悪魔と殺人鬼
名を刻もう
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「とりっかあとれーと!」
「…それ多分トリックオアトリートだよ」
「それ!」
「ちゃんと言わなきゃあげないよー?」
唐突な扉のノックオンとともに訪れたのはなんと猫耳にマントを羽織ったヒルビリーくんで、なんちゅう組み合わせなんだと思いながらも彼が何を目的で来たかを把握すれば私はさぁどうぞと家の中に招き入れた。どうやら今日は年に一度のHalloweenのようで季節の感覚を体で体感することがなかった私はここにしてようやく今が秋の終わりなのかと自覚する。あの世界からもう一年以上離れたと考えれば、それはもう何とも言えない空虚と、しかしどこか達成感を覚えて私は苦笑いを零した。
さて、問題はお菓子の在庫が少なかった件についてだ。夜な夜な小腹が空いた時にこっそり食べていたが(そして彼に見つかった日は酷く怒られる)それらは果たして今残っているのだろうか。確認のためビリーくんにはリビングで寛いでもらい私は貯蓄庫へと顔を突っ込む。エンティティからの報酬ともいえるその食材たちの中に一つ青と白のキャンディが混ざっていて、はてこんなのいつ誰から頂いたものかと首をかしげたがこのイベントに相応しいと判断した私はそれを彼にあげることにした。
「はい」
「わー、ありがとう!」
「ちなみにその衣装は誰が?」
「トラッパーだよ!」
「えっ」
えっ、きっもちわる。あの男がマントのみならまだしも猫耳をつけたのか、てか持ってたのか、うわそう考えると普通に気持ち悪いな。ビリーくん下手したら男どもに食べられてしまうのでは?イヤァ考えたくない、いやもしかしたらこの世界は男女関係なくしてるのかもしれない、いやいやいや、いやいやいやいや。
「いやいやいや…」
「桔梗?」
「だ、大丈夫…私が守ってやるから…」
「え?」
treatを貰った彼が満足げに帰っていくのを玄関で見送ればそれと同時に施設から帰ってくる彼の姿が奥から見える。ああまずい、次に無用心に扉を開たのがバレれば今度はメメントするって言われてるんだ、ヤダヤダヤダ全力で締めなくては。
「おい」
あ、遠くてもあなたの声結構聞こえますね、しかも声あげてないのに。
私は全力で見てないふりをするために玄関に鍵をかけてあたかも今ご飯を作ってますよという雰囲気を醸し出すために台所へと向かった。すぐに扉の開く音が聴こえて不機嫌そうな顔をした彼が入ってくるのだが私は負けじとお帰りなさいと笑顔で語りかけた。
「おい」
「いやいや私今ご飯作ってるんですよねぇ」
「はぁ…」
流石に面倒だと思ったのだろうか、彼は諦めたように溜息を吐いて白衣を椅子にかければ後ろにあるソファに足を投げ捨てるように座った。どうやら相当疲れているようだ。
簡易的な夕食が出来上がれば今日はソファで食べるのだろうかと私は察し、食器をソファに備えてある机に持っていく。彼は相変わらず足を伸ばしたまま何枚もの紙をお腹の上にばら撒いて手に持つ資料に目を通しているが、私が食事を持って来たことに気付けば自然と身体を起こし、そしておまけと言わんばかりに私を睨みあげた。
「ビリーくんが来てまして…」
「遊びか」
「いえ、あーいやまぁ、あってるといえば合ってるんですが」
今日はどうやらハロウィンらしいです。そう彼に伝えればそういえばと言わんばかりに席を立って貯蓄庫へ向かった。まさか夕食をハロウィン仕様にしろとか、まさかとは思うがカボチャが出てきたり、いやどれも考えられないな。
私は彼がいつ戻ってきても食事ができるように準備を進めて数分、彼は先ほどより一層不機嫌そうな顔をして戻ってきた。なんだなんだと不安げに彼を見遣れば彼は乱暴にソファに座り、それと同時に私もその場に巻き込まれるように強制で座らせられた。
「どわ!」
「お前…」
「え、今の私のせいなの!?」
「貯蓄庫にあったキャンディをどうした」
貯蓄庫にあったキャンディ。
貯 蓄 庫 に あ っ た キ ャ ン デ ィ ???
ちょっと待て、それはもしかしなくても青と白のペロペロキャンディではなかろうか、まさかとは思うがあれは彼の好物か何かなのだろうか。そもそもここの物は全て彼の物で私の物ではない、何を普通にはいどうぞとあげてしまったんだ。当然貯蓄庫にあるもの全ては彼の物なのに。ああ馬鹿野郎だ、ここの生活に慣れすぎた末路だ、これは死ぬ、死ねる。人様の冷蔵庫を勝手に開けて食べたような罪悪感、やったことないけれど。
「食ったのか」
「すいませんすいません違うんですよビリーくんが、ビリーくんがトリックするって脅してきて!」
「…渡したのか」
その通りだ、何も言えないし言える立場でもない。しかもビリーくんが悪いみたいな言い方までしてなんて最低なやつなんだ私は。ああどうしよう、メメントか、今日こそメメントか、死ぬのか。彼にまさかキャンディだなんて可愛い好物があるとは私だって考えられないだろう。キツイ、普通に無理だし入試問題に出されたら0.0001%の確率でも解けない。
申し訳なさそうに私は冷める前のスープに目をやれば必死にこの場を乗り越そうと試みた。無理だ、謝罪しても許してくれそうにないし私に出来る精一杯のごまかしはこれしかない。私はとにかく彼に夕食をと勧めてなんとか晩餐を始めることに成功したが、それにしても空気が悪すぎる。こんなにたかがスープを食すのに息苦しくなるものか。それもそうか、私のせいで未だ困ったように眉間にしわを寄せて口はへの字のままなのだから。ああくそ、この状況をどうしてくれよう過去の私よ。
「す、すいませんでし」
「あれは今日のために報酬として手に入れたものだ」
「Halloweenのためですか…」
「お前にやるためにだ」
「what?」
スープを掬う手がピタリと止まる。私は口からダバダバと液体を零しながら彼を眺めた、当然汚いと言われながらナプキンを投げ渡されるのだがそれでも私は唖然としてしまう。
「私の、ため」
「お前もてっきり仮装なんぞをして求めてくるのかと思ってな」
「そんなに子供に見えるか…」
「それを勝手に他者へ渡すとは」
ああ心が痛い。そんな言い方しなくたっていいではないか、まぁ私が全部悪いんだが。
私は素直に両手を合わせて謝罪をした、というか私にはもうそれしか残されていない気がする。これで許してもらえるとはこの不機嫌加減では思えないし、彼の言っていることが本当ならわざわざ自分の頑張りの報酬を私へのキャンディに当てたということで、それを他者に渡すなんてことは本当に失礼なこと。慣れとはそういう可能性を考えられなくなるという面では恐ろしいものだと反省した。
怒られる、そう思った私は目をぎゅっと瞑ったが彼は食事する手を止めて私の顎をその指先で掬ってこちらを向かせてきた。見れば彼は知らぬ間に口元の器具を外していて(もちろんそれは食事中常に外しているものなのに私は気付いていなかった)見開いた瞳で私を捉えていた。
「渡すはずの菓子を勝手をして失ったんだ、詫びとして私に甘いものを渡せ」
「無理っす…」
いや無理です本当に。だって私持ってないんですよ、お菓子。ビリーくんにキャンディあげるくらいなんですよ?貯蓄庫から勝手にとったキャンディを。私が自らの懐にお菓子を備えてない証拠ではないか。頭のいい彼ならそれくらいわかるはずなのに、なんて無茶を言うんだ。もしかして私に殺人の儀式をして報酬としてお菓子を稼いで来いとでもいうのだろうか、それこそもっと無理な話だ。それとも甘いものということはお菓子に限らずなのか、だとしてもコーヒーはブラックだし紅茶もストレートなあなたにどうやって甘いものを献上せよというのですか。
「いや本当に無理です、ないんですって」
「あるだろう」
「どこに!?」
私がそういうと彼は私の顎に添えていた指を私の唇に当て、そのままそれに重ねるように口付けをしてきた。あ、という声すら吸い込まれるように受けたその接吻はものの数秒で離れていくのだが、彼のその瞳は私を理解させるには十分な力を持っていた。
「ここに」
彼はそう言って晩餐を終わらせてもいないのに私を抱き上げてその場を離れてしまった。この瞳は、これで終わりではないと、私に訴えているようで。私は彼のtreatにならざるを得ないのかもしれない。
HappyなHalloweenのhappyは誰のものですか?
【ちょっとしたHalloweenエピソード番外編でした、皆様も楽しいHalloweenをお楽しみくださいませ】
「…それ多分トリックオアトリートだよ」
「それ!」
「ちゃんと言わなきゃあげないよー?」
唐突な扉のノックオンとともに訪れたのはなんと猫耳にマントを羽織ったヒルビリーくんで、なんちゅう組み合わせなんだと思いながらも彼が何を目的で来たかを把握すれば私はさぁどうぞと家の中に招き入れた。どうやら今日は年に一度のHalloweenのようで季節の感覚を体で体感することがなかった私はここにしてようやく今が秋の終わりなのかと自覚する。あの世界からもう一年以上離れたと考えれば、それはもう何とも言えない空虚と、しかしどこか達成感を覚えて私は苦笑いを零した。
さて、問題はお菓子の在庫が少なかった件についてだ。夜な夜な小腹が空いた時にこっそり食べていたが(そして彼に見つかった日は酷く怒られる)それらは果たして今残っているのだろうか。確認のためビリーくんにはリビングで寛いでもらい私は貯蓄庫へと顔を突っ込む。エンティティからの報酬ともいえるその食材たちの中に一つ青と白のキャンディが混ざっていて、はてこんなのいつ誰から頂いたものかと首をかしげたがこのイベントに相応しいと判断した私はそれを彼にあげることにした。
「はい」
「わー、ありがとう!」
「ちなみにその衣装は誰が?」
「トラッパーだよ!」
「えっ」
えっ、きっもちわる。あの男がマントのみならまだしも猫耳をつけたのか、てか持ってたのか、うわそう考えると普通に気持ち悪いな。ビリーくん下手したら男どもに食べられてしまうのでは?イヤァ考えたくない、いやもしかしたらこの世界は男女関係なくしてるのかもしれない、いやいやいや、いやいやいやいや。
「いやいやいや…」
「桔梗?」
「だ、大丈夫…私が守ってやるから…」
「え?」
treatを貰った彼が満足げに帰っていくのを玄関で見送ればそれと同時に施設から帰ってくる彼の姿が奥から見える。ああまずい、次に無用心に扉を開たのがバレれば今度はメメントするって言われてるんだ、ヤダヤダヤダ全力で締めなくては。
「おい」
あ、遠くてもあなたの声結構聞こえますね、しかも声あげてないのに。
私は全力で見てないふりをするために玄関に鍵をかけてあたかも今ご飯を作ってますよという雰囲気を醸し出すために台所へと向かった。すぐに扉の開く音が聴こえて不機嫌そうな顔をした彼が入ってくるのだが私は負けじとお帰りなさいと笑顔で語りかけた。
「おい」
「いやいや私今ご飯作ってるんですよねぇ」
「はぁ…」
流石に面倒だと思ったのだろうか、彼は諦めたように溜息を吐いて白衣を椅子にかければ後ろにあるソファに足を投げ捨てるように座った。どうやら相当疲れているようだ。
簡易的な夕食が出来上がれば今日はソファで食べるのだろうかと私は察し、食器をソファに備えてある机に持っていく。彼は相変わらず足を伸ばしたまま何枚もの紙をお腹の上にばら撒いて手に持つ資料に目を通しているが、私が食事を持って来たことに気付けば自然と身体を起こし、そしておまけと言わんばかりに私を睨みあげた。
「ビリーくんが来てまして…」
「遊びか」
「いえ、あーいやまぁ、あってるといえば合ってるんですが」
今日はどうやらハロウィンらしいです。そう彼に伝えればそういえばと言わんばかりに席を立って貯蓄庫へ向かった。まさか夕食をハロウィン仕様にしろとか、まさかとは思うがカボチャが出てきたり、いやどれも考えられないな。
私は彼がいつ戻ってきても食事ができるように準備を進めて数分、彼は先ほどより一層不機嫌そうな顔をして戻ってきた。なんだなんだと不安げに彼を見遣れば彼は乱暴にソファに座り、それと同時に私もその場に巻き込まれるように強制で座らせられた。
「どわ!」
「お前…」
「え、今の私のせいなの!?」
「貯蓄庫にあったキャンディをどうした」
貯蓄庫にあったキャンディ。
貯 蓄 庫 に あ っ た キ ャ ン デ ィ ???
ちょっと待て、それはもしかしなくても青と白のペロペロキャンディではなかろうか、まさかとは思うがあれは彼の好物か何かなのだろうか。そもそもここの物は全て彼の物で私の物ではない、何を普通にはいどうぞとあげてしまったんだ。当然貯蓄庫にあるもの全ては彼の物なのに。ああ馬鹿野郎だ、ここの生活に慣れすぎた末路だ、これは死ぬ、死ねる。人様の冷蔵庫を勝手に開けて食べたような罪悪感、やったことないけれど。
「食ったのか」
「すいませんすいません違うんですよビリーくんが、ビリーくんがトリックするって脅してきて!」
「…渡したのか」
その通りだ、何も言えないし言える立場でもない。しかもビリーくんが悪いみたいな言い方までしてなんて最低なやつなんだ私は。ああどうしよう、メメントか、今日こそメメントか、死ぬのか。彼にまさかキャンディだなんて可愛い好物があるとは私だって考えられないだろう。キツイ、普通に無理だし入試問題に出されたら0.0001%の確率でも解けない。
申し訳なさそうに私は冷める前のスープに目をやれば必死にこの場を乗り越そうと試みた。無理だ、謝罪しても許してくれそうにないし私に出来る精一杯のごまかしはこれしかない。私はとにかく彼に夕食をと勧めてなんとか晩餐を始めることに成功したが、それにしても空気が悪すぎる。こんなにたかがスープを食すのに息苦しくなるものか。それもそうか、私のせいで未だ困ったように眉間にしわを寄せて口はへの字のままなのだから。ああくそ、この状況をどうしてくれよう過去の私よ。
「す、すいませんでし」
「あれは今日のために報酬として手に入れたものだ」
「Halloweenのためですか…」
「お前にやるためにだ」
「what?」
スープを掬う手がピタリと止まる。私は口からダバダバと液体を零しながら彼を眺めた、当然汚いと言われながらナプキンを投げ渡されるのだがそれでも私は唖然としてしまう。
「私の、ため」
「お前もてっきり仮装なんぞをして求めてくるのかと思ってな」
「そんなに子供に見えるか…」
「それを勝手に他者へ渡すとは」
ああ心が痛い。そんな言い方しなくたっていいではないか、まぁ私が全部悪いんだが。
私は素直に両手を合わせて謝罪をした、というか私にはもうそれしか残されていない気がする。これで許してもらえるとはこの不機嫌加減では思えないし、彼の言っていることが本当ならわざわざ自分の頑張りの報酬を私へのキャンディに当てたということで、それを他者に渡すなんてことは本当に失礼なこと。慣れとはそういう可能性を考えられなくなるという面では恐ろしいものだと反省した。
怒られる、そう思った私は目をぎゅっと瞑ったが彼は食事する手を止めて私の顎をその指先で掬ってこちらを向かせてきた。見れば彼は知らぬ間に口元の器具を外していて(もちろんそれは食事中常に外しているものなのに私は気付いていなかった)見開いた瞳で私を捉えていた。
「渡すはずの菓子を勝手をして失ったんだ、詫びとして私に甘いものを渡せ」
「無理っす…」
いや無理です本当に。だって私持ってないんですよ、お菓子。ビリーくんにキャンディあげるくらいなんですよ?貯蓄庫から勝手にとったキャンディを。私が自らの懐にお菓子を備えてない証拠ではないか。頭のいい彼ならそれくらいわかるはずなのに、なんて無茶を言うんだ。もしかして私に殺人の儀式をして報酬としてお菓子を稼いで来いとでもいうのだろうか、それこそもっと無理な話だ。それとも甘いものということはお菓子に限らずなのか、だとしてもコーヒーはブラックだし紅茶もストレートなあなたにどうやって甘いものを献上せよというのですか。
「いや本当に無理です、ないんですって」
「あるだろう」
「どこに!?」
私がそういうと彼は私の顎に添えていた指を私の唇に当て、そのままそれに重ねるように口付けをしてきた。あ、という声すら吸い込まれるように受けたその接吻はものの数秒で離れていくのだが、彼のその瞳は私を理解させるには十分な力を持っていた。
「ここに」
彼はそう言って晩餐を終わらせてもいないのに私を抱き上げてその場を離れてしまった。この瞳は、これで終わりではないと、私に訴えているようで。私は彼のtreatにならざるを得ないのかもしれない。
HappyなHalloweenのhappyは誰のものですか?
【ちょっとしたHalloweenエピソード番外編でした、皆様も楽しいHalloweenをお楽しみくださいませ】