2話 4月12日
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「「「「かんぱ~い!」」」」
乾杯の合図でみんな一斉にグラスを掲げ、次々にカチンとぶつかる音が鳴る。
にしてもこの狭い部室に五人もいるものだから、みんなぎゅうぎゅう詰め。
ま、まあ親睦が深まっていいのかな?
爽やかな風が心地良く、桜の見頃を迎える四月。
入学の手続きを終え、私は無事泥門高校の一年生になった。
仲良くできそうなクラスメイトも見つけたし、ひと安心……していたところに、アメフト部の新入部員歓迎会があることを聞かされた。
マネージャーになるんだし、仲間のことはちゃんと知っておかないとね。
私は二つ返事で参加することにした。
そして今に至る、というわけ。
目の前にはヒル魔先輩が座っていて、ただでさえ緊張してるのに余計に緊張した。
初めて会ったときのように、パソコンとにらめっこしつつ、作業をしている。
ヒル魔先輩って、本当に仕事熱心だなあ……。
あ、目が合った。
……思わずニコッとしたけど、ちょっと引きつっちゃってたかも。
それにしても、マネージャーも含めて全部で五人って少ないなあ。
アメフトって何人でするスポーツなんだろう。
でもさすがに、そんな少人数じゃきっと無理だよね。
しばらくすると、お兄ちゃんの提案で部員の自己紹介リレーが始まった。
「みんな、アメフト部に入ってくれてありがとう! 僕は二年の栗田良寛、よろしくね! 誕生日は七月七日で血液型はO型。好きなものは甘いものと美味しいものだよ! はい、次ヒル魔ね!」
「ヒル魔妖一。二年。部長だ」
「もう、もっといろいろしゃべってよ~、せっかくの歓迎会なのに~!」
「うっせぇな糞デブ。ンなもん必要最低限の情報でいいだろ」
「うう……ヒル魔冷たい……まあいいや! 次、どうぞ~!」
それぞれ自分の名前や誕生日なんかを挙げている。
ちょっとおどおどしてるけど、優しそうな小早川くん。
姉崎先輩は私と同じマネージャーで、よくわからないけどお目付け役らしい。
人数が少ないからすぐに私の番が回ってきた。
「えと、私は一年の甘川沙樹です! 七月八日生まれのO型です。みなさんよろしくお願いします!」
良かった、噛まずに言えた。
みんなが笑顔で聞いてくれるから、私もほっこりしちゃう。
「そうそう! ちなみに沙樹ちゃんは、僕の妹なんだよ~」
「「え!?」」
小早川くんと姉崎先輩が綺麗にハモった。
あはは……驚くのも分からなくはないなあ。
あんまり似てないって自分でも思うし、言われることもないしね。
「へえ~兄妹だったのね! あれ、でも苗字違うのはどうして?」
「えっと、その……そこらへんはいろいろあるんですけど、ちゃんと血は繋がってて、正真正銘の兄妹なんです」
「そ、そうなんだ。でもなんか雰囲気は似てるよね。ホンワカしてるって言うか……」
「そうよね。もしかしたら内面が似てるのかもしれないわね」
苗字のことを聞かれて、思わずぼやかした。
せっかく仲間になるんだから兄妹だってことは言っておきたかったけど、苗字のことはちょっとあんまり広めたくないかな……。
あれ、そういえばヒル魔先輩は初めて聞いたとき疑問に思わなかったのかな?
グラスが空になったところで、お兄ちゃんがいそいそと全員分の飲み物を準備し始めた。
「みんな、お砂糖は何十個いる~?」
「な、何十個ってそんな、なかなかの甘党じゃないと……」
「お兄ちゃん、私は二十個~!」
「「…………(これ紛れもなく兄妹だ)」」
なんとなく視線が自分に集中したような気がして、周りを見る。
……ん?
なんだかみんな驚いたような悟ったような顔してるけど、私何か変なこと言ったかな?
それにしても、私とお兄ちゃん以外、あんまりお砂糖入れないんだね。
甘い方が美味しいのに!
みんなであれやこれやと談笑していると、話は自然とアメフトのことになっていった。
ズドン、と音がしたと思ったら、ヒル魔先輩が天井に向かって銃弾を放っていたらしい。
……びっくりしすぎて声が出なかった。
「デビルバッツは、やるからにはぜってえ勝つ。最終的にはクリスマスボウルだ」
「僕らにとっては最後のチャンスだからね! みんなで力を合わせて頑張ろう!」
「っつーわけで肉体改造するつもりでやっから、明日から覚悟しとけよ」
一部から、声にならない叫びが聞こえた気がした。
クリスマスボウル……そっか、ヒル魔先輩やお兄ちゃんは、初めからそれを目標にしてるんだ。
人数が少なくたって諦めない、勝つことへの執念が強いんだ。
……先輩って一見そうは見えないけど、実はアメフト大好きなスポーツマンなのかも。
今日だってデータびっしりのパソコン手離さないし、それもきっとアメフトに関する情報だよね。
一つのことに一生懸命になれる先輩、すごいなあ……。
改めてヒル魔先輩の情熱に感心しつつ、私はみんなとの時間を楽しんだ。