悪魔と殺人鬼
名を刻もう
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
今の出来事をありのまま説明しよう。私の目の前に、私の胸元より少し背の低い女の子が、テレポートでもしたかのような勢いで襲いかかってきたのだ。いいやどこから現れた、順を追って説明していただけないだろうか。
「うはは!」
「リサ、驚かすな」
「まぁまぁハントレス、私たちを知ってもらうには一番よ?」
お茶にしましょう。私の驚愕を無視してお嫁さんは悠長に4人分のお茶を右手にある机に並べる。いいややめてくれ、待ってくれ、私今の状況にクッソパニックなんですよ。というかどちら様ですか。なんか、何処か聞き覚えのあるその暖かくイケメンな声の…え、女性?女性、あの男より少し背の高いウサギの女性。あ、そういえばこの声知ってます、私研究所で布越しですが聴きましたよ。あれ、そういえばあの時は今日よりもっと密着していた気が…
「桔梗、驚かせてごめんね」
「…は!あ、ううん、いやいや」
「混乱してるぞ」
「私ハグよ、生前はリサだけど」
「えへ、よろしくハグちゃん」
追いつけ私、とにかくこの世界の常識に追いつくために平然を装ってどうにか自分なりの生き方を掴みとらなくては。お嫁さんといるということは、彼女たちも女性でありながら殺人鬼なのだから。
私が混乱している中でも、ハントレスと呼ばれる女性とお嫁さんは会話をしながらお茶会の準備をしていた。ハグちゃんは私と自己紹介をしたり、それこそ生前の話や殺人に至るまでの生い立ちを教えてくれたのだが、その間も準備を進める二人に対して私は何の手伝いもしてないのはいただけないのではなかろうかと心配になり、お嫁さんに何をしたらいいかと尋ねるも彼女は決まって"座っててね"と宥めてくれた。ああだめだ、どれだけ彼女たちは優しいのだろうか。幸せだなんて思ってる私は、ズルすぎる。
「それでね?もうアンドリューったら」
「サリー、何度目の話だ」
「あら、でもこういう話も楽しいじゃないの」
「ねぇ桔梗、あなたドクターが好きなの?」
「…は?」
なな、何を言い出すのだハグちゃんは、ちょっと待ってくれ今日は追いつけないことばかりではないか。
「者好きだな」
「でもね、ドクターの方が離さないのよ?」
あ、これ、このシーン。私はこれに生前憧れていたことを思い出した。学生の頃の話だが、放課後部活をサボったクラスメイトが教室で密かに話していたあれ、くだらないと口で言いながらも恋バナというものを聞く側として楽しみたいと何度憧れたことか。ああそう思うと私も、やはり女を捨てていなかったんだと安心してしまう。いやしかし、何故彼女たちがつい先日理解したばかりのこの気持ちを知っているのだろうか。お嫁さんにすらまだ話したことなどないというのに。もしかして彼女たちの中に人の脳内を読む殺人鬼でもいるのだろうか…。
「わ、私モルモットなだけ!」
「あらぁ」
「マゾヒストなのか?」
「顔が血に染まって美味しそうよ」
顔が血に染まって美味しそう、なんの話をしているのだと思っていたのだがふと近くにあったヒビの入った鏡を見れば、それはまぁ確かにその表現をしたい気持ちも分からなくもない。私はいつからこんなに素直になってしまったんだろうか、アニメのような頬の照り方に思わず苦笑いをしてしまう。こんなの、今更撤回したところで図星なのは丸わかりなのだ。
「お前はどうしたいんだ」
「どういう事でしょう」
「ハーマンが好きであれなんであれ、だ。もし人間として生きる道を選べるなら、そちら側につくつもりか、それともそうでないのか」
「ハントレス、あまりいじめないで」
彼女は私にそれを聞いたところでどうするのだろうか。だって私はもうこの世界から逃れる事が出来ない生き物になってしまったわけで、自分が元の世界に戻りたいと願ったところでそれが叶うとはもう思えない。なのにそれを聞くのは、私を味方か敵かを、彼女の中で判別するため?ああ嫌だ、なんで今日はこんなにも勘が冴えてしまうんだ。
「下手に答えても殺しはしない」
「ハントレス…」
なんだっていい、だって私はもう決めたんだ。
「私はこの世界でしかもう生きられないから、結果的にこういう考えになったのかもしれないけれど。それでも私は、生前よりずっとこの世界の方が生きていると感じられます。だから」
「ならいい」
酷い。人に話を聞いておきながら彼女は私の言葉を切ってそれから席を立ちその場を去っていった。間違えたのだろうか答えを、それとも何か気に触ることを言っただろうか。そんな覚えはないし、仮にそうだとしてもそれをもう偽ることができないくらい、私はこの世界に馴染んだつもりでいるから。
「大丈夫、気にしないで」
お嫁さんの声が女神の囁きのように、ハグちゃんの笑顔が天使の贈り物のように私に届くのは、それは本当に安心してもいいということなのだろうか。少し乱暴そうに見えたけれど決して適当な気持ちで何かをするような方とは初対面にしては思えなかったが、その直感を私は信じていいのだろうか。
それから私たちは私の時間が許される限り沢山の会話をして、いくつかのお菓子を口にした。なんと懐かしいクッキーの香ばしさ、なんと優しいお茶の温かさ、私は久々に感じるその全てに感動しながら笑いを零していたと思う。楽しくて楽しくて、これがあの頃の私に与えてくれようものなら、私はもっと苦労していなかっただろう。ああでも、あの世界でもっと楽しい事があったら、私はもしかしたらこの世界に抗って、結果的に彼との生活を送ることは不可能だったかもしれない。そう考えると神様はいったい私にどの道を選ばせたかったのだろうか。
「帰るぞ」
頭上から聞こえる声は、まさにその運命を握る鍵となる人物で、もう夜なのだろうかと窓のない外を見るもそこにはいつもの霧がかかっているだけで。でもまぁ彼がこうして私を迎えに来てくれたのだから、夜だろうがなんだろうが関係ない。私は二方にお礼をすればハグちゃんが気を利かせて少し余った焼き菓子を布に包んで持たせてくれた。そしてまた当然のように彼はその白いシーツで私を包みそっと抱き上げる。みんなが何か話している中私は頂いた焼き菓子を嬉しそうに胸元に抱えていた。すると何かぼふ、と重い感覚が私の腹部を圧迫する、なんだなんだと混乱するがシーツから出る方法がイマイチ分からず私は頭だけキョロキョロと動かして意思表示をした。布越しに聞こえる声は先程退室してしまったハントレスさんのようで、私に何かを伝えようと顔を近づけて来たのが陰で理解できる。
「おかえりなさい」
「これは仲間である印だ、サリーやハーマンが肉を多く頼んでいた理由に納得した証だ」
彼女はそういって私から離れていく。いや、違う、彼が動き出したのだ。お礼も言えないまま…こんな素敵な言葉をもらったのに。
私は大切な食材を落とさないようにシーツ越しではあるがそれを優しく抱えた。今日の夕食は今朝同様少し贅沢にしたい、なんて、それをしたら怒られるだろうか。
暖かすぎて、けれど何も返せない私は、無能なはずなのに。
そう思わせないあなた達が、とても強くて羨ましい。
「うはは!」
「リサ、驚かすな」
「まぁまぁハントレス、私たちを知ってもらうには一番よ?」
お茶にしましょう。私の驚愕を無視してお嫁さんは悠長に4人分のお茶を右手にある机に並べる。いいややめてくれ、待ってくれ、私今の状況にクッソパニックなんですよ。というかどちら様ですか。なんか、何処か聞き覚えのあるその暖かくイケメンな声の…え、女性?女性、あの男より少し背の高いウサギの女性。あ、そういえばこの声知ってます、私研究所で布越しですが聴きましたよ。あれ、そういえばあの時は今日よりもっと密着していた気が…
「桔梗、驚かせてごめんね」
「…は!あ、ううん、いやいや」
「混乱してるぞ」
「私ハグよ、生前はリサだけど」
「えへ、よろしくハグちゃん」
追いつけ私、とにかくこの世界の常識に追いつくために平然を装ってどうにか自分なりの生き方を掴みとらなくては。お嫁さんといるということは、彼女たちも女性でありながら殺人鬼なのだから。
私が混乱している中でも、ハントレスと呼ばれる女性とお嫁さんは会話をしながらお茶会の準備をしていた。ハグちゃんは私と自己紹介をしたり、それこそ生前の話や殺人に至るまでの生い立ちを教えてくれたのだが、その間も準備を進める二人に対して私は何の手伝いもしてないのはいただけないのではなかろうかと心配になり、お嫁さんに何をしたらいいかと尋ねるも彼女は決まって"座っててね"と宥めてくれた。ああだめだ、どれだけ彼女たちは優しいのだろうか。幸せだなんて思ってる私は、ズルすぎる。
「それでね?もうアンドリューったら」
「サリー、何度目の話だ」
「あら、でもこういう話も楽しいじゃないの」
「ねぇ桔梗、あなたドクターが好きなの?」
「…は?」
なな、何を言い出すのだハグちゃんは、ちょっと待ってくれ今日は追いつけないことばかりではないか。
「者好きだな」
「でもね、ドクターの方が離さないのよ?」
あ、これ、このシーン。私はこれに生前憧れていたことを思い出した。学生の頃の話だが、放課後部活をサボったクラスメイトが教室で密かに話していたあれ、くだらないと口で言いながらも恋バナというものを聞く側として楽しみたいと何度憧れたことか。ああそう思うと私も、やはり女を捨てていなかったんだと安心してしまう。いやしかし、何故彼女たちがつい先日理解したばかりのこの気持ちを知っているのだろうか。お嫁さんにすらまだ話したことなどないというのに。もしかして彼女たちの中に人の脳内を読む殺人鬼でもいるのだろうか…。
「わ、私モルモットなだけ!」
「あらぁ」
「マゾヒストなのか?」
「顔が血に染まって美味しそうよ」
顔が血に染まって美味しそう、なんの話をしているのだと思っていたのだがふと近くにあったヒビの入った鏡を見れば、それはまぁ確かにその表現をしたい気持ちも分からなくもない。私はいつからこんなに素直になってしまったんだろうか、アニメのような頬の照り方に思わず苦笑いをしてしまう。こんなの、今更撤回したところで図星なのは丸わかりなのだ。
「お前はどうしたいんだ」
「どういう事でしょう」
「ハーマンが好きであれなんであれ、だ。もし人間として生きる道を選べるなら、そちら側につくつもりか、それともそうでないのか」
「ハントレス、あまりいじめないで」
彼女は私にそれを聞いたところでどうするのだろうか。だって私はもうこの世界から逃れる事が出来ない生き物になってしまったわけで、自分が元の世界に戻りたいと願ったところでそれが叶うとはもう思えない。なのにそれを聞くのは、私を味方か敵かを、彼女の中で判別するため?ああ嫌だ、なんで今日はこんなにも勘が冴えてしまうんだ。
「下手に答えても殺しはしない」
「ハントレス…」
なんだっていい、だって私はもう決めたんだ。
「私はこの世界でしかもう生きられないから、結果的にこういう考えになったのかもしれないけれど。それでも私は、生前よりずっとこの世界の方が生きていると感じられます。だから」
「ならいい」
酷い。人に話を聞いておきながら彼女は私の言葉を切ってそれから席を立ちその場を去っていった。間違えたのだろうか答えを、それとも何か気に触ることを言っただろうか。そんな覚えはないし、仮にそうだとしてもそれをもう偽ることができないくらい、私はこの世界に馴染んだつもりでいるから。
「大丈夫、気にしないで」
お嫁さんの声が女神の囁きのように、ハグちゃんの笑顔が天使の贈り物のように私に届くのは、それは本当に安心してもいいということなのだろうか。少し乱暴そうに見えたけれど決して適当な気持ちで何かをするような方とは初対面にしては思えなかったが、その直感を私は信じていいのだろうか。
それから私たちは私の時間が許される限り沢山の会話をして、いくつかのお菓子を口にした。なんと懐かしいクッキーの香ばしさ、なんと優しいお茶の温かさ、私は久々に感じるその全てに感動しながら笑いを零していたと思う。楽しくて楽しくて、これがあの頃の私に与えてくれようものなら、私はもっと苦労していなかっただろう。ああでも、あの世界でもっと楽しい事があったら、私はもしかしたらこの世界に抗って、結果的に彼との生活を送ることは不可能だったかもしれない。そう考えると神様はいったい私にどの道を選ばせたかったのだろうか。
「帰るぞ」
頭上から聞こえる声は、まさにその運命を握る鍵となる人物で、もう夜なのだろうかと窓のない外を見るもそこにはいつもの霧がかかっているだけで。でもまぁ彼がこうして私を迎えに来てくれたのだから、夜だろうがなんだろうが関係ない。私は二方にお礼をすればハグちゃんが気を利かせて少し余った焼き菓子を布に包んで持たせてくれた。そしてまた当然のように彼はその白いシーツで私を包みそっと抱き上げる。みんなが何か話している中私は頂いた焼き菓子を嬉しそうに胸元に抱えていた。すると何かぼふ、と重い感覚が私の腹部を圧迫する、なんだなんだと混乱するがシーツから出る方法がイマイチ分からず私は頭だけキョロキョロと動かして意思表示をした。布越しに聞こえる声は先程退室してしまったハントレスさんのようで、私に何かを伝えようと顔を近づけて来たのが陰で理解できる。
「おかえりなさい」
「これは仲間である印だ、サリーやハーマンが肉を多く頼んでいた理由に納得した証だ」
彼女はそういって私から離れていく。いや、違う、彼が動き出したのだ。お礼も言えないまま…こんな素敵な言葉をもらったのに。
私は大切な食材を落とさないようにシーツ越しではあるがそれを優しく抱えた。今日の夕食は今朝同様少し贅沢にしたい、なんて、それをしたら怒られるだろうか。
暖かすぎて、けれど何も返せない私は、無能なはずなのに。
そう思わせないあなた達が、とても強くて羨ましい。