悪魔と殺人鬼
名を刻もう
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私の体は、言うなれば宇宙空間にいるような気分でいっぱいである。とはいえ一度も宇宙に行ったこともなければ、疑似体験をした記憶もない、これは私の体が軽すぎて浮くように気持ち悪い事を示しているのだが、この空間はもしかしなくても夢の中のようで私は無気力なままため息を出してしまった。どうやら私はあの男との会話中に眠ってしまったのだ。仕方がないといえば仕方がない。何せ今の私は高熱を出すほどの酷い風邪にかかり、その上あんな暖かい空間に一人ではなく安心した状態でいることが可能だったのだ。睡眠の1つや2つどころか、いっそこのまま12時間ほど目を覚ましたくない。夢でならあの苦しみも寒さも痛みも、何も感じなくていいのだから。願わくば完治するまで目指さめなくてもいいレベルだ。
『ねぇ』
おっと、例外が一つあった。彼女の存在さえ今出てきてくれなければ、私はこの夢の住人になってもいいくらいだというのに、彼女はまた私の邪魔をしにきたのだろうか。
開いたままの口が固く閉じてくれるのなら私は今まで困ったことはそう少なかっただろう。そのまま、私は彼女の横を無視をするように素通りした。しかし、この失敗が、今までで私が一番驚かされた出来事だった。
『待ちなよ』
私の右手首をがしりと掴むのは、他ではない過去の自分であり、当然この声の主も過去の自分である。だが、彼女にこそまさしく珍しいという言葉が似合うだろう。彼女が私の夢に住むようになってから数年、初めて彼女は私に"触れることができた"のだ。互いに、いや、フレディのおじさまですら彼女に触れることができず、また私が触れようとしてもそれは同じだった彼女が、こうして彼女自ら私の腕を掴んでいるのだ。それは一体、何を意味するのか私は怖くて考えることができなかった。それとも彼女は自分の意思によって他者に触れることが今までもできたというのだろうか。
『いい加減素直になったら?じれったいよ、さっさとあんたが幸せにならなきゃ、あんたから私消えられないんだよ』
「何を言って…」
本当に、彼女は何を言っているのだろうか。仮に彼女が夢の中から消えられないとしても、彼女は所詮私の中の幻覚であり妄想であるはずなのに、それをまるで意思のある一人の魂のような、そんな語りをするのだ。いつもは早く消えろだのいなくなれだの存在意義を否定する言葉ばかりを吐くと言うのに、今日はどういう風の吹き回しか。振り返って見つめ合うその瞳は死んでいてもやはり己のものであり、きっと彼女に感情が存在するなら彼女も同じようにそれを思うのだろう。
『あんたは私を、私はあんたを』
「やめて」
『知ってるよ、私が一番気づいてる」
「うるさい!」
『あんただようるさいのは。過去の私なんてさっさと捨てて、素直になりなさいよ』
私は彼女の口から聞きたくもない言葉を必死にもがいて否定した。受け入れたくない。互いに互いをなりたい自分と思い互いに互いを存在させようとしていることを、それが憎くて彼女は私を殺そうとしていることだって本当は気づいていたことも。いつもいつも私は知らない顔をして、彼女の言葉を受け入れたくないと意思表示をしていた。それを汲み取った彼女はきっと、自分だけの意思で生きることができないことを酷く醜く思い私を恨んでいただろう。
「何の話し、してんの、よ!」
『あんたもその性格、人に言う前に直したら?』
「過去の私のくせに」
『そんな私に依存してるくせに』
全くの正論で声が出ない。私が彼女を存在させている分際で、何も言えるわけがない。ああきっとこれは悪夢なんだ、風邪をひいているせいで彼女が私の夢の中でただ暴走しているだけなんだ。どうしてこういう時におじさまが現れないのだろうか。いつもなら他愛もない話をしにきてくれる彼が、こういう時に限っていてくれないのだ。ある意味これは、私にけじめをつけろと神か何かが言っているようにも感じるが神様が本当にいるのならそもそも私をこんな世界に連れてこないでほしい。
『私は言わないわよ』
「もう散々言ったじゃない」
『違う、あんたが自分で意識しろってこと』
彼女はそう言って私の頬を目一杯叩いて、すぐに私をその腕の中に納めてきた。痛い、夢の中のはずなのに、口の中に響くほどその手のひらが痛い。過去のまま大きくなった目の前の私が、どうしてこんなにも強いのだろうか。悔しい、そんなにあの頃のままが本当にいいと思っているのだろうか。私が私自身に抱きしめられるなんて、気持ちが悪く、でも現実でそれを実現することなんてもちろんできるわけでもないから、だからこんなにもモヤモヤした気持ち。
『 』
幸せになって。彼女の口からその言葉が溢れたわけでもないのに、私の頭の中にそれが直接流れてくる。彼女は私を恨んで私も彼女を憎んで、でもどこかで互いに幸せを取ろうと思っていた過去があって、でもそれを最初に捨てたのが私だから…きっと、彼女は私を気にくわないと思っているのだ。憧れた存在が、憧れから遠ざかってしまったから。
それから私は私の腕の中で、夢の中で、もっともっと深い眠りについた。目覚めることすらできないのかもしれないと思えるほどに、少し怖い沼のようハマり方をして。しかしこの後私は彼の声掛けで簡単に目を覚ますのだ。汗ばんだ私の顔を冷たいタオルで拭いてくれる彼を、虚ろな視界におさめれば彼はそれに気付いて頭を撫でてくれる。彼が稀に私に送ってくれる優しさが、今の私を、今までの私をかき乱していて、そんな乱れがなんなのかきっとこれからも永遠にわからないものだと思っていた。そう、思って思い込んで、私が自分からその気持ちを理解しないようにと閉ざしていただけ。ああわかったよ、過去の自分がいっていたこと。これは確かに自分で直して自分で気付かなければならない、ごめんね。
そして私はようやくこの感情に名前をつける。それは深い眠りに閉じ込めていた、誰かのせいとかではなく、私自身のせいで。永遠にしてしまいそうだった、人間が持つべき感情の一つ。
頬が熱くなるのを、もう熱のせいにできないんだ。
あなたを深く、慕っていることを。
『ねぇ』
おっと、例外が一つあった。彼女の存在さえ今出てきてくれなければ、私はこの夢の住人になってもいいくらいだというのに、彼女はまた私の邪魔をしにきたのだろうか。
開いたままの口が固く閉じてくれるのなら私は今まで困ったことはそう少なかっただろう。そのまま、私は彼女の横を無視をするように素通りした。しかし、この失敗が、今までで私が一番驚かされた出来事だった。
『待ちなよ』
私の右手首をがしりと掴むのは、他ではない過去の自分であり、当然この声の主も過去の自分である。だが、彼女にこそまさしく珍しいという言葉が似合うだろう。彼女が私の夢に住むようになってから数年、初めて彼女は私に"触れることができた"のだ。互いに、いや、フレディのおじさまですら彼女に触れることができず、また私が触れようとしてもそれは同じだった彼女が、こうして彼女自ら私の腕を掴んでいるのだ。それは一体、何を意味するのか私は怖くて考えることができなかった。それとも彼女は自分の意思によって他者に触れることが今までもできたというのだろうか。
『いい加減素直になったら?じれったいよ、さっさとあんたが幸せにならなきゃ、あんたから私消えられないんだよ』
「何を言って…」
本当に、彼女は何を言っているのだろうか。仮に彼女が夢の中から消えられないとしても、彼女は所詮私の中の幻覚であり妄想であるはずなのに、それをまるで意思のある一人の魂のような、そんな語りをするのだ。いつもは早く消えろだのいなくなれだの存在意義を否定する言葉ばかりを吐くと言うのに、今日はどういう風の吹き回しか。振り返って見つめ合うその瞳は死んでいてもやはり己のものであり、きっと彼女に感情が存在するなら彼女も同じようにそれを思うのだろう。
『あんたは私を、私はあんたを』
「やめて」
『知ってるよ、私が一番気づいてる」
「うるさい!」
『あんただようるさいのは。過去の私なんてさっさと捨てて、素直になりなさいよ』
私は彼女の口から聞きたくもない言葉を必死にもがいて否定した。受け入れたくない。互いに互いをなりたい自分と思い互いに互いを存在させようとしていることを、それが憎くて彼女は私を殺そうとしていることだって本当は気づいていたことも。いつもいつも私は知らない顔をして、彼女の言葉を受け入れたくないと意思表示をしていた。それを汲み取った彼女はきっと、自分だけの意思で生きることができないことを酷く醜く思い私を恨んでいただろう。
「何の話し、してんの、よ!」
『あんたもその性格、人に言う前に直したら?』
「過去の私のくせに」
『そんな私に依存してるくせに』
全くの正論で声が出ない。私が彼女を存在させている分際で、何も言えるわけがない。ああきっとこれは悪夢なんだ、風邪をひいているせいで彼女が私の夢の中でただ暴走しているだけなんだ。どうしてこういう時におじさまが現れないのだろうか。いつもなら他愛もない話をしにきてくれる彼が、こういう時に限っていてくれないのだ。ある意味これは、私にけじめをつけろと神か何かが言っているようにも感じるが神様が本当にいるのならそもそも私をこんな世界に連れてこないでほしい。
『私は言わないわよ』
「もう散々言ったじゃない」
『違う、あんたが自分で意識しろってこと』
彼女はそう言って私の頬を目一杯叩いて、すぐに私をその腕の中に納めてきた。痛い、夢の中のはずなのに、口の中に響くほどその手のひらが痛い。過去のまま大きくなった目の前の私が、どうしてこんなにも強いのだろうか。悔しい、そんなにあの頃のままが本当にいいと思っているのだろうか。私が私自身に抱きしめられるなんて、気持ちが悪く、でも現実でそれを実現することなんてもちろんできるわけでもないから、だからこんなにもモヤモヤした気持ち。
『 』
幸せになって。彼女の口からその言葉が溢れたわけでもないのに、私の頭の中にそれが直接流れてくる。彼女は私を恨んで私も彼女を憎んで、でもどこかで互いに幸せを取ろうと思っていた過去があって、でもそれを最初に捨てたのが私だから…きっと、彼女は私を気にくわないと思っているのだ。憧れた存在が、憧れから遠ざかってしまったから。
それから私は私の腕の中で、夢の中で、もっともっと深い眠りについた。目覚めることすらできないのかもしれないと思えるほどに、少し怖い沼のようハマり方をして。しかしこの後私は彼の声掛けで簡単に目を覚ますのだ。汗ばんだ私の顔を冷たいタオルで拭いてくれる彼を、虚ろな視界におさめれば彼はそれに気付いて頭を撫でてくれる。彼が稀に私に送ってくれる優しさが、今の私を、今までの私をかき乱していて、そんな乱れがなんなのかきっとこれからも永遠にわからないものだと思っていた。そう、思って思い込んで、私が自分からその気持ちを理解しないようにと閉ざしていただけ。ああわかったよ、過去の自分がいっていたこと。これは確かに自分で直して自分で気付かなければならない、ごめんね。
そして私はようやくこの感情に名前をつける。それは深い眠りに閉じ込めていた、誰かのせいとかではなく、私自身のせいで。永遠にしてしまいそうだった、人間が持つべき感情の一つ。
頬が熱くなるのを、もう熱のせいにできないんだ。
あなたを深く、慕っていることを。