デブとの出会いのこと。
自分でも、どうしてこんなにしゃべってんのかわからねえ。
うまく言えねえけど、甘川の前だとなぜか話したくなってくる。
それはコイツが聞き上手なのか、それとも俺が……。
丁度話が途切れ、家の近くだという角まで来たのでここで別れることになった。
「ヒル魔先輩、今日はありがとうございました」
「ああ」
コイツと話すのは楽しかった。
素直にそう思えたが、悟られないように、一言だけ返す。
「……先輩、私、立派なマネージャーになりますね!」
「……!」
「じゃあ、さようなら!」
「ああ、じゃあな」
甘川は、そう宣言して小走りで去った。
角を曲がりながら、俺は甘川のことについて考えていた。
強制されてなあなあでやるもんかと思ったが、甘川は予想以上に骨がある。
まさか部長の俺に、『立派な』って大きく出るなんてな。
こりゃしごき甲斐がありそ……
「よし、頑張るぞー!」
どこからか突然聞こえた良く通る声に考察を止められ、驚いて辺りを見回す。
そういや聞いたことのある声だった……甘川か?
アイツ一人で気合入れて叫んでんのか?
甘川の突飛な行動に、俺は堪えきれず噴き出す。
何だアイツ、あんな女見たことねえ。
実力はまだ未知数だが、やる気だけはあるみてえだな。
ケケケ、面白え……。
アイツがどこまで伸びるか、見てやろうじゃねえか。
これから何か面白いことをやらかしそうな甘川に期待しながら、俺は家路に着いた。