悪魔と殺人鬼
名を刻もう
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エンティティの目的、考え、存在、そしてその全てが私たち殺人鬼には未知のまま_____女王にとって一番といえるほど近しい存在の我々ですらその全てを把握していない。いや、もしかしたら奴にとってもっと近しい存在は他にいるのかもしれないが。ともあれ、私は女王から与えられた褒美をどう破壊してやろうと考えていた。そう易々と死なれても困るが、私の手で一思いに殺すのも案外悪くはない。はたまた実験に実験を繰り返し私達と同じ存在を作るのも一つの手ではあるが、驚くほど力のあるあの瞳は、私を唯一惹きつけた魅力____謂わば宝石だ。
女性の中で人より美人だと高い評価を与えられる程でもなく、また身体の発育が白人ほど豊かなわけでもなく。本当に未熟で、見た目ほど脆そうなものは無いというのに。少し長い睫毛の下で、漆黒ながら生きる力を見出しているあの一際目立った瞳。敵対する生き物である私に、無知ながらもそれを向けた彼女が全て悪い。これから酷く醜い姿にされるのか、このまま目を覚まさずに命を落とすのか、それともその瞳のように懸命に生きここから逃げるのか。もちろん最後の選択肢を彼女に渡すはずはないが、どちらにせよどれを望んでも彼女にとっては悲劇であり、その悲劇を生んだのは紛れもなく彼女自身なのだ。恨みたいなら己のその生存意欲ハツラツな態度を恨めばいい。
2ヶ月程前、ここレリー研究所へ迷い込んだ彼女はあの後私のオペを受け、今に至る。身体の芯にあんな太いフックが刺さったのだ、勿論回復も遅く彼女の胸元には大きな縫い目ができた。そして今、この女は小さな体を白いベッドに全て任せるように死んでいる。いや、訂正しよう。死んでなどいない。時折小さく唸り声をあげて、その胸元の膨らみを上下させるのだから確認せずとも生きていることくらいわかる。なにより生体情報モニタが彼女の生死を物語る。
そもそもおかしな話だった。ほかのサバイバー共は三度目にフックへ吊るされた時、初めてエンティティに捧げられるが…あんな太いフックを身体の芯に刺されれば、大概の人間は気を失うか痛みに狂いそうになるか、あるいは"死"も考えられる。なのに運が良ければ逃げ出すこともでき、なんなら助けられた後手当をすれば短時間で動けるようになる。ゴキブリ並みの生命力だが、奴らはいつだって目が生きていない。エンティティは訓練をした特殊な人間共を儀式に呼ぶのは何故だろうか。この女のようになんの知識もなく、情けないざまの人間の方が圧倒的に無駄な時間を費やすこともなく生贄を手に入れられるというのに___あんなに手間をかける必要があるのだろうか。
もし、エンティティにとってあれは儀式ではなく、本当は女王を楽しませる遊び だとすれば。私達も、人間共も、もしかしたらそれらの一つの駒でしかないのかもしれない。
「ドクター」
音もなく後ろで揺れる我々の仲間の一人がそう呟く。どこか心配そうに、しかしその声に生きているような気配を感じられない。当たり前だ、彼女もとっくの前に死んでいる。
「どうしたナース、今日はもう帰っていいと言ったはずだが」
こんな時間に何かあっては、とらしくもないことを口走ろうとしたが、それを喉の途中で止めたことは己にとって最も正しい選択だった。我々の方が"何かをあわせる側"の生き物なのに今更なにを、そう思いながら彼女の方へ首だけを向けた。
「ドクター、彼女はもう2ヶ月も眠っています。本当に起きるのかしら。起きたとしても、彼女の存在をほかの仲間にどう説明」
「別にこいつのことは誰にも話さなくていい、あくまで私の実験体だ」
「本当に?」
なんだその言葉は。私は狂気をまとった研究者として前世を歩んできた。その本当に、という言葉はなんだ、その言葉にお前はなにを込めたんだ。まさか私がこの女を実験体以外に使うとでも?それ以外の使い方など営みとしての奴隷か、はたまた実験もせずにこのまま無残に殺すことしか思いつかない。どちらにせよ私からすれば実験体に変わりがない。
「他になにがある、これはエンティティからの褒美みたいなものだ。それともナース、お前も褒美として実験体が欲しいのか?」
「あなたと一緒にしないでドクター」
「何、変わらないだろう」
「ハハハ」と乾いた笑い声はこの空間に痛く響く。いつの日か、エンティティの気が変わってこの女を生贄によこせと言ってくるかもしれない、それでも私はなんの問題もない。あくまでこいつは上からの献上品、取られない限りは私が好きなように壊していいということだ。それ以上の褒美が私の中で生まれることはない、今までも、この先もだ。
「もう帰れ、明日また様子を見にくればいいだろう」
「そうね、それではお先に…」
ナースの最後の言葉が、その場を去るとともに掠れるように聞こえた。帰りですら能力を使って移動するのか…ああ、今日はくだらない考え事ばかりをする日だな。そう思った時だった。
ピッ_____ピッ_____ピピッ__ピピッ__
モニターのグラフに目を向ければやはりそうだ、彼女の心拍数が上がっている。というよりは、通常の心拍数に戻りつつあった。極限まで下がっていた心拍数が、2ヶ月ぶりに悲鳴をあげたのだ。彼女の元まで足を運び、そしてそっと目尻を指先でなぞる。この下に彼女は彼女自身気付いていない宝を隠している。
そうだ、これだ。
この女の最初の実験はこの宝だ。
「私のモルモットだ」
この女が死ぬのか生きるのか、それは俺が決め、俺が行動に移す。この女の命は常に俺の中で縛られ続けているのと同じだ。
早く目覚めろ、そして無駄な2ヶ月をさっさと返せ。
女性の中で人より美人だと高い評価を与えられる程でもなく、また身体の発育が白人ほど豊かなわけでもなく。本当に未熟で、見た目ほど脆そうなものは無いというのに。少し長い睫毛の下で、漆黒ながら生きる力を見出しているあの一際目立った瞳。敵対する生き物である私に、無知ながらもそれを向けた彼女が全て悪い。これから酷く醜い姿にされるのか、このまま目を覚まさずに命を落とすのか、それともその瞳のように懸命に生きここから逃げるのか。もちろん最後の選択肢を彼女に渡すはずはないが、どちらにせよどれを望んでも彼女にとっては悲劇であり、その悲劇を生んだのは紛れもなく彼女自身なのだ。恨みたいなら己のその生存意欲ハツラツな態度を恨めばいい。
2ヶ月程前、ここレリー研究所へ迷い込んだ彼女はあの後私のオペを受け、今に至る。身体の芯にあんな太いフックが刺さったのだ、勿論回復も遅く彼女の胸元には大きな縫い目ができた。そして今、この女は小さな体を白いベッドに全て任せるように死んでいる。いや、訂正しよう。死んでなどいない。時折小さく唸り声をあげて、その胸元の膨らみを上下させるのだから確認せずとも生きていることくらいわかる。なにより生体情報モニタが彼女の生死を物語る。
そもそもおかしな話だった。ほかのサバイバー共は三度目にフックへ吊るされた時、初めてエンティティに捧げられるが…あんな太いフックを身体の芯に刺されれば、大概の人間は気を失うか痛みに狂いそうになるか、あるいは"死"も考えられる。なのに運が良ければ逃げ出すこともでき、なんなら助けられた後手当をすれば短時間で動けるようになる。ゴキブリ並みの生命力だが、奴らはいつだって目が生きていない。エンティティは訓練をした特殊な人間共を儀式に呼ぶのは何故だろうか。この女のようになんの知識もなく、情けないざまの人間の方が圧倒的に無駄な時間を費やすこともなく生贄を手に入れられるというのに___あんなに手間をかける必要があるのだろうか。
もし、エンティティにとってあれは儀式ではなく、本当は女王を楽しませる
「ドクター」
音もなく後ろで揺れる我々の仲間の一人がそう呟く。どこか心配そうに、しかしその声に生きているような気配を感じられない。当たり前だ、彼女もとっくの前に死んでいる。
「どうしたナース、今日はもう帰っていいと言ったはずだが」
こんな時間に何かあっては、とらしくもないことを口走ろうとしたが、それを喉の途中で止めたことは己にとって最も正しい選択だった。我々の方が"何かをあわせる側"の生き物なのに今更なにを、そう思いながら彼女の方へ首だけを向けた。
「ドクター、彼女はもう2ヶ月も眠っています。本当に起きるのかしら。起きたとしても、彼女の存在をほかの仲間にどう説明」
「別にこいつのことは誰にも話さなくていい、あくまで私の実験体だ」
「本当に?」
なんだその言葉は。私は狂気をまとった研究者として前世を歩んできた。その本当に、という言葉はなんだ、その言葉にお前はなにを込めたんだ。まさか私がこの女を実験体以外に使うとでも?それ以外の使い方など営みとしての奴隷か、はたまた実験もせずにこのまま無残に殺すことしか思いつかない。どちらにせよ私からすれば実験体に変わりがない。
「他になにがある、これはエンティティからの褒美みたいなものだ。それともナース、お前も褒美として実験体が欲しいのか?」
「あなたと一緒にしないでドクター」
「何、変わらないだろう」
「ハハハ」と乾いた笑い声はこの空間に痛く響く。いつの日か、エンティティの気が変わってこの女を生贄によこせと言ってくるかもしれない、それでも私はなんの問題もない。あくまでこいつは上からの献上品、取られない限りは私が好きなように壊していいということだ。それ以上の褒美が私の中で生まれることはない、今までも、この先もだ。
「もう帰れ、明日また様子を見にくればいいだろう」
「そうね、それではお先に…」
ナースの最後の言葉が、その場を去るとともに掠れるように聞こえた。帰りですら能力を使って移動するのか…ああ、今日はくだらない考え事ばかりをする日だな。そう思った時だった。
ピッ_____ピッ_____ピピッ__ピピッ__
モニターのグラフに目を向ければやはりそうだ、彼女の心拍数が上がっている。というよりは、通常の心拍数に戻りつつあった。極限まで下がっていた心拍数が、2ヶ月ぶりに悲鳴をあげたのだ。彼女の元まで足を運び、そしてそっと目尻を指先でなぞる。この下に彼女は彼女自身気付いていない宝を隠している。
そうだ、これだ。
この女の最初の実験はこの宝だ。
「私のモルモットだ」
この女が死ぬのか生きるのか、それは俺が決め、俺が行動に移す。この女の命は常に俺の中で縛られ続けているのと同じだ。
早く目覚めろ、そして無駄な2ヶ月をさっさと返せ。