10話 10月18日
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少しだけ肌寒くなり木々も色付き始めてきたこの頃。
ついこの間、秋大会の準決勝が終わったばかり。
結果は西部ワイルドガンマンズに敗北――。
でも、私たちの秋大会はまだ終わってない。
敗者復活戦で勝てば東京代表になんとか食い込める。
ムサシ先輩が戻って来たこともあって、希望が見えたチームは一気に活気付いた。
いつものようにあらかた部室の整頓を終えた後グラウンドに向かうと、中央に人だかりができていた。
練習中断してみんな何してるんだろう。遠目からじゃ分からないな。
とりあえず近くまで行こうと、小走りに駆け出した。
何となくだけど……微妙な空気が流れている気がする。
「お、ようやくお出ましになったねえ。紅一点の二人目が」
「あなたは、西部のキッドさ……先輩!」
テンガロンハットにウエスタン風の出で立ち。
おしゃれなスカーフが似合うこの人は、西部ワイルドガンマンズのクォーターバック。
キッドさんなんて馴れ馴れしく呼んでしまいそうになったけど、この人は一つ上の先輩だった。
唯一無二の早撃ち技術を持つすごい人ということもあって、他校の選手の中でも特に印象深い。
ついこの間試合で負けたこともあったから尚更。
……でも、どうして泥門に?
私は無意識に首を傾げてしまったみたいで、察したらしいキッド先輩がふっと微笑んだ。
「勝ったとは言えど、手強い相手だったからねえ泥門は。ちょくちょく偵察にでも来ようかと思って」
笑顔の割には堂々としたスパイ発言。
まるでさも普通のことであるかのようにそう話し、上機嫌でお気に入りらしいスカーフを手直ししている。
え、これいいのかな……?
戸惑いながらヒル魔先輩の方をちらりと窺うと、苦虫を噛み潰したような面持ちを――と思ったら全然違った。
面白いおもちゃを見付けたいたずらっ子みたく、楽しそうにケラケラと笑っている。
理由は分からないけど、なんだかとても先輩らしい。
「ケケケ、ンなこと俺が許すとでも思ってやがんのか? 天下のクォーターバックサマもとうとう焼きが回っちまったか」
「もちろんタダでとは言わないよ、ヒル魔氏。メリットが無いことには乗らないタチだろうからねえ」
落ち着いてそう告げたキッド先輩はみんなの輪を離れ、指で合図してヒル魔先輩だけを呼んだ。
こそこそ話をしている二人の後ろ姿は、知能派なだけにものすごい悪巧みをしている風に見えてしまう。
そう見えるのは私だけ? と思ったら、セナくんや十文字くんたちも不安げな顔をしていた。
……だよね、みんなも不安だよね。
少ししてからヒル魔先輩がぐるりと首だけ振り返った。
「ケケケ、テメーら練習再開だ。糞ゲジ眉が見てやがるが、サボテンだと思って気にすんな」
「だ、そうで。まぁよろしく頼むよ」
……まさかの交渉成立みたい。
この二人は一体どんな話し合いをしたんだろう。
何かしらの裏取引でもあったのかなあ。
私には考えもつかないけど、でもヒル魔先輩のことだからきっちりメリットは抑えてあるんだろうな。
面々の顔付きが微妙なまま、私たちは練習を再開することになった。