綺麗にお皿を空けた後ヒル魔先輩と雑談している内に、ふとまばゆい光が差し込んでいることに気付く。

とっくに雨が上がってたみたい。

時計の針もいい時間を指していたので、そろそろ帰ることになった。



飲めた記念に、今日のコーヒー買っていこうかな。

生クリームも買って、淹れ方調べて、お家で美味しいウインナーコーヒー飲もうっと！

私はカウンターに持っていこうとコーヒー粉の入った袋を手に取った……はずが、次の瞬間消えていた。

あれ、どこいったの？　落としたわけでもないし。ちゃんと掴んでたのに。


ピッと機械音がした方に目を向けると、なんとヒル魔先輩が支払いをしていた。



「えっ、先輩！　そんな、私の分まで！」

「この前ご褒美だっつったろ」

「確かに言ってましたけど……」



コーヒーを選んでもらうこと自体がご褒美だと思ってた。支払いまでしてくれるだなんて。

うう……ありがたいけど、ちょっと申し訳ないなあ。



「先輩……ありがとうございます」



複雑な気持ちになりながらも小さくお礼を伝えると、ヒル魔先輩は満足そうにいつもの調子で笑った。

ホッとしたのもつかの間、レジの脇に置かれていたかごが私の目に留まる。

赤いリボンが巻かれたその中には、よく目にする貝殻型のフィナンシェ。


綺麗な焼き色だなあ。美味しそう……。

ケーキが手作りだったから、これも手作りなのかも。ちょっと見てみよう。


商品に手を伸ばすと、そこにあるはずのないヒル魔先輩の手にとん、と触れた。



「あ、ご……ごめんなさい！」



焦ってどもりながら手を引っ込める。

びっくりした……先輩の手があるなんて思わなかった……。

火傷でもしたみたいに触れた箇所をさすると、ただ触れただけなのに熱を帯びているような気がした。

心臓が連動するように大きく脈を打ち始める。


何気なく顔を上げると、カウンターに立つ店員さんと目が合った。

……なんだか微笑ましく思われてるような感じがする。

途端に気恥ずかしくなって俯くと、ピッとさっき聞いたはずの機械音がまた耳に入った。

え、まさか……嘘！？　ヒル魔先輩がフィナンシェ買ってる！



「ヒル魔先輩、それ食べるんですか！？　絶対無糖じゃないですよ！？」

「バーカ、俺が食うかよ。これはお前のだ」

「え、わ、私の？」

「あんまり食べたそうに見つめてたんでな。視線で穴が空く前に買った」

「……そんなに見つめてないですもん」



いつものようにからかいはされたけど、結局は私のために買ってくれたってことだ。

ヒル魔先輩って、よく私のこと見てるなあ……自分のことを考えてもらえるって、嬉しい。



先輩の優しさに浸りながら、私はふと気付いた。


以前先輩にコーヒーを贈ったときに私はすごく温かい気持ちになったけど、もしかしたら先輩も同じなのかもしれない。


――同じ気持ち。



そう思うと、不思議と笑みが溢れた。