12話 11月8日
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先月の文化祭は二日間にわたって大成功を収めて、評判も上々だったみたい。
出し物系は男装女装コンテストがダントツで人気だったとか。
元々ファンが多かったまもり先輩には更に取り巻きが増えて、モン太くんもいろんな人に「悩殺お猿モン太ちゃーん!」と声を掛けられることが多くなったみたい。
セナくんに至っては、背筋に悪寒を感じて振り返ると、必ず屈強な男子からの熱い視線を向けられているらしい(本人は毎回泣きそうな顔になってる)。
出店系は私のクラスのメイドカフェが結構注目されたみたいだけど、私はあんまり手伝えなかったから正直ちょっとだけ胸が痛い。
とにかくアメフト部としてはたくさんアピールできたわけだし、私個人としては──ヒル魔先輩との仲をもっと深められた。
それもこれも全部文化祭のおかげだなあ。来年が今から待ち遠しくて仕方ない。
そんなラッキーイベントが終わったと思ったら……十日後にはもう次のイベントが待っていた。
きらりと光を反射する眩しいメタルボディ、切れ間なく人が吸い込まれていくそれは京都行きの新幹線。
学生ならではの大イベント──そう、修学旅行。
他校の友達は二年生になってからって言ってたけど、泥門高校は一年目の行事みたい。
珍しいとは思うけど、きっと親睦を深めるためっていう理由でもあるんだろうな。
でも修学旅行と聞いて浮かぶのは、中学生のときの迷子事件……友達との初めての旅行に浮かれ過ぎちゃって、我に返るとぽつんと迷子になってたあの思い出。
楽しみたかっただけなのに、まさか先生や警察の人含めてあんな大騒動になるなんて。
今回の旅行は前みたいに浮かれ過ぎないよう気を付けて、ちゃんと周りを見ないとね!
そう心に固く誓って荷物置き場にトランクを上げようとしたけど、重くてなかなか持ち上がらない。
「持ってやるよ」
「あ、ありがとう」
後ろから声が掛かり、せっかくならお言葉に甘えようと荷物を明け渡した先には、
「──ヒル魔先輩!?」
私の叫びと共にバス内が一気にどよめいた。
「な、なんでヒル魔先輩がここに!?」
「なんでも何も、中学んとき修学旅行で迷子になったっつってたろ。だから俺がお前の引率を請け負ってやった」
もちろん校長は快諾してくれたぞ、と自信満々な風に付け加える。
確かにその話は先輩にしたことあるけど、まさかそんな情けないエピソードを覚えてたなんて──っていうより、まさかそれをきっかけに修学旅行に参加するなんて!
一年のときも行ったんだよねきっと? いや、先輩のことだから行かずにアメフトしてた可能性もあるかも。
でももし行ってたとすれば二回目の参加ってアリなのかな? あ、それ含めて校長の許可が降りたのかな。
残された部員の練習は大丈夫なのかな? ううん、先輩が大丈夫じゃない状態にしておくわけないよね。
不安と安心が同時に頭の中を駆け巡ったけど、ヒル魔先輩が行くと言うならそれはもう行く以外の何でもない。
しかも自分の迷子事件が原因なら尚更どうにもできない。
「──じゃあ、引率よろしくお願いします」
「おう。迷子になんざさせねえから、お前は好きなだけ羽目外せ」
「っ、……あ、りがとうございます……」
改めて言われるとへこむやら恥ずかしいやらいたたまれないやらで、私はどんな顔をすればいいのか分からなかった。
あっという間の三時間、私たちを乗せた新幹線は無事京都に着いた──のはいいんだけど。
着いた途端に同じ班で見回るはずだった子たちがそそくさと離れて行った。それはもう結構なスピードで。
それどころか、別の班の生徒たちや先生の姿さえももう見えない。
……ということは、言うまでもなく私たち二人は別行動なわけであって。
まあ、うん、そうなるかもなってちょっと思ってたけど。
でも、こんな展開──ご褒美過ぎじゃない?
こんなご褒美をもらえるだけの良い行いをした記憶が特になかったから少し戸惑ったけど、心は正直だ。
……もし私が犬だったら、ちぎれそうなくらい尻尾を振ってる。
「ケケケ、なら早速行くか。京都満喫すんだろ? 沙樹」
「──はい、もちろんです!」
当たり前のように繋がれた手を握り返し、本音通りの笑顔を向けた。
天気は快晴、十一月にしてはかなり暖かい。気候の良さも相まって、期待には更に拍車がかかる。
──この旅行が終わったらきっと、ヒル魔先輩のことますます好きになっちゃうんだろうな、私。
そんな予感を抱えつつ、前途洋々な二泊三日の旅が始まった。