12話 11月8日
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京都の上品な街並みに映える着物美人といえば。
夕方になるとお座敷に向かうため見かけやすくなる着物美人といえば。
お代官様に回されて帯をはぎ取られる着物美人といえば……いやこれはちょっと違うかも。
とにかく京都が似合う着物美人といえば。
──舞妓さんしかいないよね?
「というわけで、いざ! 舞妓体験です!」
「何がというわけでなのかは知んねえが、気合入ってんじゃねえか」
「女性は誰しも一度は自分ではない誰かに変身してみたいと思うものです! きっと! 多分! おそらく!」
「勢いだけで自信のなさが如実に表れてんな」
やってきたのは、舞妓体験ができることで有名なとあるスタジオ。
一歩足を踏み入れると、もうそこはタイムスリップしたかのような和風空間が広がっていた。
並んで揺れる提灯、ぼんやり灯りで照らされた唐傘、きらびやかな打掛……どれもこれも自然と溜め息が漏れるくらい。
普段味わうことのない雰囲気と店員さんのはんなりした京都弁が、尚更私の胸を高鳴らせる。
「じゃあ先輩、私着替えてきますね」
「おう行ってこい。ケケケ、安心しろ。カメラの準備は抜かりねえ」
「……! い、行ってきます」
どうにも返しがたい台詞に気の利いたことも言えず、店員さんの後に付いてすぐそこの扉をくぐった。
冗談めいた口調でカメラを構える仕草をしたヒル魔先輩だったけど、冗談じゃないことは経験上とっくに分かってる。
まあ今回はせっかく舞妓さんになれるんだし、先輩にたくさん撮ってもらえたら嬉しいな。
そしてあわよくば、あわよくば一瞬でも、──「綺麗だ」なんて思ってもらえたら。
……んんんやっぱだめだ恥ずかしい!
そんなこと思われたら私のにやつきが止まらなくなっちゃう! どの写真も情けないへらへら顔で写ることになっちゃう! 後で死ぬほど後悔しそう!
お地蔵様のように無心で撮ってもらうのが一番だね、うん。お願いしますヒル魔先輩改め地蔵先輩!
でもどちらかといえば私の方がお地蔵様の安らかさを学ばなきゃいけないのかも、なんて思っていると、
「──彼氏はんですか?」
店員さんがぽそっと囁いた。
「い、いやそそそそそんなっそんななんかあのっ!?」
「ふふ、大きい声出さはると向こうに聞こえますえ?」
「っ……!」
おしとやかに微笑んだ店員さんはしゃべりながらも白塗りの準備を進めてる。
元気で明るいまもり先輩とはまた違ったタイプの、はんなりな空気をまとった美人お姉さん。
なんとなく小悪魔に見えてしまうのは私だけ?
だって、だってさ、……彼氏、って……!
「……彼氏だなんて、そんな……素敵な関係じゃないです」
「んー、『素敵な関係』って表現するゆうことは、それに憧れててそうなりたいってことやね?」
「っ……!!」
間違いない! 小悪魔だこの人! 小悪魔で参謀だ!
的確に私の秘密を暴いてくる有能な参謀小悪魔だ!
その手には乗りませんよ……っ!?
「ほな今はまだ、かなり親密なだけのお友達関係と」
「っ、どうしてそれを!?」
「この時期に学生服着てるゆうことは修学旅行やろ? 普通はグループ行動やのに二人きり、しかも入ってきはるとき手繋いではったんばっちり見さしてもらいましたえ」
「っ……!!!」
これは無理だ。どう考えても経験値不足の私が熟練恋愛探偵に勝てるはずがない。
できることなんて、ただひとつ……。
私はありったけの白旗を心の中で掲げた。
自分でいうのもなんだけど見事に早い屈服だった。
「甘酸っぱい恋愛、かわええわあ~」
「そ、そんなことないですよ……」
「二人で手繋ぎデートするくらい仲ええんやったら、キスも目前やな」
「な、キっ、なっ、キっっ!?」
「その反応はやっぱまだしてへんのやね」
「っ……!!!」
かけられたカマに見事引っかかるバカな私。
反論もぐうの音も何にも出ない。
いろんな感情が眉に集中したせいで、鏡の中の自分は見たことないくらい困り果てた顔をしてる。
「や、でもキ……スって、好き同士の恋人たちがする、ものですし……」
「あらあ今どき古風な子やねえ。律儀やわあ」
「う……はあ、そうなんです、かね?」
「まあまあ、それはそれで一つの考えやとしてな」
鏡の中で目線を合わせた店員さんは、唇で綺麗に弧を描いた。
「ただ一つ覚えとかはったらええんはな。友達やろうと何やろうと、キスするのは好きやから。必ずしも恋人同士やないと、ゆうわけやおへん。ときには衝動が関係を飛び越すこともありますさかい」
「──好き、だから……」
無意識に繰り返した私に店員さんは再び目を細めて、
「まあ相手のことを嫌やと思わへん限り、その場ではなあんも考えんと受け入れて、関係はその後に考えたらよろしおす」
そう結んで、化粧筆を走らせた。
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