5話 6月29日
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少しだけ早く練習が終わった帰り道、私とヒル魔先輩は傘を差して並んで歩いていた。
なぜなら、以前約束したコーヒー専門店に向かうことになったから。
梅雨真っ只中の六月の終わり頃、雨の降る日が続いている。
気温も湿度も高く、身体中がべたべたしてどうもすっきりしない。
やっぱりこの季節は好きになれないんだよなあ。
ちらりと隣の人を覗き見たけど、いつものツンツンヘアは健在で、梅雨の影響なんて全然受けていなさそうだった。
そういえばテストの結果、伝えるタイミング逃してまだ言ってなかったや。
ヒル魔先輩、きっと喜んでくれるだろうな。
「そういやお前、テストどうだったんだ」
「今まさにそれを伝えようと思ってました。聞いてください、なんと満点取っちゃったんですよ!」
「やったじゃねえか」
「一人で勉強してたら今頃補習だったかと思うと……本当、先輩のおかげです。ありがとうございます」
ヒル魔先輩は一瞬視線を私に送った後、また前に戻す。
少し目尻が下がっているように見えた。
……喜んで、くれてるみたい。
「俺は大したことしてねえよ。お前の元々の能力が高いってだけだ」
「そんなことないですよ。先輩の教え方、すごく分かりやすかったですもん」
「……そうかよ」
「そうですよ――あ、見えた。あの茶色い屋根のお店です」
住宅地の中にぽつんと佇む、隠れ家みたいなお店。
一歩足を踏み入れたところで香ばしい香りが漂ってきて、つい深呼吸したくなる。
コーヒーの香りって、不思議と安らぐんだよね。
勉強に集中するときとかにいいかも。
店内は落ち着いたウッドタイプの内装でインテリアは一つ一つがおしゃれ。
他のコーヒー専門店に行ったことはないけど、それでもきっとトップクラスなんじゃと思うほどコーヒーの種類は多い。
経営しているのは、まだお兄さんとお姉さんという感じの若そうな夫婦。
仲良さそうな夫婦だなあ。うらやましい……。
カウンターにいたお姉さんと目が合い、近所ということもあって自然と会釈した。
……あ、ケーキ!
レジ横に控えめサイズのショーケースを確認した私は足早に近付く。
ガトーショコラ、チーズケーキ、シフォンケーキ……どれも美味しそう。
しかも手作りって書いてある。これはもう食べるしかない。
前回はテスト前だったから時間が無かったけど、今日はヒル魔先輩もいることだし、せっかくだからお茶して行きたいなあ。
ここは豆ごとにポットが用意されていて、いろんなコーヒーの試飲が出来るらしい。
コーヒー豆は聞いたことのある名前もあるけど、大半は知らない名前だった。
やっぱり種類多いなあ……どれくらい違うんだろう。
私には違いは分からないけど、先輩のようにコーヒー好きな人ならきっとワクワクするだろうな。
「ここ、選んだコーヒーを店内で飲めるんですよ」
ふーんと素っ気無い返しをしたヒル魔先輩は、聞き終わらない内にもう試飲し始めていた。
先輩もう夢中になってる……アメフトといいコーヒーといい、本当に好きなことには一直線だなあ。
「約束だかんな。お前が飲めそうなヤツ選んでやるよ」
「はい、お願いします! ……あの~先輩、せっかくですし、店内でお茶していきませんか?」
「ああ、いいぞ。つうか俺もそのつもりだった」
「そうなんですね、良かった」
先輩も私と同じこと考えてたんだ、無理矢理誘うことにならなくて良かった。
ヒル魔先輩が真剣な顔付きでコーヒーを吟味している間、私は店内の装飾を眺めていることにした。