1話 3月18日
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春。
それは、新しい未来への門出となる季節……。
私 甘川沙樹は、この春に高校生になる。
と言っても、第一志望の泥門学校に受かってるかどうかはまだわからないんだけど。
あと一時間ほどで合格者が発表される。
朝からそわそわして、どうにも落ち着かない……。
家にいても何もすることはないし、少し早いけど行っちゃおうかな。
カバンに受験票をねじ込み、深呼吸してから家を出た。
泥門高校の敷地内はもうすでに大勢の人であふれかえっていた。
うわぁ、こんなにたくさん人がいるんだ……。
これ全員合格発表待ちの生徒だよね?
今年の倍率はどうだったんだろう。
不安に押し潰されそうになりながら、発表の掲示がされるのを待つ。
嫌だなあ、待つだけのこの時間。
なんかお腹痛くなってきちゃった……。
向こうでザワッと声が上がったと思ったら、先生方が大きな紙を抱えてこちらへやって来た。
番号が書かれた紙が丁寧にボードに貼られて行く。
78、78、78……
受験票を握り締めながら、祈るように番号を探した。
……78! あった!
「やったーーーー!!」
あってほしいと願っていた番号が目に入り、私は思わず両手を上げて飛び跳ねた。
ついに待ち焦がれてた泥門高校に入学できるんだ!
夢みたい……!
やっとこの高校で楽しい日々を過ごせそう……。
早速お兄ちゃんに報告しなきゃ!
私のお兄ちゃん・栗田良寛は、泥門高校の二年生でアメフト部に所属しているらしい。
らしいというのは、私がお兄ちゃんに会うのをなるべく避けてきたからなんだけど……。
私とお兄ちゃんは腹違いの兄妹だ。
正確に言えば、私は愛人の子。
小さい頃から周りに陰口を叩かれたり、邪魔者扱いされたりしてきた。
どうして私ばっかりって思ったけど、ずっと我慢するしかなかった。
悪いのは産まれた私なんだってことに気付いてしまったから。
お母さんが失踪してしまったこともあって、お父さんやお兄ちゃんだけは私に優しくしてくれた。
でも私が一緒にいると、大好きな人たちにまで迷惑がかかってしまう。
栗田家の評価を下げないようにするために私は実家を出て一人で暮らしていた。
ようやく高校生になり、この学校生活だけはとお兄ちゃんのいる泥門高校に入学することを決めた。
そういえばお兄ちゃん、どこにいるんだろう。
アメフト部の部室にでもいるのかな。
場所が分からなかったので近くにいた在校生らしき人に尋ねてみることにした。
「すいません、アメフト部の部室を探してるんですが……」
「アメフト部!? ……それなら、そこを真っ直ぐ行った校舎裏にあるよ」
「ありがとうございます!」
知りたい情報を得るやいなや、すぐさま駆け出す。
後ろの二人がまだ何か言ってるみたいだったけど、ごめんなさい。今は急いでるの。
それにしても、アメフトって単語を出した瞬間に二人ともぎょっとしたような……まあいっか。
とにかくそこに行ってみよう!
お兄ちゃんに会える嬉しさと泥門に合格した喜びで、私は心を弾ませながら校舎裏へと足を進めた。
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