悪魔と殺人鬼
名を刻もう
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「んぁ…おはようございます」
私の少し後に目覚めた少女が、布団を被ったまま私にそう伝える。もう当たり前になったこの光景をよそに私は用意していた衣類を身に纏い朝の支度を進めた。昨日ここ数日溜め込んでいた研究を終わらせた私は、今日は自らの判断で研究所へ行くことを諦めここでの資料作成に没頭することに決めた。たまにはこんな日があっても構わないだろう、そもそも急ぐものでもなければ所詮はただの自分の欲求を満たすだけの日々の暇つぶしなのだ。
「今日は家で作業を進めるから好きにしろ」
そう声をかけて私は寝室を後にした。
昨晩の残りの煮込みものに火を通し生ぬるい溜め水で顔を洗えばようやくお目覚めの彼女は簪をセットした状態で同じ目的を果たしにきた。乱暴にタオルを投げて渡してやれば彼女はせっせと朝の支度を済ませる。先日風邪が治ったばかりの彼女だがこれ以上体調を崩されるのも面倒だったためナースに頼んでルームシューズの代わりを作ってもらったんだが、どうやらそれが嬉しかったのか彼女は毎日のようにその足でパタパタと室内を歩き回っていた。私が火にかけていた煮込みスープを皿に盛りつけナースからもらった貴重なバゲットを用意すれば今日は少し贅沢な朝食に。
「いただきます」
これが普段の朝だった。彼女が感謝の祈りを捧げて私は何も言わずに口にする。最初こそ文句を言っていた彼女も、今も不服そうにはしているのだがこれが慣れというものでそれ以来口に出すこともなくなっていた。
初めて彼女の飯を食べたあの時は些か驚かされたことを覚えている。私に触れることは愚か私に怯えて私を避けたがっていた彼女が自ら御礼といって私に渡してきたあのぐちゃぐちゃのスープは、思った以上に口にあっていて同時に鳥肌も立った。もう長いこと人にああして感謝をされたことがなければ、そもそも感謝とは程遠いことをしているのだからそれも当たり前なのだが。
朝食を終えれば彼女は溜め水に浸けておいた昨日の食器と今日のものを洗っていた。このシンクは彼女にとって少し高いらしく足元に台を置いてやっとのことだった。手を伸ばして少し丸めた背中はまるで子どものようで、しかし彼女の上げられた髪により晒される頸が、時折私をちくりと刺激するのを認めよう。何度かその肌に噛み傷を残したことがあるが、あの白い肌と柔らかさは正しく毒そのものなのだ。だから私は、彼女が用を終わらせたことを確認してからその頭に刺さる飾りに手を伸ばし、そのままスッと引き抜いた。当然この一本で結っていた髪束はばさりと重力に沿って落ち、彼女は何が起きたのか理解できないような表現をしていた。
「…」
「あ、あの」
「…はっ」
「ひいぃ…!返して返して!」
なんと情けないアホ面、私はそれを鼻で笑えば彼女は頬を染めながら顔を長い髪で隠して壁際に背中をくっつけていた。そういえば、眠っている彼女を見慣れたせいかこうして普段の生活で髪を降ろしている彼女を風呂あがり以外で見かけることは非常に少なく、ナースが言っていたことが正しければ彼女は髪を下ろした自分が気に入らないという話だったはず。壁にぴったりくっついてどうすればいいのか困っている彼女に私は近寄れば簪を目の前でちらつかせた。
「そんなに嫌か」
「返してください…」
「せっかくの、髪だろう」
一瞬言葉に詰まったのは他でもない自分の失言を曝け出そうとした結果だ。美しい、なんて口が裂けても言えなかった。まさか普段彼女のこの漆黒の髪を私がそういう目で見てると知れれば、きっと馬鹿だと思われるのは察しがつく。実際私もそう考える自分を相当な馬鹿だと思っているし、そう考える自分は彼女にそれだけ洗脳されかけているとしか思えない。
それでも彼女は嫌だと言って少しだけ怯えながら私のシャツを掴んできた。返して欲しいと、そういいながら額を必死に胸元にくっつけ顔を隠す術としている。そんな彼女の姿がなぜか私を満足させた。グリグリと額を押し付けてさりげなく簪に伸ばした手は意外と大きく、しかし私はそれを渡さないように少し遠ざけて彼女の背中にもう片方の手を回した。一体私は何がしたくてこんなことをしているんだ、苦笑いしかこぼれないこの状況で、少なくとも悪い気がしないと思ったのは私だけか、それとも彼女も同じなのか。いつか気にせずその姿を、見れる時は期待していいか。
いや、まてよ。その期待は、なんの期待だ?
私の少し後に目覚めた少女が、布団を被ったまま私にそう伝える。もう当たり前になったこの光景をよそに私は用意していた衣類を身に纏い朝の支度を進めた。昨日ここ数日溜め込んでいた研究を終わらせた私は、今日は自らの判断で研究所へ行くことを諦めここでの資料作成に没頭することに決めた。たまにはこんな日があっても構わないだろう、そもそも急ぐものでもなければ所詮はただの自分の欲求を満たすだけの日々の暇つぶしなのだ。
「今日は家で作業を進めるから好きにしろ」
そう声をかけて私は寝室を後にした。
昨晩の残りの煮込みものに火を通し生ぬるい溜め水で顔を洗えばようやくお目覚めの彼女は簪をセットした状態で同じ目的を果たしにきた。乱暴にタオルを投げて渡してやれば彼女はせっせと朝の支度を済ませる。先日風邪が治ったばかりの彼女だがこれ以上体調を崩されるのも面倒だったためナースに頼んでルームシューズの代わりを作ってもらったんだが、どうやらそれが嬉しかったのか彼女は毎日のようにその足でパタパタと室内を歩き回っていた。私が火にかけていた煮込みスープを皿に盛りつけナースからもらった貴重なバゲットを用意すれば今日は少し贅沢な朝食に。
「いただきます」
これが普段の朝だった。彼女が感謝の祈りを捧げて私は何も言わずに口にする。最初こそ文句を言っていた彼女も、今も不服そうにはしているのだがこれが慣れというものでそれ以来口に出すこともなくなっていた。
初めて彼女の飯を食べたあの時は些か驚かされたことを覚えている。私に触れることは愚か私に怯えて私を避けたがっていた彼女が自ら御礼といって私に渡してきたあのぐちゃぐちゃのスープは、思った以上に口にあっていて同時に鳥肌も立った。もう長いこと人にああして感謝をされたことがなければ、そもそも感謝とは程遠いことをしているのだからそれも当たり前なのだが。
朝食を終えれば彼女は溜め水に浸けておいた昨日の食器と今日のものを洗っていた。このシンクは彼女にとって少し高いらしく足元に台を置いてやっとのことだった。手を伸ばして少し丸めた背中はまるで子どものようで、しかし彼女の上げられた髪により晒される頸が、時折私をちくりと刺激するのを認めよう。何度かその肌に噛み傷を残したことがあるが、あの白い肌と柔らかさは正しく毒そのものなのだ。だから私は、彼女が用を終わらせたことを確認してからその頭に刺さる飾りに手を伸ばし、そのままスッと引き抜いた。当然この一本で結っていた髪束はばさりと重力に沿って落ち、彼女は何が起きたのか理解できないような表現をしていた。
「…」
「あ、あの」
「…はっ」
「ひいぃ…!返して返して!」
なんと情けないアホ面、私はそれを鼻で笑えば彼女は頬を染めながら顔を長い髪で隠して壁際に背中をくっつけていた。そういえば、眠っている彼女を見慣れたせいかこうして普段の生活で髪を降ろしている彼女を風呂あがり以外で見かけることは非常に少なく、ナースが言っていたことが正しければ彼女は髪を下ろした自分が気に入らないという話だったはず。壁にぴったりくっついてどうすればいいのか困っている彼女に私は近寄れば簪を目の前でちらつかせた。
「そんなに嫌か」
「返してください…」
「せっかくの、髪だろう」
一瞬言葉に詰まったのは他でもない自分の失言を曝け出そうとした結果だ。美しい、なんて口が裂けても言えなかった。まさか普段彼女のこの漆黒の髪を私がそういう目で見てると知れれば、きっと馬鹿だと思われるのは察しがつく。実際私もそう考える自分を相当な馬鹿だと思っているし、そう考える自分は彼女にそれだけ洗脳されかけているとしか思えない。
それでも彼女は嫌だと言って少しだけ怯えながら私のシャツを掴んできた。返して欲しいと、そういいながら額を必死に胸元にくっつけ顔を隠す術としている。そんな彼女の姿がなぜか私を満足させた。グリグリと額を押し付けてさりげなく簪に伸ばした手は意外と大きく、しかし私はそれを渡さないように少し遠ざけて彼女の背中にもう片方の手を回した。一体私は何がしたくてこんなことをしているんだ、苦笑いしかこぼれないこの状況で、少なくとも悪い気がしないと思ったのは私だけか、それとも彼女も同じなのか。いつか気にせずその姿を、見れる時は期待していいか。
いや、まてよ。その期待は、なんの期待だ?