花占い
名を刻もう
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私の中の女王様。それはそれはとても気高く美しく、見た目こそわがままだと思われそうなその姿で人より慈悲深くなんと寛大な存在だと圧巻させられる、そんなお方。私の中の女王様、という存在は"そういう存在"だと思い込んでいた。こうやって過去の言い回しをするということは、今となってはその理想も崩れ、なんならこうして私の精神を破壊しようとしてきている。
この世界の女王様。それはそれはとても強く我儘で、その心に人間と同じものを決して持たない優れ者。彼女は人間や殺人鬼が生み出す感情が、大きければ大きいほどにその心を満足させる。彼女の腹には私たちの希望や絶望が詰まっていて、それらが彼女の食事になる。私たちは彼女のお腹を満たす食材でしかない。
「だから、嫌いなんだ…!」
私は誰かに屈するのも、誰かを屈させることも大嫌い。だから私は自分の理想の女王様だけが大好きだった。なのにこの世界の女王は、私たちをゲームの駒にしてその一つ一つを嗜んでいる、非道で冷酷でなんと自分勝手な女王様。でも私たちはそんな存在に逆らえないから、こうしてこの白いマスクの男、マイケル・マイヤーズことシェイプに追われているのだ。
私たちはこうして強いられる殺人鬼 ごっこの中で、私は生きることを、彼は我々を殺すことを役目としている。怯えて走り逃げる私のこの恐怖が、私を殺したいと息をあげながら追いかけてくる彼の殺意が、女王様の楽しみであり食事になる。何度殺されても生き返る私たちはそんな繰り返しをこの殺人鬼達とこの先の永遠を誓っている。解放されるときはいつだろう、と生存者達はキャンプ場で暇を潰す会話として時折その話題を上げるのだが、決まって最後は生か死かを心配するのみだった。そんな終わらないゲーム、本当に本当に、ただただ地獄を味わうだけの、女王様だけが楽しい遊び。
「あ"あっ!」
「フーッ…」
結局ハッチは見つからなかった。私以外の生存者は"もう先にキャンプへ戻っている"のに、私は一人生かされたまま長い鬼ごっこを繰り返していた。一度は撒いたと思ったこの試合が、再び彼と目を合わせればそれは次こそ終わりだ、と言われているのと同じ。発電機は後1つしかないのだが、こんな状況で回す余裕もなく私は長い時間幼稚園を走り回っていた。
でも、それももう終わり。それは私がこうして地べたに腹をくっつけて身体の力を抜いていることこそ、それを意味した。一撃、たった一撃で彼は私を殺すことができる力を持っている。だから私は彼のことが大嫌いで大嫌いで、でも少しだけ好きだった。二度もその攻撃を喰らわなくてもいいことが、私を長時間苦しめることなく終わりを与えてくれるのだ。
これでやっと、彼らと同じ場所に戻れる。早くフックに吊るしてよ。恐ろしいことに、これがまた痛くないんだから。
「あ…何」
「フーッ」
おかしいなぁ。さっきから何本ものフックを超えて彼は私を担いだままずっとずっと遠くへ行こうとしている。私ははじめから諦めもがくことをしていないせいでいつまでたっても彼の腕からもがき下りることもできず、しかし一体どこまで連れて行くのだろうかと面倒くさそうにため息を吐いた。
幼稚園の道路を挟んだ奥の家、そこには二階が存在するのだが彼は私をその家にポトリと下ろす。ハッチの音が聞こえるわけでもなければほかに何かがあるわけでもないこの家で、彼は一体何を思いこの行動をしたのだろうか。
「シェイプ、バカにしてるの?」
怯えていることを、隠したいわけではないのだが私は強い口調で彼に質問をした。私を見下ろすように立っていた彼は床に膝をついて私に顔を近づけて来る。なんだろう、このゾワっとする感覚は。ああ殺意か。
「シェイプ」
「そんなに俺が嫌いか」
「え」
喋った。いや、怖い怖い怖い。この男がとかではない、殺人鬼という存在が、私たちに語りかけることは今まで一度もなかったのだ。むしろそれが彼らに命じられた1つの規則みたいなものだとも思っていたくらいだ。彼はそう、今まさに私に話しかけている。コツリと私の額にその白い額をくっつけて、私を逃がさないと言わんばかりに両手で顔を包んで離してくれないのだ。近いとか、そういう問題ではない。彼は儀式を放り投げてこんなことをして、女王様を怒らせればその仕打ちを体で受けるのは彼なはずなのに。
「こんなことし」
「俺の質問に答えろ」
「な、嫌いに決まってるじゃない。生存者と殺人鬼の関係なんてそんな、分かってることを」
「もし」
もし、なんだ。どうしてそんな、仮面の下の顔なんて見えるわけでもないのに、彼の感情がこうも私に伝わってくるのだろうか。何かを伝えたくて、でも迷っていて、怯えていて、でも殺意もあって、彼は私にその続きを言ってどうしたいのだろうか。
「仮に、俺とお前が敵対関係でないとしたら」
「そんなのあるわけないじゃん」
「本当に、嫌いか」
あーしつこい、面倒くさい。こういうの嫌なのよ。私が、彼を好きであろうがなんだろうが、私にも彼にも関係ないじゃない。仮になんて言ってるその別の現実は、今の私たちには絶対存在しない世界なんだから。
「あーはいはい、好きよ好き」
「…何?」
「聞こえた?好きって言ったのよ、殺されるのは本当に本当に大嫌いだけれどね」
どんな答えを返したら満足するかなんて知らない、だから私は嘘のような本当を言った。それの何が悪い?何も悪くないでしょう。
「そうか」
彼は私の頬を掴んだままその額をそっと離して顔をずらしてきた。どうしたのか、そんなことを考える前には、私たちはマスク越しではあるが口づけをしていた。口づけを、口づけ。口づけ?
「なーななななな」
「俺も好きだ」
「いいやいやいや」
嫌がらないで、どこかそう言わんばかりに寂しそうな感情が私に流れてくる。彼は何度もマスク越しではあるが焦る私の唇を貪る。ああきっとこれは、口づけではあるが、口づけにはならないだろう。例えるなら、学園祭の劇中に王子様とお姫様がキスをするシーンを、あたかもしている風に見せる時にサランラップで互いの間に壁を作るような。まさにそんな感じだ。しているようでしていない、私は彼の唇に直接触れていないし、また彼もそれは同じなんだから。でも、それでもおかしいよ。これは劇ではない、蹴落とし合いの、本物のサバイバル鬼ごっこなんだ。殺人鬼とこんなことして、なんて、なんて破廉恥な。
「ん、わ、ちょっと」
「…あぁ、ごめん」
「いや違うんーーー!」
彼は私の言葉をどう勘違いしたのだろうか。マスクを少しだけずらして中から金の髪が無造作に散らばる様子が見えればそのガサガサの唇で、そう、今度は本物の唇で私に口づけをしてきた。私の、ファーストキスではないけれど、それでも大切な唇を、いとも容易く奪ったこの男。ああ、おかしい、彼がくれる長い口づけが、私を。
「ん、ふぅ…!」
「……っは、桔梗」
「んや……」
名前を。私の口内を、あんたの舌が混乱させて、そんな口で私の名前を呼ばないでよ。こんな、ふしだらな、溶けるような口づけを。こんなことされれば私はもっと、彼を、他の方向から好きになってしまうじゃない。こんな絶望した世界で、彼しか輝きがなくなって、溺れてしまうかもしれないというのに。
「…………っへ」
「はぁ……そんな顔するな」
「……あんたの、せい…」
自分でもわかるほど意識が薄れて、目がとろけているのが悔しい。彼の口づけが上手いとか、そんなのではない。自分が想った以上に彼のことが気になっていた証拠だ。だから私は、もっと強く抵抗できるはずなのにそれができなかったんだ。ああダメ、こんな絶望の世界で、こんな小さな幸せが欲しくて、私は敵に堕ちてしまうなんて。
「この儀式はもう、女王様を満足させたらしい」
「あ、そ…」
「俺は君を、その褒美として…悪いが連れて帰る」
「……は?」
「おやすみ」
彼の言葉が、呪文のように私を眠りに誘ってくる。いや、このまま私は、彼の元に行くとしたら、それは生存者として?それとも殺人鬼として?はたまた彼の、ものに……
意識の奥で再び受けた口付けを、女王様は楽しそうに眺めている気がして、耳を掠った嘲笑う声が酷く気持ちが悪く聞こえた。
やはり、私は女王様、あんたが大嫌いだ。でも私は彼のことが…少しだけ。
少しだけ。
あとがき
リクエスト、シェイプと甘いお話。を書かせていただきました。さて甘いのかなんなのかわかりませんね(おい)
2つのリクエストを下さったlyra様、楽しいお話書かせていただきましたありがとうございます!ビリーくん夢では優鬼に会うたびにビリーくんとの夢を思い浮かべます、だなんて最高の褒め言葉をいただきました。嬉しかった( ∩´ω`*∩)
またの機会がありましたら、その際はよろしくお願い致します!皆様の心に刺さると大変感激致します。
この世界の女王様。それはそれはとても強く我儘で、その心に人間と同じものを決して持たない優れ者。彼女は人間や殺人鬼が生み出す感情が、大きければ大きいほどにその心を満足させる。彼女の腹には私たちの希望や絶望が詰まっていて、それらが彼女の食事になる。私たちは彼女のお腹を満たす食材でしかない。
「だから、嫌いなんだ…!」
私は誰かに屈するのも、誰かを屈させることも大嫌い。だから私は自分の理想の女王様だけが大好きだった。なのにこの世界の女王は、私たちをゲームの駒にしてその一つ一つを嗜んでいる、非道で冷酷でなんと自分勝手な女王様。でも私たちはそんな存在に逆らえないから、こうしてこの白いマスクの男、マイケル・マイヤーズことシェイプに追われているのだ。
私たちはこうして強いられる
「あ"あっ!」
「フーッ…」
結局ハッチは見つからなかった。私以外の生存者は"もう先にキャンプへ戻っている"のに、私は一人生かされたまま長い鬼ごっこを繰り返していた。一度は撒いたと思ったこの試合が、再び彼と目を合わせればそれは次こそ終わりだ、と言われているのと同じ。発電機は後1つしかないのだが、こんな状況で回す余裕もなく私は長い時間幼稚園を走り回っていた。
でも、それももう終わり。それは私がこうして地べたに腹をくっつけて身体の力を抜いていることこそ、それを意味した。一撃、たった一撃で彼は私を殺すことができる力を持っている。だから私は彼のことが大嫌いで大嫌いで、でも少しだけ好きだった。二度もその攻撃を喰らわなくてもいいことが、私を長時間苦しめることなく終わりを与えてくれるのだ。
これでやっと、彼らと同じ場所に戻れる。早くフックに吊るしてよ。恐ろしいことに、これがまた痛くないんだから。
「あ…何」
「フーッ」
おかしいなぁ。さっきから何本ものフックを超えて彼は私を担いだままずっとずっと遠くへ行こうとしている。私ははじめから諦めもがくことをしていないせいでいつまでたっても彼の腕からもがき下りることもできず、しかし一体どこまで連れて行くのだろうかと面倒くさそうにため息を吐いた。
幼稚園の道路を挟んだ奥の家、そこには二階が存在するのだが彼は私をその家にポトリと下ろす。ハッチの音が聞こえるわけでもなければほかに何かがあるわけでもないこの家で、彼は一体何を思いこの行動をしたのだろうか。
「シェイプ、バカにしてるの?」
怯えていることを、隠したいわけではないのだが私は強い口調で彼に質問をした。私を見下ろすように立っていた彼は床に膝をついて私に顔を近づけて来る。なんだろう、このゾワっとする感覚は。ああ殺意か。
「シェイプ」
「そんなに俺が嫌いか」
「え」
喋った。いや、怖い怖い怖い。この男がとかではない、殺人鬼という存在が、私たちに語りかけることは今まで一度もなかったのだ。むしろそれが彼らに命じられた1つの規則みたいなものだとも思っていたくらいだ。彼はそう、今まさに私に話しかけている。コツリと私の額にその白い額をくっつけて、私を逃がさないと言わんばかりに両手で顔を包んで離してくれないのだ。近いとか、そういう問題ではない。彼は儀式を放り投げてこんなことをして、女王様を怒らせればその仕打ちを体で受けるのは彼なはずなのに。
「こんなことし」
「俺の質問に答えろ」
「な、嫌いに決まってるじゃない。生存者と殺人鬼の関係なんてそんな、分かってることを」
「もし」
もし、なんだ。どうしてそんな、仮面の下の顔なんて見えるわけでもないのに、彼の感情がこうも私に伝わってくるのだろうか。何かを伝えたくて、でも迷っていて、怯えていて、でも殺意もあって、彼は私にその続きを言ってどうしたいのだろうか。
「仮に、俺とお前が敵対関係でないとしたら」
「そんなのあるわけないじゃん」
「本当に、嫌いか」
あーしつこい、面倒くさい。こういうの嫌なのよ。私が、彼を好きであろうがなんだろうが、私にも彼にも関係ないじゃない。仮になんて言ってるその別の現実は、今の私たちには絶対存在しない世界なんだから。
「あーはいはい、好きよ好き」
「…何?」
「聞こえた?好きって言ったのよ、殺されるのは本当に本当に大嫌いだけれどね」
どんな答えを返したら満足するかなんて知らない、だから私は嘘のような本当を言った。それの何が悪い?何も悪くないでしょう。
「そうか」
彼は私の頬を掴んだままその額をそっと離して顔をずらしてきた。どうしたのか、そんなことを考える前には、私たちはマスク越しではあるが口づけをしていた。口づけを、口づけ。口づけ?
「なーななななな」
「俺も好きだ」
「いいやいやいや」
嫌がらないで、どこかそう言わんばかりに寂しそうな感情が私に流れてくる。彼は何度もマスク越しではあるが焦る私の唇を貪る。ああきっとこれは、口づけではあるが、口づけにはならないだろう。例えるなら、学園祭の劇中に王子様とお姫様がキスをするシーンを、あたかもしている風に見せる時にサランラップで互いの間に壁を作るような。まさにそんな感じだ。しているようでしていない、私は彼の唇に直接触れていないし、また彼もそれは同じなんだから。でも、それでもおかしいよ。これは劇ではない、蹴落とし合いの、本物のサバイバル鬼ごっこなんだ。殺人鬼とこんなことして、なんて、なんて破廉恥な。
「ん、わ、ちょっと」
「…あぁ、ごめん」
「いや違うんーーー!」
彼は私の言葉をどう勘違いしたのだろうか。マスクを少しだけずらして中から金の髪が無造作に散らばる様子が見えればそのガサガサの唇で、そう、今度は本物の唇で私に口づけをしてきた。私の、ファーストキスではないけれど、それでも大切な唇を、いとも容易く奪ったこの男。ああ、おかしい、彼がくれる長い口づけが、私を。
「ん、ふぅ…!」
「……っは、桔梗」
「んや……」
名前を。私の口内を、あんたの舌が混乱させて、そんな口で私の名前を呼ばないでよ。こんな、ふしだらな、溶けるような口づけを。こんなことされれば私はもっと、彼を、他の方向から好きになってしまうじゃない。こんな絶望した世界で、彼しか輝きがなくなって、溺れてしまうかもしれないというのに。
「…………っへ」
「はぁ……そんな顔するな」
「……あんたの、せい…」
自分でもわかるほど意識が薄れて、目がとろけているのが悔しい。彼の口づけが上手いとか、そんなのではない。自分が想った以上に彼のことが気になっていた証拠だ。だから私は、もっと強く抵抗できるはずなのにそれができなかったんだ。ああダメ、こんな絶望の世界で、こんな小さな幸せが欲しくて、私は敵に堕ちてしまうなんて。
「この儀式はもう、女王様を満足させたらしい」
「あ、そ…」
「俺は君を、その褒美として…悪いが連れて帰る」
「……は?」
「おやすみ」
彼の言葉が、呪文のように私を眠りに誘ってくる。いや、このまま私は、彼の元に行くとしたら、それは生存者として?それとも殺人鬼として?はたまた彼の、ものに……
意識の奥で再び受けた口付けを、女王様は楽しそうに眺めている気がして、耳を掠った嘲笑う声が酷く気持ちが悪く聞こえた。
やはり、私は女王様、あんたが大嫌いだ。でも私は彼のことが…少しだけ。
少しだけ。
あとがき
リクエスト、シェイプと甘いお話。を書かせていただきました。さて甘いのかなんなのかわかりませんね(おい)
2つのリクエストを下さったlyra様、楽しいお話書かせていただきましたありがとうございます!ビリーくん夢では優鬼に会うたびにビリーくんとの夢を思い浮かべます、だなんて最高の褒め言葉をいただきました。嬉しかった( ∩´ω`*∩)
またの機会がありましたら、その際はよろしくお願い致します!皆様の心に刺さると大変感激致します。
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