悪魔と殺人鬼
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ゴンゴンゴンゴンッ
夕食時に鳴り響くこのノックオン、鳴らし方的にビリーくんでもナースさんでもなければ、今まで来た誰かではないことは確か。可能性があるとすればこの重くて大きな音は身体が大きなハントレスさんかあるいは他の殺人鬼か。とはいえ流石にハントレスさんは女性なのだからこんな乱暴なノックはしないだろう。私は無意識に席を立って玄関へ向かおうとした。
「おい…」
忘れてた。私は席に座ったままのこの男に腕を掴まれて引き寄せられる。いくら無意識とはいえ彼が家にいる状況でわざわざ私が、相手がわかっているわけでもないのに私一人が出ることは自殺行為、彼は頭の器具を取っているせいかいつもより眉間に深くシワがよって私を見下ろしていた。私は素直に謝罪すれば彼は立ち上がり私を彼の温もりの残る椅子に座らせる。もし、知らない殺人鬼だったら、私がここにいることがばれて殺しにきた人だとしたら、うぅ…久々に不安になって来た。
「おい、勝手に入るな」
「小娘元気か」
「ト…!?」
彼の言葉を無視して強引にも家に入って来たのはトラッパーさんだった。こんな夕食時に何事かと思ったが彼の手に持っているもので大体の察しがついてしまった。そういえば彼らはこういう上等品だったり食料だったりをどうやって手に入れているのだろうか。まさか生前の世界から輸入なんてこと…あるはずがないか。
トラッパーさんは壁際に設置してあった椅子を引いて私の近くに寄せれば堂々と王様気取りで座った。なんて自由なんだ、そしてやはり気になるのはその手に持った三本の酒瓶。片手に三本も持つとはなんと器用なものよ、その酒瓶を彼は夕食途中の机にゴロゴロと置いた。
「トラッパーさん、夕食どうします?」
「こいつにはやらなくていい」
「俺は干し肉さえあればいい」
そういって用意周到なのかポケットから乾燥した肉を出してくるのだが、あなたそのポケット肉の匂いが染み付いていつか後悔しますよ。
まぁ察しの通りの話ですよ。男が酒を持って友人の家にわさわさ来たということは今日の夕食は晩酌に変わり、大の二人はこの食事に似合わないワインなんかをグラスに注いで飲んでいるのだからこの部屋は当然のようにむさ苦しい。極端に酒が弱いわけではないけれどこんな酒豪共に付き合ってられるわけもなく、私は空になった皿を洗い終えて寝室に戻ろうとしていた。
「おい、まてよ」
マスクを外したトラッパーさんが私の腕を掴んで再び元の場所に座らせた。いやなんですかね、まさか酌をしろとでもいうのだろうか。我が家でこういうことはしたことないし、正しい注ぎ方なんて私は知りませんよ。視線をあの男に向ければまだまだ余裕と言わんばかりに腕を組んで、しかし今の状況の私を何故か睨んで来ていた。おっと私?私が悪いんですか?
「あの、トラッパーさん」
「エヴァンでいい」
「な、」
「え?エヴァンさん、私寝室で本を読みたいんですが…」
エヴァンとは、彼の生前の名前なのか。なんでもいいや、彼にそう呼べと言われるのなら私はそれに従うしかないし…ただ、今の発言であの男が少し動揺したのはなぜだろう。そんなに彼が人に名を呼ばせることが珍しいことなのだろうか。だとしたら光栄だと思わなければ、それなりに親しいと思ってくれているのはこの世界で生きる中で大切なことだろうし、自分が少しでも生きやすい環境を作るという面では非常に素晴らしいことだと思う。多分。
私はエヴァンさんに自分がやりたい趣旨を伝えたのだが、どうやら彼にとってそんなことはどうでもいいらしく、まぁ多少は予測していたことなのだが私にこの酒を飲めと提示してくるのだ。いや、ちょっとなぁ、ワインはあまり得意ではないのだがどうしたらいいか。まだ甘めのウィスキーの方が得意なんだけど。
「エヴァンさん、ワインは苦手です」
「は、まだガキだな」
「お前はこれにしておけ」
向かい側にいる彼がそういって私に蜂蜜色の酒瓶を渡してきた。なんだなんだとラベルを確認しようとしたが、なんだこの字は読めるわけない。困ったように眉間に皺を寄せて眺めていたら横にいたエヴァンさんが唐突に笑い出した。なんだ、え、本当になんだ?まさか笑い上戸なのか、泣上戸とは昔居酒屋に行った時に偶然遭遇したことがあるが、彼がこうやって笑うことはある意味珍しいのかもしれない。
「お前この酒わざわざ」
「黙ってろ」
「これは度数も低いし甘めだからお前のようなお子様でも大丈夫だな」
「たかがお酒でお子様呼ばわりは解せないです」
しかし実際舌がまだまだお子様なのは事実で私は諦めるようにそのボトルの栓を抜いた。エヴァンさんの言う通りムワッと鼻を掠めた甘い蜂蜜の香り、こんなお酒彼が好んで持っているとも思えないし、だとしたら誰かからの頂き物なのだろうか。なんでもいい、私は渡されたグラスに三分の一ほどそれを注いで恐る恐る口に含んだ。
香りに比例するようにその蜜はとても甘くそのせいで余計に酔いが回るのではないかと心配になったが、それでも私はこの毒々しくない優しさに"この酒はいいものだ"と解釈する。ストレートで飲む分口に含む量も少なく流石に潰れるほどの酔いは感じないだろうと安心した私はそのまま晩酌の楽しみに参加することにした。
やはり私はあのまま無理をいって寝室に向かえばよかった。いくら甘くて度数の低いお酒とはいえ、こんな男のペースに乗せられて飲めば嫌でも酔いは回ってくる。思考が追いつかないとまではいかないが体がフワフワして酔っているんだ、と思える程度の酔い。甘い香りが口内を支配して余計に幸せを煽ってくるのだからどうしようもない沼にはまった状態なのだ。いや、何より一番やばいのは私でもエヴァンさんでもなければ、残るもう一人の大男。腕を組んだままその黒い瞳が虚になって私を眺めているのだ。私は心配になり席を立てば彼の元まで身を寄せた。
「あの…如何なさいましたか」
「やめとけ、こいつワインは酔わないくせに他の酒飲んだらすぐ酔うんだ」
私と逆なのか。それはそれである意味面白いのだが虚なままの彼をどうしたらいいのだろうか。酔いが醒めるまでこのまま、それともベッドまで運んだほうがいいのか、そもそも彼はこの状況で意識があるのかないのか。私は彼の頬を片手でペチペチと叩いて意識の確認をする、虚な瞳が元いた私の場所から今の私へ向けばああ起きているのかと安心した途端、彼は私をその腕の中に抱き寄せてきた。なんだろう、嬉しいのは嬉しいのだがエヴァンさんの前でこれをされるのは少し不味い気がする。これを見てる彼は何を思って…あ、楽しんでます、彼面白いものを見たかのように口角上がってます。
「桔梗…」
「あ、すいません」
「こっちを見ろ」
ドクターはそういって私をぎゅっと強く抱きしめた。ちょっと苦しいしいろんな酒の匂いが混じってこっちの方がクラクラしそうになるが、彼はそのまま私を膝の上に跨ぐように座らせて再び抱きしめた。まさか彼は、酒のせいで甘え癖が出るなんて、いやまさか流石にそれはないか。それに自分からしたらこの状況は幸せなことだし、このまま酒の酔いに任せて眠ってしまおうか。
「人前でやる気かよ」
「私のものだ、お前こそ勝手に手懐けるな」
………あれ、喧嘩してません?少し顔を上げれば酔いながらも彼の顔は歯をむき出しにして威嚇している。あなたは犬か何かですか、そもそも私手懐けられた記憶がありませんよ。とはいえ酒豪たちがこんなところで取っ組み合いの喧嘩になっても困るし、自分の身のためにも早期段階で止めなければならない。私は更に体を起こしてせめて彼だけでも落ち着かせなければと声をかけようと試みる、彼と顔の高さが同じになれば彼は再び私を抱きしめて今度は逃げられないように閉じ込めてきた。そして頭をすり寄せまるでグルグルと喉を鳴らしているように甘えてきているのだ。無言の圧力とかではない、もはや物理的な力で動けないこの状況、一体どうすればいい。
「ダメだなこりゃ」
いいや何を諦めているんだエヴァンさんも。
まぁ…この状況が自分にとって祝福なのは変わらないし、仲違いに発展してない今、私は彼を制する必要がないというわけで。私はこのまま、彼の跳ね上がる心音の心地よさに眠っていいのだろうか。このまま寝ても、彼はベットまで連れて行ってくれるだろうか。
目が覚めたらきっと、彼はぎこちなく昨日のことから目をそらすのだろうか。
夕食時に鳴り響くこのノックオン、鳴らし方的にビリーくんでもナースさんでもなければ、今まで来た誰かではないことは確か。可能性があるとすればこの重くて大きな音は身体が大きなハントレスさんかあるいは他の殺人鬼か。とはいえ流石にハントレスさんは女性なのだからこんな乱暴なノックはしないだろう。私は無意識に席を立って玄関へ向かおうとした。
「おい…」
忘れてた。私は席に座ったままのこの男に腕を掴まれて引き寄せられる。いくら無意識とはいえ彼が家にいる状況でわざわざ私が、相手がわかっているわけでもないのに私一人が出ることは自殺行為、彼は頭の器具を取っているせいかいつもより眉間に深くシワがよって私を見下ろしていた。私は素直に謝罪すれば彼は立ち上がり私を彼の温もりの残る椅子に座らせる。もし、知らない殺人鬼だったら、私がここにいることがばれて殺しにきた人だとしたら、うぅ…久々に不安になって来た。
「おい、勝手に入るな」
「小娘元気か」
「ト…!?」
彼の言葉を無視して強引にも家に入って来たのはトラッパーさんだった。こんな夕食時に何事かと思ったが彼の手に持っているもので大体の察しがついてしまった。そういえば彼らはこういう上等品だったり食料だったりをどうやって手に入れているのだろうか。まさか生前の世界から輸入なんてこと…あるはずがないか。
トラッパーさんは壁際に設置してあった椅子を引いて私の近くに寄せれば堂々と王様気取りで座った。なんて自由なんだ、そしてやはり気になるのはその手に持った三本の酒瓶。片手に三本も持つとはなんと器用なものよ、その酒瓶を彼は夕食途中の机にゴロゴロと置いた。
「トラッパーさん、夕食どうします?」
「こいつにはやらなくていい」
「俺は干し肉さえあればいい」
そういって用意周到なのかポケットから乾燥した肉を出してくるのだが、あなたそのポケット肉の匂いが染み付いていつか後悔しますよ。
まぁ察しの通りの話ですよ。男が酒を持って友人の家にわさわさ来たということは今日の夕食は晩酌に変わり、大の二人はこの食事に似合わないワインなんかをグラスに注いで飲んでいるのだからこの部屋は当然のようにむさ苦しい。極端に酒が弱いわけではないけれどこんな酒豪共に付き合ってられるわけもなく、私は空になった皿を洗い終えて寝室に戻ろうとしていた。
「おい、まてよ」
マスクを外したトラッパーさんが私の腕を掴んで再び元の場所に座らせた。いやなんですかね、まさか酌をしろとでもいうのだろうか。我が家でこういうことはしたことないし、正しい注ぎ方なんて私は知りませんよ。視線をあの男に向ければまだまだ余裕と言わんばかりに腕を組んで、しかし今の状況の私を何故か睨んで来ていた。おっと私?私が悪いんですか?
「あの、トラッパーさん」
「エヴァンでいい」
「な、」
「え?エヴァンさん、私寝室で本を読みたいんですが…」
エヴァンとは、彼の生前の名前なのか。なんでもいいや、彼にそう呼べと言われるのなら私はそれに従うしかないし…ただ、今の発言であの男が少し動揺したのはなぜだろう。そんなに彼が人に名を呼ばせることが珍しいことなのだろうか。だとしたら光栄だと思わなければ、それなりに親しいと思ってくれているのはこの世界で生きる中で大切なことだろうし、自分が少しでも生きやすい環境を作るという面では非常に素晴らしいことだと思う。多分。
私はエヴァンさんに自分がやりたい趣旨を伝えたのだが、どうやら彼にとってそんなことはどうでもいいらしく、まぁ多少は予測していたことなのだが私にこの酒を飲めと提示してくるのだ。いや、ちょっとなぁ、ワインはあまり得意ではないのだがどうしたらいいか。まだ甘めのウィスキーの方が得意なんだけど。
「エヴァンさん、ワインは苦手です」
「は、まだガキだな」
「お前はこれにしておけ」
向かい側にいる彼がそういって私に蜂蜜色の酒瓶を渡してきた。なんだなんだとラベルを確認しようとしたが、なんだこの字は読めるわけない。困ったように眉間に皺を寄せて眺めていたら横にいたエヴァンさんが唐突に笑い出した。なんだ、え、本当になんだ?まさか笑い上戸なのか、泣上戸とは昔居酒屋に行った時に偶然遭遇したことがあるが、彼がこうやって笑うことはある意味珍しいのかもしれない。
「お前この酒わざわざ」
「黙ってろ」
「これは度数も低いし甘めだからお前のようなお子様でも大丈夫だな」
「たかがお酒でお子様呼ばわりは解せないです」
しかし実際舌がまだまだお子様なのは事実で私は諦めるようにそのボトルの栓を抜いた。エヴァンさんの言う通りムワッと鼻を掠めた甘い蜂蜜の香り、こんなお酒彼が好んで持っているとも思えないし、だとしたら誰かからの頂き物なのだろうか。なんでもいい、私は渡されたグラスに三分の一ほどそれを注いで恐る恐る口に含んだ。
香りに比例するようにその蜜はとても甘くそのせいで余計に酔いが回るのではないかと心配になったが、それでも私はこの毒々しくない優しさに"この酒はいいものだ"と解釈する。ストレートで飲む分口に含む量も少なく流石に潰れるほどの酔いは感じないだろうと安心した私はそのまま晩酌の楽しみに参加することにした。
やはり私はあのまま無理をいって寝室に向かえばよかった。いくら甘くて度数の低いお酒とはいえ、こんな男のペースに乗せられて飲めば嫌でも酔いは回ってくる。思考が追いつかないとまではいかないが体がフワフワして酔っているんだ、と思える程度の酔い。甘い香りが口内を支配して余計に幸せを煽ってくるのだからどうしようもない沼にはまった状態なのだ。いや、何より一番やばいのは私でもエヴァンさんでもなければ、残るもう一人の大男。腕を組んだままその黒い瞳が虚になって私を眺めているのだ。私は心配になり席を立てば彼の元まで身を寄せた。
「あの…如何なさいましたか」
「やめとけ、こいつワインは酔わないくせに他の酒飲んだらすぐ酔うんだ」
私と逆なのか。それはそれである意味面白いのだが虚なままの彼をどうしたらいいのだろうか。酔いが醒めるまでこのまま、それともベッドまで運んだほうがいいのか、そもそも彼はこの状況で意識があるのかないのか。私は彼の頬を片手でペチペチと叩いて意識の確認をする、虚な瞳が元いた私の場所から今の私へ向けばああ起きているのかと安心した途端、彼は私をその腕の中に抱き寄せてきた。なんだろう、嬉しいのは嬉しいのだがエヴァンさんの前でこれをされるのは少し不味い気がする。これを見てる彼は何を思って…あ、楽しんでます、彼面白いものを見たかのように口角上がってます。
「桔梗…」
「あ、すいません」
「こっちを見ろ」
ドクターはそういって私をぎゅっと強く抱きしめた。ちょっと苦しいしいろんな酒の匂いが混じってこっちの方がクラクラしそうになるが、彼はそのまま私を膝の上に跨ぐように座らせて再び抱きしめた。まさか彼は、酒のせいで甘え癖が出るなんて、いやまさか流石にそれはないか。それに自分からしたらこの状況は幸せなことだし、このまま酒の酔いに任せて眠ってしまおうか。
「人前でやる気かよ」
「私のものだ、お前こそ勝手に手懐けるな」
………あれ、喧嘩してません?少し顔を上げれば酔いながらも彼の顔は歯をむき出しにして威嚇している。あなたは犬か何かですか、そもそも私手懐けられた記憶がありませんよ。とはいえ酒豪たちがこんなところで取っ組み合いの喧嘩になっても困るし、自分の身のためにも早期段階で止めなければならない。私は更に体を起こしてせめて彼だけでも落ち着かせなければと声をかけようと試みる、彼と顔の高さが同じになれば彼は再び私を抱きしめて今度は逃げられないように閉じ込めてきた。そして頭をすり寄せまるでグルグルと喉を鳴らしているように甘えてきているのだ。無言の圧力とかではない、もはや物理的な力で動けないこの状況、一体どうすればいい。
「ダメだなこりゃ」
いいや何を諦めているんだエヴァンさんも。
まぁ…この状況が自分にとって祝福なのは変わらないし、仲違いに発展してない今、私は彼を制する必要がないというわけで。私はこのまま、彼の跳ね上がる心音の心地よさに眠っていいのだろうか。このまま寝ても、彼はベットまで連れて行ってくれるだろうか。
目が覚めたらきっと、彼はぎこちなく昨日のことから目をそらすのだろうか。