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短編
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『藍』
1
初夏の香り漂う夜道。
少し涼しい風が心地よい。
なんとなく寝る気にならなかった私は、小腹がすいたので深夜のコンビニへと向かっていた。
というのも最近忙しくて冷蔵庫には何もなかったからだ。
こんなところを職場の人に見られた日には、と想像しかけてげんなりする。
あの人たちのことだから散々からかったりいじったりしてくるだろう。
特にあの人は――――
そう思い、直属の上司の顔を思い出す。
津軽高臣。所属する班の上司である。
住んでるマンションも同じなので、何かと会う機会が多い。
(まあ別に嫌いじゃないからいいけど…。ただ一緒にいるとちょっと面倒くさいんだよなあ)
普段のやり取りを思い出して思わずため息をつく。
きれいな顔に、柔らかい物腰と、きっと異性の相手としてはいいのだろう。
津軽さんと付き合いたい女性はたくさんいる。
自分も、津軽さんを異性として意識することは何度かあった。
ただ付き合えるかとなると、なんとなく自分の気持ちがわからないでいた。
そうこうしているうちにコンビニにたどり着いた。
夜目にコンビニの明かりは幾分かまぶしく感じた。
そういえば、と雑誌コーナーに向かう。
(たしか鳴子がCamCamの今月号がどうとかって…)
お目当てのページを探すべく、パラパラとページをめくる。
なかなか見つけられずにいると―――
「お客様、立ち読みはご遠慮いただいてます。」
突然声を掛けられハッとする。
しまったと思い、条件反射で平謝りする。
百合子「す、すみません!…って津軽さん?」
そこには件の上司、津軽さんが立っていた。
いつものスーツ姿とは違い、ラフな格好だった。
津軽「ははは。ウサちゃん、びっくりしすぎ。」
百合子「なんだ、津軽さんか。よかった…。」
津軽「なんだって、上司に対してその態度はよくないなあ」
百合子「てっきりお店の人かと思っちゃいましたよ。」
津軽「そう見えるように声かけたからね。」
百合子「もっと普通に声かけてくださいよ。」
ふと津軽さんの顔色が悪いことに気付く。
(こんなに白かったっけ…。)
百合子「体調悪いんですか?」
津軽「なんで?」
百合子「顔色悪いですよ。」
津軽「ああ、ちょっと寝付けなくてね。」
百合子「変なもの食べすぎたんじゃないですか?」
津軽「え、何。チンジャオロースチョコが食べたいって?」
百合子「あ~~、間に合ってるんで結構です!」
そう遠慮せずに、とゲテモノフードのある陳列棚へと引っ張っていく。
その後、チョコだけでなく謎のゲテモノドリンクなどその他もろもろをかごに入れて会計を済ませた(買わされた)。
(確かに食べ物を買いに来たけどこれじゃない……)
この時間帯にコンビニに来たのがまずかったとは思いつつ帰路につく。
隣では相変わらず飄々としている津軽さんの姿があった。
こうやって人を振り回すのが、この人の生きる醍醐味なのだろうと思う。
2
津軽「ウサちゃんってさ、なんか庶民的だよねえ。」
百合子「まあ、否定できないですけど。」
津軽「どういう風に育ったの?」
百合子「どういう風って言われても、普通の家だと思いますよ。」
津軽「ふうん。家族は?」
百合子「家族も普通ですよ。あ、でも仲は良いかな。」
津軽「へえ。そうなんだ。」
津軽さんは興味なさげに呟いた。
そういえばと思い、津軽さんに聞いてみる。
百合子「そういう津軽さんはどうなんですか?」
津軽「何、知りたいの?」
百合子「知りたいっていうか、あんまりそういう話は津軽さんから聞いたことないですし。」
津軽「別に面白いことなんてないよ。でも、どうしても教えてほしいって言うんなら…」
津軽さんが一呼吸おいて微笑む。
嫌な予感がした。
というか、津軽さんがニコニコしているときは大抵無理難題ふっかけてくる時だ。
津軽「添い寝して?」
百合子「そ、添い寝ですか?!」
津軽「うん。添い寝。なんか寝付けないからさ」
だからウサちゃんが添い寝してよ、と続ける津軽さん。
一瞬付き合っていたかと錯覚するくらいだった。
(いや、付き合ってない!ていうか何言ってるのこの人…!)
津軽さんの部屋に行くのは初めてではないが、こんな深夜に男性の部屋にしかも添い寝。
(無事に戻ってこれる気がしない……)
百合子「えっと、そういうのは彼女に…」
津軽「上司のサポートをするのが部下の役目だよね。」
百合子「それは仕事の話じゃないですか。」
津軽「大丈夫、何もしないから」
一昨年や去年のクリスマスを思い浮かべながら苦笑する。
(確かに、いわゆるそういうことはしていないけど…)
一人悶々と考えていると、いよいよマンションの玄関にたどり着いてしまった。
何とか断ろうと口を開く。
百合子「あの――」
津軽「今日だけでいいから。」
百合子「え?」
津軽「今日だけでいいから。一緒に寝てよ。」
そう言う津軽さんの様子はいつもと違って見えた。
だからだろうか―――。
私は、最上階の部屋へと足を踏み入れた。
3
部屋は相変わらず綺麗にしてあるようだった。
最も、扉が閉じてある部屋はいつもの通りなのだろうけど。
寝室に通され、さすがに少し緊張する。
確かに何もしないとは言ったけど、津軽さんだしなあと思いつつ、ベッドの隅に座る。
津軽さんはルームウェアに着替えると一息ついた。
そして、布団に入るよう促してくる。
津軽「もっとこっちおいでよ。」
百合子「近くないですか?」
津軽「気のせい、気のせい。」
ここまできたからには腹をくくろうと目をつぶる。
すると、自分よりも大きい掌が頭をなでる。
そっと目を開けると津軽さんに撫でられているのだと気付く。
向かい合って寝ているため、必然的に目が合う。
その目は不安げに揺れていた。
百合子「…何かあったんですか。」
津軽「どうして?」
百合子「なんとなくですけど…」
津軽「ウサちゃんが思うようなことはないよ。」
百合子「そうですか。」
聞いたところでかわされるのはわかっていたが、答えてくれないのがなんとも歯がゆい。
(じゃあ、どうしてそんな顔するんですか…。)
そう言いたくなるのを飲み込み、また目をつぶる。
それからお互い無言になる。
静かな室内に時計の音だけが木霊する。
だんだんと津軽さんが横にいるのも忘れ眠りかけていた時、津軽さんがぽつりとつぶやいた。
津軽「俺さ、家族いないんだよね。」
その声に反応して、わずかに顔を上げる。
暗くてどういう表情をしているかは分からない。
津軽さんは続けた。
津軽「親も兄弟も殺されて、俺だけ生き残って。」
銀さんが引き取ってくれたから一人じゃなかったけど、と付け加える。
どう反応していいか分からず、ただその声に耳を傾ける。
津軽さんはぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
津軽「でもさ、たまに夢に出てくることがあるんだよね。あの日のことが。」
あの日のこととは、きっとその事件のことなのだろう。
今の津軽さんからは想像もつかないくらいだけど、津軽さんの中にはそれがずっと残っているのだと察する。
21年間ずっと――――。
百合子「津軽さん…」
津軽「ウサちゃんと寝るから、いい夢見れそう。」
そう言って津軽さんは目を瞑った。
私は津軽さんがとても心細いように見え、思わず抱きしめる。
すると、津軽さんは驚いたのか声をかける。
津軽「ウサちゃん?」
百合子「今日だけ、です。」
津軽さんはそっと私を抱きしめた。
規則正しい心音が聞こえてくる。
心地よい音に包まれて、いつの間にか眠りについた。
End
↓あとがき
思ったよりも早く津軽さんが書けました。
津軽さんの過去のお話と添い寝♡でした。
いいですよね、お互い意識しあってるけどまだ何もない状態。
本家でもなかなか手を出さないってところがもうやばい。
このお話、彼目線も書けたらいいなあと思っているんですけど、この家族の話をヒロインに聞いてほしくて津軽さんはしたと思うんですよね。
気になってる人にセルフイメージが崩れるかもしれない話をするのって結構心を許してきている証拠だと思ってて。
それくらい津軽さんの中でヒロインが大きな存在になってたらいいなという妄想からできました。
打ち明け話とか家族の話してるときの男性の雰囲気が好きなんですよね。
なんか人柄とか本音とかそんな感じのが伝わるような気がします。
さて。
そろそろ難波さんを書こうか、他を書こうか迷っています。
また黒澤書こうかな笑
2020年6月1日
Keity
1
初夏の香り漂う夜道。
少し涼しい風が心地よい。
なんとなく寝る気にならなかった私は、小腹がすいたので深夜のコンビニへと向かっていた。
というのも最近忙しくて冷蔵庫には何もなかったからだ。
こんなところを職場の人に見られた日には、と想像しかけてげんなりする。
あの人たちのことだから散々からかったりいじったりしてくるだろう。
特にあの人は――――
そう思い、直属の上司の顔を思い出す。
津軽高臣。所属する班の上司である。
住んでるマンションも同じなので、何かと会う機会が多い。
(まあ別に嫌いじゃないからいいけど…。ただ一緒にいるとちょっと面倒くさいんだよなあ)
普段のやり取りを思い出して思わずため息をつく。
きれいな顔に、柔らかい物腰と、きっと異性の相手としてはいいのだろう。
津軽さんと付き合いたい女性はたくさんいる。
自分も、津軽さんを異性として意識することは何度かあった。
ただ付き合えるかとなると、なんとなく自分の気持ちがわからないでいた。
そうこうしているうちにコンビニにたどり着いた。
夜目にコンビニの明かりは幾分かまぶしく感じた。
そういえば、と雑誌コーナーに向かう。
(たしか鳴子がCamCamの今月号がどうとかって…)
お目当てのページを探すべく、パラパラとページをめくる。
なかなか見つけられずにいると―――
「お客様、立ち読みはご遠慮いただいてます。」
突然声を掛けられハッとする。
しまったと思い、条件反射で平謝りする。
百合子「す、すみません!…って津軽さん?」
そこには件の上司、津軽さんが立っていた。
いつものスーツ姿とは違い、ラフな格好だった。
津軽「ははは。ウサちゃん、びっくりしすぎ。」
百合子「なんだ、津軽さんか。よかった…。」
津軽「なんだって、上司に対してその態度はよくないなあ」
百合子「てっきりお店の人かと思っちゃいましたよ。」
津軽「そう見えるように声かけたからね。」
百合子「もっと普通に声かけてくださいよ。」
ふと津軽さんの顔色が悪いことに気付く。
(こんなに白かったっけ…。)
百合子「体調悪いんですか?」
津軽「なんで?」
百合子「顔色悪いですよ。」
津軽「ああ、ちょっと寝付けなくてね。」
百合子「変なもの食べすぎたんじゃないですか?」
津軽「え、何。チンジャオロースチョコが食べたいって?」
百合子「あ~~、間に合ってるんで結構です!」
そう遠慮せずに、とゲテモノフードのある陳列棚へと引っ張っていく。
その後、チョコだけでなく謎のゲテモノドリンクなどその他もろもろをかごに入れて会計を済ませた(買わされた)。
(確かに食べ物を買いに来たけどこれじゃない……)
この時間帯にコンビニに来たのがまずかったとは思いつつ帰路につく。
隣では相変わらず飄々としている津軽さんの姿があった。
こうやって人を振り回すのが、この人の生きる醍醐味なのだろうと思う。
2
津軽「ウサちゃんってさ、なんか庶民的だよねえ。」
百合子「まあ、否定できないですけど。」
津軽「どういう風に育ったの?」
百合子「どういう風って言われても、普通の家だと思いますよ。」
津軽「ふうん。家族は?」
百合子「家族も普通ですよ。あ、でも仲は良いかな。」
津軽「へえ。そうなんだ。」
津軽さんは興味なさげに呟いた。
そういえばと思い、津軽さんに聞いてみる。
百合子「そういう津軽さんはどうなんですか?」
津軽「何、知りたいの?」
百合子「知りたいっていうか、あんまりそういう話は津軽さんから聞いたことないですし。」
津軽「別に面白いことなんてないよ。でも、どうしても教えてほしいって言うんなら…」
津軽さんが一呼吸おいて微笑む。
嫌な予感がした。
というか、津軽さんがニコニコしているときは大抵無理難題ふっかけてくる時だ。
津軽「添い寝して?」
百合子「そ、添い寝ですか?!」
津軽「うん。添い寝。なんか寝付けないからさ」
だからウサちゃんが添い寝してよ、と続ける津軽さん。
一瞬付き合っていたかと錯覚するくらいだった。
(いや、付き合ってない!ていうか何言ってるのこの人…!)
津軽さんの部屋に行くのは初めてではないが、こんな深夜に男性の部屋にしかも添い寝。
(無事に戻ってこれる気がしない……)
百合子「えっと、そういうのは彼女に…」
津軽「上司のサポートをするのが部下の役目だよね。」
百合子「それは仕事の話じゃないですか。」
津軽「大丈夫、何もしないから」
一昨年や去年のクリスマスを思い浮かべながら苦笑する。
(確かに、いわゆるそういうことはしていないけど…)
一人悶々と考えていると、いよいよマンションの玄関にたどり着いてしまった。
何とか断ろうと口を開く。
百合子「あの――」
津軽「今日だけでいいから。」
百合子「え?」
津軽「今日だけでいいから。一緒に寝てよ。」
そう言う津軽さんの様子はいつもと違って見えた。
だからだろうか―――。
私は、最上階の部屋へと足を踏み入れた。
3
部屋は相変わらず綺麗にしてあるようだった。
最も、扉が閉じてある部屋はいつもの通りなのだろうけど。
寝室に通され、さすがに少し緊張する。
確かに何もしないとは言ったけど、津軽さんだしなあと思いつつ、ベッドの隅に座る。
津軽さんはルームウェアに着替えると一息ついた。
そして、布団に入るよう促してくる。
津軽「もっとこっちおいでよ。」
百合子「近くないですか?」
津軽「気のせい、気のせい。」
ここまできたからには腹をくくろうと目をつぶる。
すると、自分よりも大きい掌が頭をなでる。
そっと目を開けると津軽さんに撫でられているのだと気付く。
向かい合って寝ているため、必然的に目が合う。
その目は不安げに揺れていた。
百合子「…何かあったんですか。」
津軽「どうして?」
百合子「なんとなくですけど…」
津軽「ウサちゃんが思うようなことはないよ。」
百合子「そうですか。」
聞いたところでかわされるのはわかっていたが、答えてくれないのがなんとも歯がゆい。
(じゃあ、どうしてそんな顔するんですか…。)
そう言いたくなるのを飲み込み、また目をつぶる。
それからお互い無言になる。
静かな室内に時計の音だけが木霊する。
だんだんと津軽さんが横にいるのも忘れ眠りかけていた時、津軽さんがぽつりとつぶやいた。
津軽「俺さ、家族いないんだよね。」
その声に反応して、わずかに顔を上げる。
暗くてどういう表情をしているかは分からない。
津軽さんは続けた。
津軽「親も兄弟も殺されて、俺だけ生き残って。」
銀さんが引き取ってくれたから一人じゃなかったけど、と付け加える。
どう反応していいか分からず、ただその声に耳を傾ける。
津軽さんはぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
津軽「でもさ、たまに夢に出てくることがあるんだよね。あの日のことが。」
あの日のこととは、きっとその事件のことなのだろう。
今の津軽さんからは想像もつかないくらいだけど、津軽さんの中にはそれがずっと残っているのだと察する。
21年間ずっと――――。
百合子「津軽さん…」
津軽「ウサちゃんと寝るから、いい夢見れそう。」
そう言って津軽さんは目を瞑った。
私は津軽さんがとても心細いように見え、思わず抱きしめる。
すると、津軽さんは驚いたのか声をかける。
津軽「ウサちゃん?」
百合子「今日だけ、です。」
津軽さんはそっと私を抱きしめた。
規則正しい心音が聞こえてくる。
心地よい音に包まれて、いつの間にか眠りについた。
End
↓あとがき
思ったよりも早く津軽さんが書けました。
津軽さんの過去のお話と添い寝♡でした。
いいですよね、お互い意識しあってるけどまだ何もない状態。
本家でもなかなか手を出さないってところがもうやばい。
このお話、彼目線も書けたらいいなあと思っているんですけど、この家族の話をヒロインに聞いてほしくて津軽さんはしたと思うんですよね。
気になってる人にセルフイメージが崩れるかもしれない話をするのって結構心を許してきている証拠だと思ってて。
それくらい津軽さんの中でヒロインが大きな存在になってたらいいなという妄想からできました。
打ち明け話とか家族の話してるときの男性の雰囲気が好きなんですよね。
なんか人柄とか本音とかそんな感じのが伝わるような気がします。
さて。
そろそろ難波さんを書こうか、他を書こうか迷っています。
また黒澤書こうかな笑
2020年6月1日
Keity
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