悪魔と殺人鬼
名を刻もう
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こんな時間まで研究をしたのはいつぶりだろうか。ここ一年近くあの女が来てからはそれをすることにまで頭が行かず、夕食に差し掛かる時間まで研究に没頭したのは本当に久しぶりで満足のいくものだった。まとめ終えた資料を後日のためにファイルに収めて住処へ帰宅するべく、私はなんの気配もない通路を歩いた。そういえば、あの女に今晩遅くなることを伝えたわけではなかったため変な気でも起こしてないかが心配になる。下手すればこの世界で安易に外に出て探索するほどのバカの持ち主だ、予測不可能なことをしでかすのはもう慣れたがそれでも無駄な面倒を作られるのは正直勘弁してもらいたいものだ。
【んふ】
身の毛がよだつとはこういったときに使うのがベストなのかもしれない。今までそのような体験をしたことがなければ私はそういう体験をさせる側の立場であった故に、この状況に微かながらの焦りを感じるのは仕方のないこととも言える。背後から聞こえるこの薄気味悪い笑い声は先ほどまで感じなかった生き物の気配を一気にざわめかせた。私は踵を返して視線をそちらに向ければ通路の奥の台車に、正しく人形のように座る黒髪の子供。男なのか女なのかわかりにくいその髪の短さは余計にこの空間を重く感じさせた。
「どこから来た」
【桔梗の中から】
なぜこの生き物が彼女の名を知っている。まさか生前から迷い込んだ彼女の知人か、そもそもあの女の中というのは一体どういうことだ。私は口元だけ笑っているその人間に少しずつ歩み寄った。
【でも私はもう死んだ】
不可解なことばかりを口にするこの子供は一体私に何を伝えようとしているのか。少しずつではあるが近づいているその存在、しかし私は途中で足を止め眉間に皺を寄せた。子供の背後からうねうねと動く何か黒い影が、私の苛立ちをさらに膨張させる。"彼女"はなんの意図があってこれをするのだろうか。
「エンティティ…」
【はは、カーターそろそろだ】
「お前の姿か」
【まさか、お前の愛しいモルモットの姿だ】
嘘だ、彼女の瞳はそんな死んだ目をしていない。いつみてもそれは宝石のように輝いて、その勢いで幾つもの危険に挑戦する馬鹿の瞳、それこそが正しく彼女なのだ。用件はなんだと問いかけるも彼女は楽しそうに嗤っていた。このバケモノ、一体何が目的でこうして彼女に絡もうとするんだ。お前が勝手に連れて帰れといったから好きにしているだけなのにそれを今更惜しく感じでもしたか。
【は、いや、否定しないのだな】
「なんのことだ」
【次の儀式、楽しみにしているぞ】
彼女はそういって施設の中に霧をたいてその中に身を沈めていった。次の儀式、次にまたあの女を呼び寄せることがあるとすれば、あの女に何かがあったとすれば、その時はただひたすらに彼女を生かすことを考えなければならない。
だって、彼女に、価値が、無くなるのだから。
「おかえり、なさい」
「どうした」
あれから何事もなく住処へ帰宅すれば玄関で不安そうにしゃがみこむ彼女の姿、長い髪を珍しく下ろしているその姿は小動物のようで片手で彼女の顔を掴んで上げさせた。
「か、帰りが遅い」
「研究が長引いただけだ」
そう伝えればよかった、と呟いてその髪を揺らしながらせっせと台所に走っていった。
よかった、彼女からそう言われるのはこれで2回目な気がするが、彼女は一体何をもって良かったといっているのだろうか。だが、それを言われて心が落ち着いたのも正直なことで、私は彼女のそういった人間らしさに安心を寄せているのかもしれない。玄関で白衣を脱ぎながらそんなことを考えれば奥で彼女が早くしろと急かしてくる。鬱陶しいと思っていたあの頃と、少し違うものを感じられたのは初めてだ。
「おい」
「はい?」
「ガキの頃はその髪どうしてた」
「そもそも短髪でしたよ?」
【んふ】
身の毛がよだつとはこういったときに使うのがベストなのかもしれない。今までそのような体験をしたことがなければ私はそういう体験をさせる側の立場であった故に、この状況に微かながらの焦りを感じるのは仕方のないこととも言える。背後から聞こえるこの薄気味悪い笑い声は先ほどまで感じなかった生き物の気配を一気にざわめかせた。私は踵を返して視線をそちらに向ければ通路の奥の台車に、正しく人形のように座る黒髪の子供。男なのか女なのかわかりにくいその髪の短さは余計にこの空間を重く感じさせた。
「どこから来た」
【桔梗の中から】
なぜこの生き物が彼女の名を知っている。まさか生前から迷い込んだ彼女の知人か、そもそもあの女の中というのは一体どういうことだ。私は口元だけ笑っているその人間に少しずつ歩み寄った。
【でも私はもう死んだ】
不可解なことばかりを口にするこの子供は一体私に何を伝えようとしているのか。少しずつではあるが近づいているその存在、しかし私は途中で足を止め眉間に皺を寄せた。子供の背後からうねうねと動く何か黒い影が、私の苛立ちをさらに膨張させる。"彼女"はなんの意図があってこれをするのだろうか。
「エンティティ…」
【はは、カーターそろそろだ】
「お前の姿か」
【まさか、お前の愛しいモルモットの姿だ】
嘘だ、彼女の瞳はそんな死んだ目をしていない。いつみてもそれは宝石のように輝いて、その勢いで幾つもの危険に挑戦する馬鹿の瞳、それこそが正しく彼女なのだ。用件はなんだと問いかけるも彼女は楽しそうに嗤っていた。このバケモノ、一体何が目的でこうして彼女に絡もうとするんだ。お前が勝手に連れて帰れといったから好きにしているだけなのにそれを今更惜しく感じでもしたか。
【は、いや、否定しないのだな】
「なんのことだ」
【次の儀式、楽しみにしているぞ】
彼女はそういって施設の中に霧をたいてその中に身を沈めていった。次の儀式、次にまたあの女を呼び寄せることがあるとすれば、あの女に何かがあったとすれば、その時はただひたすらに彼女を生かすことを考えなければならない。
だって、彼女に、価値が、無くなるのだから。
「おかえり、なさい」
「どうした」
あれから何事もなく住処へ帰宅すれば玄関で不安そうにしゃがみこむ彼女の姿、長い髪を珍しく下ろしているその姿は小動物のようで片手で彼女の顔を掴んで上げさせた。
「か、帰りが遅い」
「研究が長引いただけだ」
そう伝えればよかった、と呟いてその髪を揺らしながらせっせと台所に走っていった。
よかった、彼女からそう言われるのはこれで2回目な気がするが、彼女は一体何をもって良かったといっているのだろうか。だが、それを言われて心が落ち着いたのも正直なことで、私は彼女のそういった人間らしさに安心を寄せているのかもしれない。玄関で白衣を脱ぎながらそんなことを考えれば奥で彼女が早くしろと急かしてくる。鬱陶しいと思っていたあの頃と、少し違うものを感じられたのは初めてだ。
「おい」
「はい?」
「ガキの頃はその髪どうしてた」
「そもそも短髪でしたよ?」