悪魔と殺人鬼
名を刻もう
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「支度しろ」
「はい?」
今日の朝食は最後のお肉を使ったミルクスープとお嫁さんからいただいた貴重なパンでなんともステキなモーニングを済ませ、私はこの上ない幸せで満たされていた。洗い物もこの皿で最後、洗濯物を干せばあとはこのままベッドで本を読むことが今日の私の日程になるのだが、今この男、私に支度をしろと言ったよな。
「あの」
「二度も言わすな」
「何処へ」
「早くしろ」
彼はそう言って寝室に戻っていく。なんなんだ一体。研究所へ行く時は必ず目覚めの際に伝えてくれるはずなのに、それとも他へ行くとでもいうのだろうか。まさか、デート?いやいややめろ、なんて想像をしているんだ。乙女か。
先日の夢、本当に彼女は私を地獄に落とす気だったのだろうかと思えるほどに酷く苦しく、実に心臓に悪い夢だった。唯一何かが変わったとすれば、私の中にいた過去の私が、あれから姿を現さないのだ。時に彼女を愛おしく思っていたあの寂しさも、今はもう生まれることがないと考えれば、今の私は昔よりずっと成長したといえるのだろうか。それともやはりただの私の想像に過ぎない存在だったのだろうか。
なんでもいい。それより、私はこの気持ちに気付いたことに嘘偽りがないとしても、果たして気付いたところでそれがなんの変化になるのだろうか。実際彼とこうしてモルモットと飼い主という関係が変わるわけでもないし、多分この先それは永遠になるだろう。だから、私が心から彼を愛おしく思っているのなら私は変に気持ちを伝えることをせずに敢えて彼のそばに居られるようにこの気持ちは黙っておいた方がいいのかもしれない。たまにもらえる口付けや優しさは、彼なりのペットに対する褒美みたいなものなのだから、その微かな幸せをもらうために、私は彼のそばにいるために、これは気付けて良かったと感じながら宝箱にしまわなければならないのだ。悔しいなこれは、あの世界でこんな青春を送りたかったものだよ。
さて、自分の気持ちに溺れている場合ではない。私はこれから理解のできない彼の言葉通り支度とやらをしなければならないのだ。とはいえ私は未だまともな服を持っておらず、やはりこの病衣しか服という服がないのだから支度といえるほどの身支度はできそうにない。できることといえばせいぜい簪を挿し直すことくらいだ。
「それでいいのか」
「これしかありませんが…」
寝室から戻ってきた彼はいつもとそう変わらない白衣の姿。果たしてこれからどこへ向かうのだろうか、まさか、まさか施設に行くことを伝え忘れている彼とは思えないが。
まぁまさか、こんなことを想像できるほど寝起きの私の回転は早くないというわけでして。私の現状況を言葉で説明すると、絶賛シーツに包まれて彼の腕の中にすっぽりとはまっている状態。今まで考えたことはなかったが、これはこれで非常に心が揺れるものであることは確か。お姫様抱っこなんて物語に出てくる何かかと思っていたが、まぁそれに近しい存在であるのは確かで、意識したくないのに意識してしまう自分はそれだけ彼に溺れている証拠でもある。
ところで彼はどこに連れて行くのだろうか。頭さえ出させてもらえないこの状況は、つまりはまぁ知らないところに連れていかれているということで、それに検討がつかないのが困っている理由になる。それでもまぁ、こんないい状況をもらえたことに感謝でもしながら私はこの男の胸元にでもシーツ越しに擦り寄るか。
「桔梗ちゃん?」
「むあ?」
少し経った頃、布越しに愛しのお嫁さんの声が聞こえた。なんだろう、でも施設に入る時のあの重い扉の音は聞こえてないし、だとしたらここはアサイラムというわけか。
「どへぇ!」
「ドクター、もう少し丁重に」
「帰りに寄る」
「え、帰りが夜?」
「黙ってろ」
私は椅子に投げられるように座らされれば尾骨を痛め情けない声を上げた。全くもって彼女のいう通りなのだが、帰りが夜とは一体どういうことなのだろうか。
それから彼の声が消えたにも関わらずこの部屋に生き物の気配が複数いることに気付く。なぜ気付いたのかはわからないし私にそんな力があるとは到底思えないが、私はこの空間にいるのが少し気持ちが悪く早くこの視界を自由にしてほしいと願った。願いとは案外簡単に叶ってしまうようで、私の布をお嫁さんが撫でるように取り払ってくれる。ああ優しい、なんとおおらかで美しいお嫁さんなんだろう、それと同時に私はすぐに視線をよそへ回した。当然お嫁さんは何事かと首をかしげるのだが、気のせいではないはずの気配が、目に見えないのはなぜだろうか。私は席から立ち上がりこの部屋の様子を確認しようとした時だった。
「はぁぁあ!」
「あ"あ"あぁぁあ!!?!」
再び私の尾骨が悲鳴をあげたのは、それからすぐのことだった。
「はい?」
今日の朝食は最後のお肉を使ったミルクスープとお嫁さんからいただいた貴重なパンでなんともステキなモーニングを済ませ、私はこの上ない幸せで満たされていた。洗い物もこの皿で最後、洗濯物を干せばあとはこのままベッドで本を読むことが今日の私の日程になるのだが、今この男、私に支度をしろと言ったよな。
「あの」
「二度も言わすな」
「何処へ」
「早くしろ」
彼はそう言って寝室に戻っていく。なんなんだ一体。研究所へ行く時は必ず目覚めの際に伝えてくれるはずなのに、それとも他へ行くとでもいうのだろうか。まさか、デート?いやいややめろ、なんて想像をしているんだ。乙女か。
先日の夢、本当に彼女は私を地獄に落とす気だったのだろうかと思えるほどに酷く苦しく、実に心臓に悪い夢だった。唯一何かが変わったとすれば、私の中にいた過去の私が、あれから姿を現さないのだ。時に彼女を愛おしく思っていたあの寂しさも、今はもう生まれることがないと考えれば、今の私は昔よりずっと成長したといえるのだろうか。それともやはりただの私の想像に過ぎない存在だったのだろうか。
なんでもいい。それより、私はこの気持ちに気付いたことに嘘偽りがないとしても、果たして気付いたところでそれがなんの変化になるのだろうか。実際彼とこうしてモルモットと飼い主という関係が変わるわけでもないし、多分この先それは永遠になるだろう。だから、私が心から彼を愛おしく思っているのなら私は変に気持ちを伝えることをせずに敢えて彼のそばに居られるようにこの気持ちは黙っておいた方がいいのかもしれない。たまにもらえる口付けや優しさは、彼なりのペットに対する褒美みたいなものなのだから、その微かな幸せをもらうために、私は彼のそばにいるために、これは気付けて良かったと感じながら宝箱にしまわなければならないのだ。悔しいなこれは、あの世界でこんな青春を送りたかったものだよ。
さて、自分の気持ちに溺れている場合ではない。私はこれから理解のできない彼の言葉通り支度とやらをしなければならないのだ。とはいえ私は未だまともな服を持っておらず、やはりこの病衣しか服という服がないのだから支度といえるほどの身支度はできそうにない。できることといえばせいぜい簪を挿し直すことくらいだ。
「それでいいのか」
「これしかありませんが…」
寝室から戻ってきた彼はいつもとそう変わらない白衣の姿。果たしてこれからどこへ向かうのだろうか、まさか、まさか施設に行くことを伝え忘れている彼とは思えないが。
まぁまさか、こんなことを想像できるほど寝起きの私の回転は早くないというわけでして。私の現状況を言葉で説明すると、絶賛シーツに包まれて彼の腕の中にすっぽりとはまっている状態。今まで考えたことはなかったが、これはこれで非常に心が揺れるものであることは確か。お姫様抱っこなんて物語に出てくる何かかと思っていたが、まぁそれに近しい存在であるのは確かで、意識したくないのに意識してしまう自分はそれだけ彼に溺れている証拠でもある。
ところで彼はどこに連れて行くのだろうか。頭さえ出させてもらえないこの状況は、つまりはまぁ知らないところに連れていかれているということで、それに検討がつかないのが困っている理由になる。それでもまぁ、こんないい状況をもらえたことに感謝でもしながら私はこの男の胸元にでもシーツ越しに擦り寄るか。
「桔梗ちゃん?」
「むあ?」
少し経った頃、布越しに愛しのお嫁さんの声が聞こえた。なんだろう、でも施設に入る時のあの重い扉の音は聞こえてないし、だとしたらここはアサイラムというわけか。
「どへぇ!」
「ドクター、もう少し丁重に」
「帰りに寄る」
「え、帰りが夜?」
「黙ってろ」
私は椅子に投げられるように座らされれば尾骨を痛め情けない声を上げた。全くもって彼女のいう通りなのだが、帰りが夜とは一体どういうことなのだろうか。
それから彼の声が消えたにも関わらずこの部屋に生き物の気配が複数いることに気付く。なぜ気付いたのかはわからないし私にそんな力があるとは到底思えないが、私はこの空間にいるのが少し気持ちが悪く早くこの視界を自由にしてほしいと願った。願いとは案外簡単に叶ってしまうようで、私の布をお嫁さんが撫でるように取り払ってくれる。ああ優しい、なんとおおらかで美しいお嫁さんなんだろう、それと同時に私はすぐに視線をよそへ回した。当然お嫁さんは何事かと首をかしげるのだが、気のせいではないはずの気配が、目に見えないのはなぜだろうか。私は席から立ち上がりこの部屋の様子を確認しようとした時だった。
「はぁぁあ!」
「あ"あ"あぁぁあ!!?!」
再び私の尾骨が悲鳴をあげたのは、それからすぐのことだった。