10話 10月18日
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クリスマスボウルへの重要な通過点とも言える秋大会の準決勝がおととい終わった。
体育祭でのバンプ練習も効果あるにはあったが、勝利をもぎ取れるほどの切り札にはなりやしなかった。
――だがまだ終わったわけじゃねえ。
敗者復活戦っつうありがてえシステムが残ってやがる。
それで勝ちゃあ東京代表に滑り込めるってわけだ。
今から一秒たりとも無駄にはできねえ、そんな大事な時期に――
「……何しに来やがったんだテメーは」
「のっけから全力で威嚇かましてくるねえ、ヒル魔氏」
丁度練習が始まるっつうときに素知らぬ顔して泥門に現れやがったコイツは西部のキッド――もとい糞ゲジ眉。
準決勝で俺らに勝って決勝行きが決まったヤツらだ。
表面上涼しそうな顔してやがるカマトト野郎が何でここに来てやがんだ。
不満を目一杯表に出して睨み付けると、糞ゲジ眉は敵意はないとでも言いたげに両手を挙げた。
「まあまあ、キャストが出揃うまで少しくらい待ってよ」
キャストだあ? 一体何考えてやがんだコイツ。
高速で脳を回転させ目論見を破ろうとしていたとき、部室の方向から誰かが走って来んのが視界の隅に映った。
沙樹だ。
相変わらずの足の遅さで、全力とは到底思えねえスピードだがおそらく全力で向かっている。
「お、ようやくお出ましになったねえ。紅一点の二人目が」
「あなたは、西部のキッドさ……先輩!」
ようやく着いた沙樹は肩で浅い息をしながら、目を丸くして糞ゲジ眉を見つめた。
先輩、と言い直すあたりコイツの礼儀正しさが改めて窺える。
今日は糞マネは生徒会の手伝いだとかで来やがらねえ。
だからこれで全員揃ったことになる。
そろそろ話しやがれと目線で促すと、糞ゲジ眉はようやく重い口を開いた。
「勝ったとは言えども、手強い相手だったからねえ泥門は。ちょくちょく偵察にでも来ようかと思って」
『偵察』
その言葉が脳を駆け巡った途端、あまりのおかしさについ吹き出しそうになっちまった。
いかにも当然だみてえな面持ちで、普通の頭じゃ考え付かねえような――いや考えたとしても、さすがに実行には移さねえような――ことを平然と言ってのけやがる。
スパイがンな堂々と来るもんじゃねえだろうが。
まあこそこそ来たとしても俺が見破って終いだったろうから、無意味だと分かった上でのことかもしれねえが。
にしても、スパイ自体を俺が認可するとでも思ってやがんのかこの糞ゲジ眉は。
「ケケケ、ンなこと俺が許すとでも思ってやがんのか? 天下のクォーターバックサマもとうとう焼きが回っちまったか」
「もちろんタダでとは言わないよ、ヒル魔氏。メリットが無いことには乗らないタチだろうからねえ」
糞ゲジ眉は見透かすような眼でそう口にし、数歩離れた場所に移動した。
半ば怖いもの見たさみてえな好奇心を抱きながら俺は呼び出しに応じる。
結論から言うと、練習視察の取引だった。
堂々と泥門の練習を見学させてもらう、その代わりに西部の練習も好きなだけ見に来ていいっつう話だ。
決して悪い話じゃねえ――どころか、ついでにこっそり他の情報も持ち帰るつもりの俺としちゃあ割の良い取引だ。
乗らねえ手はねえな。
話をスムーズに終え、待ちぼうけしてやがった面子に向かって言い放つ。
「ケケケ、テメーら練習再開だ。糞ゲジ眉が見てやがるが、サボテンだと思って気にすんな」
「だ、そうで。まぁよろしく頼むよ」
意外だったのか不安に思ったのかは知らねえが、どいつもこいつも何とも言えねえ顔付きになる。
例によって沙樹もだ。
まあ、とりあえずは今日を乗り切りゃその後はこっちのメリットだらけだ。
できるこた全部しておく、今は特に手段は選んでらんねえかんな。
俺はケケケとひと笑いし、若干戸惑った風のヤツらを意にも介さず早速練習に取り掛かった。